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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第22章 安全第一で生きていこう

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幕間の物語228.自称お姉ちゃんはたくさん食べさせた

 不毛の大地にあるファマリアは、日が暮れても町の中は明るい。

 魔動灯と呼ばれる魔道具によって照らされた通りは夜が更けていくごとに人通りが少なくなっていくが、まだ日が暮れて間もない時間帯だったため、多くの奴隷が仕事終わりにお小遣いを握りしめて買い物や夕食を楽しんでいた。

 災害発生時に一時避難所として町の各地に作られた噴水の広場では、奴隷の証である首輪を着けた若い男女が待ち合わせをしている姿も見受けられた。

 彼らの主人が奴隷たちにも自由恋愛を推奨しているためだが、この世界の常識では考えられない事だった。

 ただ、もうこの土地の考え方に染まった奴隷たちや、根を張って商売をしている商人たちには見慣れた光景だった。

 また、シズトの嫁であるルウにとっても、当たり前の光景になりつつあった。

 楽しそうに駆けていく男の子と女の子を自然と目で追っている彼女は、普段の装いと違った。

 ハイウエストのフレアスカートに白い長袖のトップスの裾を入れている事もあり、いつも以上に足が長く見える。

 大きな胸の膨らみからキュッと絞られた腰回りを見てもスタイルの良さは見て取れた。

 黒いスカートに合わせて、黒いブーツを履いているのは多少武装していないと安心できないからだったが、それでも見た目がごつくなってしまわないように特注した靴だ。

 腰まで伸ばされた真っ赤な髪は後ろで一つに結われている。

 普段着が冒険者として活動しやすい事に重点を置いていた彼女だったが、今は普段しないおしゃれを彼女なりに精一杯頑張ってしていた。

 待ち人にどう思ってもらえるだろうか、とそわそわした気持ちを押さえつけ、初々しい幼い子のカップルを見守っていた彼女だったが、気づいた時にはすぐ近くに待ち人がいてビクッと驚いた様子だった。


「お待たせ、ルウさん。いつもと雰囲気違うね? 僕もいつもと違う格好にすればよかったかな?」


 申し訳なさそうに眉を下げて自分の服装を見たのは彼女の夫であるシズトだ。

 二人がここで待ち合わせをしていたのは、イルミンスールで行われた麻雀大会の順位に応じた権利をルウが行使して、夜のデートを希望したからだ。

 ルウはシズトの視線を追って、彼の服装を見てみた。

 カジュアルな服装だったが、これから行く場所は別にフォーマルな格好が必要な場所ではない。

 むしろ、自分の格好の方が浮いてしまうだろうと予想がついていたので「大丈夫よ」とだけシズトに伝えて立ち上がった。

 彼女が手を差し出すと、シズトは周囲を気にしつつも手を握った。ただ、ルウは繋ぎ方が望んでいたものと異なったので繋ぎ直した。いわゆる恋人つなぎというものである。


「それじゃ、行きましょ」

「美味しいご飯を出してくれるところに行くんだったよね?」

「ええ。お酒も美味しいから飲みたかったら飲んでもいいからね? 飲みすぎちゃったらお姉ちゃんが介抱してあげるから!」

「いや、お酒は二十歳からって前世では言われてたから飲まないと思う。…………それより、ルウさんも貸し切りにしてたりしない?」

「お店を? してないわよ? ……ああ、ユキちゃんはしそうよね。あとホムラちゃんも」

「あー……しそう。っていうか、ホムラの方がしそう。お高そうな場所貸し切りにしそうでちょっと心配になるから帰ったら釘刺しておこうかな……」

「でも、ホムラちゃんにも好きな事させてあげるんでしょ? ユキちゃんには貸し切りにさせてあげたのにそれは可哀想じゃないかしら?」

「あー……まあ、確かに?」


 でもなぁ、と困ったような顔をするシズトを見ていたルウは、結局したい事をさせるんだろうなぁ、と思い微笑んだ。

 文句は言うが身内には甘いのが彼女の夫だ。そんな彼がルウは好きだった。

 ただ、今日、この時間だけは自分だけのものだ。精一杯甘えてもらって、自分も甘えようと考えた彼女はひょいっとシズトをお姫様抱っこすると、慌てる様子の彼を楽しみつつズンズンと自分の歩調で目的地まで突き進んだ。




 目的地は外縁区に新しくできた大人向けのバーだった。

 意図的に薄暗くされた店内をほんのりと照らす魔道具を見て「あれはノエルのかな」なんて呟きつつ、ルウにお姫様抱っこのまま運ばれるシズト。抵抗するのが無駄だと悟ったようだ。

 二人の後をついて来ていた子どもたちは入り口で止められて、店外へと誘導されていた。

 様子を見るためにひょこっと窓の外から顔を出しているが、やっぱり店の用心棒っぽい見た目の人物が追い払っていた。ただ、彼もまたシズトの奴隷である。

 無理に追い払う事をせず、後で様子を話すから、と説得して解散させていた。

 そんな事になっていると全く気付いた様子もないシズトは、奥の方のテーブル席に案内されて、やっと下ろされた。

 二人座れるソファーが壁際にあり、その正面には一人用の椅子が二つある。

 彼が下ろされたのはソファーだった。

 やっと下ろしてもらえた、と一息ついた彼だったが、奥に追いやられてその隣にルウが座った。

 壁とルウに挟まれた形になったシズトは、隣に座っているルウを見たが、嬉しそうな彼女を見てため息をついて諦めた。


「ほら、この方がメニューを見やすいでしょ?」

「そうですね」

「それに、シズトくんがすぐ近くにいるって感じられるし!」

「そっちが目的ですよね」

「当たり前じゃない」


 ルウは何を当たり前のことを言うんだろう? と不思議そうにシズトを見た。

 シズトは諦めるしかないか、とちょっと空けていた隙間を詰めて、彼女の隣でメニューを覗き込む。

 ルウは、シズトの方から距離を詰めてくれたことを喜んでいたが、シズトはただ周囲が薄暗い事もあって見え辛いから詰めただけだった。

 メニューを見終わると距離をまた空けようとした彼の腰に手を回してルウはがっしりと彼の体を固定した。

 当然、彼女の柔らかな体といい香りがシズトを襲う。

 顔が赤くなっているが、薄暗い事もあって周囲には気づかれている様子はなかった。


「それじゃ、好きなだけ飲んだり食べたりしてね!」

「飲むことはないと思うよ」

「過去の勇者様直伝のノンアルコールカクテルもあるから大丈夫よ!」

「そうなの? じゃあ、とりあえず飲んでみようかな」


 その後、ルウが大量に注文した料理をシズトは少しずつ食べる事になった。

 ただ、ルウが食べさせる事を希望したため、何回も雛鳥のように口を開けて「あーん」する事になったり、酒が進んでよりスキンシップが激しくなったルウに何度も抱き着かれたりキスを迫られたりするとは、この時のシズトは知る由もなかった。

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