454.事なかれ主義者は息抜きをする
イルミンスールに行くのは一週間後、という事でその間にそれぞれの世界樹をしっかりとお世話する事にした。
ドライアドたち曰く、もうだいぶ安定しているから一ヵ月くらい放っておいても大丈夫、との事だったので、安心してイルミンスールの問題に対応できそうだ。
ガレオールにある大陸間転移門が通じるまでの数日間はシグニール大陸にある三本の世界樹をお世話をした。
暇になった午後は魔道具作りをしたり、妊娠しているモニカやレヴィさんが心配だったから一緒に過ごしたりした。
レヴィさんと過ごした時は基本的に農作業の手伝いをする事になった。
草抜きなど、お腹に負担がかかりそうな作業は近衛兵にさせていたので心配はなさそうだった。
抜いた草をいちいち集めるのは面倒そうだったので、鉄板に【付与】を施して魔法陣を刻み、周辺にある抜かれた草や落ち葉が勝手に風に運ばれてくるようにした。
結構な強風が吹くけど、作物とかには影響がなかったのでドライアドたちにオッケーが貰えた。
時折、集まった草や葉っぱの上でドライアドが寝ているみたいだけど、最終的には自分たちでたい肥を作るための箱に入れてくれるらしいから注意はしてない。
「また効率が上がってしまったのですわ。そのうちするべき事がなくなってしまいそうなのですわ……」
「そもそもドライアドたちや町の子たちがいたからしなくても良い事なんですけどね」
レヴィさんの付き人であるセシリアさんがボソッとツッコミを入れたけど、レヴィさんの耳には届いていないのか意図してスルーしているのか反応はなかった。
「そういえば町の子たちを見かけないけどどうしたの?」
「近衛兵も増えましたし、ドライアドたちもいますから別の仕事を任せる事にしました。人手が多すぎても暇を持て余してしまいますから。暇を持て余すとドライアドたちが悪さをし始めるので」
「悪さ? ドライアドたちが?」
「ええ。関係ない畑に自分の好きな作物を試しに植えてみたり、町の方に出かけて道の真ん中に種を植えたりですね。世界樹の影響で、町の方にも植物が育つようになりつつあるので」
「なるほど」
「そうやって世界樹の周りの森の範囲が拡大していったんでしょう。街路樹のような物と思って邪魔にならない限りは放っておきましたが、ひと悶着あったのでドライアドを暇にさせないように気を付けよう、という事になりました。ただ……最近肌の色が違う子も混じってきたので、いつまた同じような事が起きても不思議ではないです」
「町が森にならないといいね……」
「はい。という事で、これ以上の農作業を効率化する魔道具は必要ありません」
「あ、はい」
といった感じのやり取りがあったので農作業用の魔道具は作ってもアイテムバッグの肥やしになっている。
時々なくなっているからどこかの魔道具店で売れているんだと思う。
モニカと一緒に過ごした時は、屋敷の清掃ばかりする事になった。
魔法が使えない者同士、掃除で大変な所は同じだったから便利な魔道具が作れるはず、と思って張り切っていたんだけどモニカから待ったがかかった。
「掃除用の魔道具を作るより、呪い対策用の魔道具を作るべきです。何かあってからでは遅いので」
「あ、はい」
でも、モニカの事は心配だったし、魔道具を魔力限界まで作った後は暇だったのでモニカの後をついて回った。
僕の自室も隅々まで清掃してくれているみたいだった。物を隠すのは個人用のアイテムバッグを作って、その中にしておこう。変な物を隠しても絶対見つかる気しかしない。
掃除も慣れている様子でテキパキとしている。
僕が手伝うと余計な仕事を増やしているような気もしてくるが、彼女は微笑むだけで何も言わずにフォローしてくれた。
「シズト様のおかげで早く終わってしまいました」
「僕殆ど邪魔してばかりだった気がするんだけど?」
「そんな事ありませんよ」
そうかなぁ、と首を傾げつつもモニカが使っていたバケツに【付与】をして、いちいち水汲みに行かなくて済むようにした。
ジト目でしばらく見られたけど、仕方ない、と言った感じでため息を吐かれただけでお小言は何もなかった。
「早く終わってしまったので、ティータイムにでもしましょうか」
「エミリーにお願いしておやつ用意してもらおうか」
「そうですね」
片づけをしてから厨房に向かうと既にエミリーが紅茶とお茶菓子を準備してくれていた。
「シズト様が来たからもう食べるデス!!」
「シズト様が口を付けてからに決まってるでしょ!!」
当然のようにいたパメラと、おそらく彼女に連れて来られたリーヴィア、ジューロ、アンジェラの女の子三人組も一緒におやつを食べる事になったけど、賑やかな方が楽しいからまあ良しとした。
そんな感じで過ごしているとガレオールに設置してある大陸間転移門の起動日になった。
一緒に同行するのはジュリウス、ラオさん、ルウさん、それからクーの四人だ。
本当はクーを連れて行くつもりはなかったけど、背中に張り付いて取れなかったので仕方ない。
放っておいても勝手に転移してやってきそうだったので、そうなるくらいだったら連れてった方が良いだろう、という事になった。
「大人しくしててよ?」
「はーい」
僕に背負われたクーは上機嫌だ。
そんな様子をラオさんとジュリウスは気にした様子もなく、ルウさんに至っては「良かったわね」とクーの頭を撫でてていた。
「定刻となりましたので開門します」
門番として派遣されているエルフが宣言すると、高ランクの魔石がいくつも転移門に嵌めこまれていき、すべて嵌め込んだところで転移門の内側の空間が歪み、向こう側の景色が真っ白くなったかと思うと、次の瞬間には別の街の景色が広がった。
向こう側には大勢の人が詰めかけていて、先頭には鎧武者のような恰好をしたムサシが仁王立ちしていた。
「それではシズト様、行ってらっしゃいませ」
門番のエルフが道を開けて深く頭を下げた。
本来であればすぐに通行人が行き交うのだが、今回は僕が通るという事で交通規制がかかっているらしい。
多くの商人だけではなく、通行人や町の住人たちに見られながら先導するジュリウスの後をついて歩く。
この日のために厳戒態勢で警備されていた事もあり、何事もなく都市国家フソーに移動する事ができた。
フソーのお世話をしている間はお世話係もないし、夜も朝ものんびりと過ごせるからゆっくりと過ごそう。




