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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第22章 安全第一で生きていこう

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456.事なかれ主義者は振り絞るのに時間がかかった

 人が通ってできた道っぽい所を一時間ほど進むと、開けた土地に出た。

 最初に目に入ってきたのは雲の上まで伸びている世界樹だ。見えている限りの枝の先には葉っぱは一つもなく、葉っぱが全部落ちてしまった真冬の木みたいな見た目になっている。ただ、青バラちゃん曰く、眠っているだけらしい。

 次に目に入ってくるのは、世界樹の近くに伏せている大きな緑色のドラゴンだ。

 なんかいかにも植物魔法を使いそうな見た目をしているそのドラゴンの鱗は苔のような緑色の物で覆われている。背中の部分には背びれのように植物が生えていて、花を咲かせていたり、実がなっていたりする。

 大きさもファマリーの根元で眠っているフェンリルよりも何倍も大きい。緑色の瞳でまっすぐに僕たちを見ているけど、向こうからのアクションはない。

 そして、最後に視界に入ったのは、おそらくこの世界樹の近くで生息しているドライアドたちだ。

 ドラゴンによじ登って日向ぼっこをしているようだ。ドラゴンから色とりどりの花が咲いているな、と思ったらドライアドたちの頭の上に咲いている花だった。

 他の所のドライアドと決定的に違うのは肌の色だろう。ここの子たちは緑色の肌をしていた。それがドラゴンに生えている苔と同化していて最初分からなかったけど、青バラちゃんが「ここの子たちがいる!」と教えてくれたので分かった。


「シズト様、よろしくお願いします」


 案内をしてくれていたキラリーさんが脇に退いて、世界樹の方を示したけど、じろりと見てくるドラゴンが怖いっす。


「あれがエンシェントツリードラゴンか」

「実物を見るのは初めてね」

「ドラゴンって基本Sランク以上なんだよね? あのドラゴンはSランクの中でどのくらいなの?」


 僕の前に出ていたラオさんとルウさんがドラゴンから目を逸らす事無く、話をしていたので気になっていた事を聞いてみたが、しばらく考えてからラオさんが答えてくれた。


「年数にもよるが、あれだけ大きいとなぁ……Sランクの冒険者を総動員しても倒せない可能性が高いな」

「なにそれ、絶対敵対したくないんですけど」

「そうね。まあ、シズトくんの魔道具のおかげで、逃げるだけはできるでしょうけど」


 ルウさんは『帰還の指輪』と呼んでいる魔道具をそっと指でなぞっている。いつでも発動できるようにドラゴンから目を逸らす様子はなかった。

 シンシーラの尻尾はだらんと垂れ下がっているし、先程まで騒がしかったパメラは目つきが鋭くなって静かになっている。

 普段通りなのはホムラとユキ、それから僕の背中にいるクーくらいだろうか。っていうか、クーはこの状況でもすやすや眠れるってすごいな。


「人間さん、早く行こ?」


 青バラちゃんに引っ張られる形で前に進む。

 周囲を囲んでいる世界樹の番人たちも合わせて動くし、ラオさんたちも警戒しながらついて来てくれている。

 いつの間にかドラゴンは目を瞑っていて、すぐ隣を通り過ぎる時も微動だにしなかったからちょっと助かった。

 世界樹の地表に露出している根っこの部分に触れて、目を瞑る。


「最低限の魔力は残してください。【生育】!」


 ぐんぐんと魔力が使われていくのを感じる。急な魔力の減少による気持ち悪さと、ふらつきを感じつつも世界樹からは手を離さない。少しでも近い方が魔力が抑えられるから。

 時間にして十秒もかからないくらいで魔力はごっそりと持っていかれたけど、残り二割くらいという所で止まった。

 それと同時に、近くから何やら声が聞こえ始めた。


「イルちゃんおきたー」

「私たちも起きる~?」

「ぽかぽかだから……」

「悩むねぇ」

「………」

「………………」


 ドラゴンの上の方からしてた声がしなくなった。どうやらまた眠ってしまったようだ。

 ここの子たちは縄張り意識があんまりないのかもしれない。




 世界樹のお世話を済ませた後は拠点となる場所を決める事になった。

 イルミンスールの街中にはまだ邪神の信奉者が潜んでいる可能性があるらしい。


 キラリーさん曰く「知の勇者様が捜索してくださっていますが、安全が確保されるのはもうしばらくかかるでしょう」との事だった。

 やっぱりこっちの大陸にも勇者がいるのか。

 また何か起こりそうだなぁ、と辟易していると、ルウさんがキラリーさんに勇者について聞いていた。


「知の勇者とは、知識の神から【鑑定】の加護を授かった勇者様の事です。今代の勇者様はタカノリ様という方ですね。戦闘能力だけで言うと他の勇者様より劣りますが、サポートに長けた人物だと聞いております。邪神の信奉者が加護を使う前に見つける事ができる唯一の力を持った方です」

「素行に問題はねぇのか?」

「まだ私もお会いした事がないので分かりません。イルミンスールに着いたらすぐにここに来たので……」


 申し訳なさそうに謝るキラリーさんに「気にすんな」とラオさんが言葉をかけていたけど、本当は事前にどんな人か知っておきたかった。

 素行に問題があるような人だったらお近づきになりたくないし。

 ただ、どう頑張っても一回は会う事になるんだろうなぁ。

 ……いっその事、呪いが心配だからって理由で引き籠るのもありかもしれない。

 ああ、でも、プロス様達の信仰を広めるんだったらちゃんと教えが伝わっているか確認しなくちゃいけないだろうし、森の外にはでなくちゃいけないのか……。

 しばらく思い悩んでいる間にも、僕について来たエルフたちが探索を済ませてくれて、前任の世界樹の使徒が使っていた建物の中の安全は確認できた。

 ただ、どうやらここ最近まで前任の世界樹の使徒がなぜか匿っていたエルフの女性が邪神の信奉者だった疑惑があるらしい。


「どうされますか?」

「んー……気持ち的に使いたくないかなぁ」

「じゃあ野宿するデス?」

「体調崩しそうだしなぁ。上手くできるか分かんないけど、【加工】で建物を作ってみようかな……?」


 そう思って作ってみたけど、見た目だけ立派な耐久性の低い建物ができるだけだった。

 建築に関する知識がないとしっかりとした建物はできそうにない。そこら辺勉強した方が今後のためなのかも……?

 なんて考えこんでいると、シンシーラが僕の肩をちょんちょん、と突いた。


「テントを設営するじゃん。アクスファースの遊牧民族が使っているテントがアイテムバッグの中にあったはずじゃん」

「こんな事もあろうかと、前もって買っておきました、マスター」

「なんか違うの?」

「冒険者が使うような簡易テントと違って、しっかりとした作りのテントじゃん。移動式の住居みたいなものじゃん」

「魔道具と交換で手に入れた物はそこまで大きな物ではありませんでしたが、数は相当数準備できております、マスター。しばらく生活するのであれば、設営しておくのも手かと」


 なるほど? よく分からないけど、普通のテントではないという事は分かった。

 ただ、この開けた場所に何かをするのであればお伺いを立てなくちゃいけない相手がいる。

 勝手な事をしていつの間にか敵対してました、なんて事になりたくないのでちょっと勇気を振り絞って話しかけよう。

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