483.事なかれ主義者は人を盾にした
タカノリさんが邪神の信奉者を捕らえたという報告から一週間が過ぎた。
報告はあったけど、特に僕がする事は変わらない。
朝起きたら夫婦の営みを済ませ、お風呂に入り、朝ご飯をのんびりと食べて世界樹の世話をする。
世話はサクッと終わるのでその後はノエルの部屋に入り浸り、マネキンゴーレム用の魔法をせっせと魔石に【付与】したり、『身代わりのお守り』を作ったりした。
マネキンゴーレムの廉価版もノエルがノルマをこなした後に開発してくれたので、だいぶ楽になってきた。
それでも邪神の信奉者対策の魔道具はあればあるだけ良いという事で『鑑定眼鏡』やら『加護封じ』シリーズの魔道具を作り続けているとお昼前には魔力の残量がほとんどなくなる。
倦怠感を感じつつ、お昼ご飯を済ませ、お昼寝をしているといつの間にかお嫁さんも添い寝していたり、ドライアドも一緒に日向ぼっこをしていたり、元気が有り余っているパメラを筆頭に幼女たちに連れ回されたりして夜を迎える。
夕食を食べた後はお世話係の人とお風呂に入るんだけど、その後の夜はとても長い。
「そのうち干からびそう……」
他の大陸に行っている間は夫婦の営みは無し、という事になっているので月全体でみると頻度は下がっていると思ったけど、朝も夜もしていたら回数的には変わらない気がするし、一回の人数が倍以上になる時があるしでやばい。
本当にこれ以上お嫁さんは増やさないようにしないと……。
なんか新しく拠点になりつつあるミスティア大陸の国から打診が来たり、クレストラ大陸の国々から縁談の申し込みの手紙が届いたりしているらしいけど、全部丁重にお断りしておいてもらおう。
「過去の勇者は三十人以上を娶った、という記録もあるそうですよ」
「よそはよそ、うちはうちだから」
急遽、本日のお世話係になったディアーヌさんがクスクスと笑いながらも「もう少し強くこすってあげてください」とランチェッタさんに背中の洗い方をレクチャーしていた。
ごしごしと僕の背中をタオルで擦っているランチェッタさんは言われたとおりに少し力を強めた。
二人とも湯浴み着……というか水着姿だ。
ランチェッタさんは露出は少なめだけど規格外の大きさの胸はどうしても目立つ。
ディアーヌさんは布面積が少ない白い水着を着ていた。褐色の肌がより際立っていてついつい視線が肌に向かってしまう。
あんまりじろじろと見ているといろいろとやばいので、二人とも鏡越しに見てしまわないように気を付けつつ、意識を別の事に向ける。
「それよりも、シグニール大陸では呪いの方はどうなっているの?」
「各国それぞれ対応しているけど、あまり芳しくないわ。クレストラ大陸のように国際的な組織を作り上げて対応も検討しているけど、すべての国が参加するかは微妙な所ね。マネキンゴーレムのおかげで、軽症者が重症化する事はなくなったけど、いまだに新しく呪われる人々が増えているわ」
「生活している以上、誰とも接触しない、というのは難しいですからね」
ディアーヌさんが後ろからスッと手を伸ばしてシャワーヘッドを手に取った。そろそろ終わりのようだ。
ランチェッタさんはディアーヌさんからシャワーヘッドを受け取ると、魔力を込めて慣れない手つきで泡を流し始めた。
「他の部分はどうされますか? ランチェッタ様に手取り足取りお教えするために洗わせていただけると助かるのですが……」
「教えなくていいから」
「あら、今回の当番は麻雀大会のご褒美として貰っている物だったと思ったんですけど、違いましたか?」
「そうだけど、それは僕が許容できる範囲内でお願いって言ったよね?」
「そうでした、うっかり忘れてしまってました」
ディアーヌさんはすっとぼけながらもランチェッタさんに洗い流しを指摘している。
ランチェッタさんはそれに従いながらも、先程から繰り返し聞いている事をもう一度ディアーヌさんに聞いた。
「本当にあなたのご褒美をこんな事に使ってよかったの?」
「はい。一時間でできる事なんて限られてますから。二人きりのデートも考えましたが、行きたいところも特に思いつきませんでしたし、こうしてのんびりとお風呂に入る時間を頂けただけで満足です。本当だったら湯浴み着なしで一緒に入りたかったのですけど……」
「許容範囲を超えているのでダメですー」
「夜伽をしているのに、今更じゃないですか?」
「暗い所と明るい所じゃ状況が異なるから!」
「ああ、だから朝はあんなに恥ずかしがってるんですね」
鏡越しに見えたディアーヌさんは、にやりと意地の悪い笑みを浮かべている。絶対あれは何か企んでいる顔だ。
だけど、ランチェッタさんと楽しくお話をしている間はちょっかいをかけて来ない事は知っている。だから僕は、ランチェッタさんと意識的に他愛もない話をし続けた。
その後、ランチェッタさんを盾にしてもディアーヌさんの猛攻を防ぐ事はできなかったけど、ディアーヌさんが楽しそうに声を上げて笑っていたのでまあ良しとしよう。




