449.事なかれ主義者はほったらかしにし過ぎた
モニカが妊娠したので、モニカには屋敷の手入れだけをお願いする事になった。
ドランの屋敷の方にやってくる人たちの対応はできる人が身近にいなかったので、Sランクの魔石を使ってホムンクルスをササッと作り、モニカに起動してもらった。
ホムンクルスは製作者と起動した人のいう事を聞くのもあるけど、知識とか記憶も引継ぎされるらしいからそれが理由だ。
モニカは引継ぎをしようとしていたけど、新しく生まれたホムンクルスは「全部存じております」と断っていた。
「それじゃ、よろしくね、セバスチャン」
「かしこまりました」
綺麗な一礼をしてそう答えた彼の名はセバスチャン。なんか、執事って言ったらそんな感じの名前だよね、と思って付けた名前だ。
ロングテールコートとかいう黒い上着の下に、白いカッターシャツを着ている。
黒いズボンを履いていて、靴も光沢のある黒の革靴だ。
ネクタイも黒く、髪も瞳も黒いから黒すぎやしないか、って思ったけど、執事ってきっとこういう物なんだろう。
モニカは本当に大丈夫か心配そうだったけど「一人で問題ありませんので」とセバスチャンは固辞し、転移陣でドランの屋敷へと向かって行った。
残されたモニカは何かしていないと落ち着かないのかもしれない。
「屋敷の清掃をしてきます」
綺麗なお辞儀をしてから屋敷の方へと向かって行った。
でも、屋敷の清掃って言っても、魔道具のおかげで埃はどこにも落ちてないんだけどね。
窓とか家具とか拭くのが楽になる魔道具も作ろうかな? 等と考えながら、とりあえず世界樹をお世話するために僕も移動する。
その道中で、ジュリウスが「少々お時間よろしいでしょうか」と声をかけてきた。
いつもは黙ってついて来るのに珍しいな、と思いつつジュリウスに視線を向けると、彼は話し始めた。
「レヴィア様に続いてモニカ様もご懐妊されたという事で、信頼できる護衛を増やそうかと考えております。クー様と共に待機させているジュリーニたちを呼び戻してもよろしいでしょうか?」
「あー…………そういえば、ドタウィッチに着いてから移動させてなかったんだっけ?」
「はい。ドタウィッチから東の小国家群の方に行くのはお勧めできず、かといってエンジェリアも怪しい動きを見せていたので、待機させてました。何もさせないのもどうかと思いましたので、最近は魔道具店の手伝いをさせていました」
「そっか、ありがと。魔道具店の方は大丈夫そうなの?」
「はい、今の所大きなトラブルはありません。魔法が使えない者たちも、徐々に安価で買える魔道具に興味を持ち始めた様で、来店する事が増えていて順調です。ただ、魔法が使えない者と使える者が同じ場所に集まるので、トラブル防止のために護衛として誰かは置いておいた方がよいかと」
ドタウィッチは魔法が使えない人は下民と呼ばれる身分で、奴隷の次に身分が低いらしい。
ドタウィッチにある魔法学院の風紀委員でもあるレヴィアさんの妹さんがよくお店に顔を出すから大きなトラブルに発展していないというのもあるらしいけど、いつ何が起こっても不思議ではない、との事だった。
「それもホムンクルスに任せちゃおうかな……?」
確かアイテムバッグの中にまだまだ使われずに眠っているホムンクルスたちの元があったはずだ。
ただ、それらを作った時に何を考えていたのかいまいち覚えていない。まあ、ホムラに言われるがまま作らされたので、ホムラに聞けばわかるだろう。
「魔道具店の運営は問題なくできているとの事ですから、我々エルフだけで問題ないかと思いますが、昼夜問わず活動ができる魔法生物……ホムンクルスでしたね、彼女たちに任せるのもいいかもしれません」
「昼夜問わず活動できるとしても、休憩は取って欲しいなぁ」
「左様ですか。……では、普段たっぷりお休みされているクー様はいかがでしょうか? 彼女であれば適度にお休みしながら何か起きた場合対応して頂けるのではないでしょうか?」
「あー……確かにクーなら危なかったら皆を逃がしてくれ……ない気がしてきた」
「ドフリック殿の時の事を考慮すると、シズト殿が命じた事であればやってくださるのでは?」
「そうかな……そうかも? ちょっとお世話を済ませた後、ドタウィッチの様子を見に行きがてらお願いしてみようかな」
「かしこまりました。では、向こうの者たちにシズト様が参られる事を伝えておきます」
そうと決まればサッサとお世話を済ませてしまおう。
ドライアドたちに真似をされながら世界樹ファマリーに【生育】を使った。
ホムンクルスを作っていた事もあって、魔力が残り少なくなってきたけど、まだだるさとかはない。
モニカとレヴィさんの事が心配だから、伝えるべき事をさっさと伝えて帰ろう。
そう思ってドタウィッチに転移した瞬間、待ち構えていた小柄な人物に引っ付かれた。
勢い余って尻餅をつきそうになったけど、ジュリウスが支えてくれた。
視線を下に向けると、空のように青い髪の毛が鼻先をくすぐった。
「ちょっとクー! 危ないでしょ!」
「お兄ちゃんがあーしをほったらかしにしてるから悪い!」
顔を上げてキッと僕を睨みつけたクーが頬を膨らませた。夕日に染まった空のような橙色の瞳が若干潤んでいるようにも見えて、どうしよう、とジュリウスに視線を向けたけど彼は肩をすくめただけだ。
頬を膨らませたクーが僕の胸に顔を擦りつける。猫みたいだなぁ、と思いつつ、手間が省けたと思ってドタウィッチにある店の用心棒をお願いをしてみたけど断られてしまった。
「使い勝手のいいエルフたちに任せてください」
「お願いします」
「あーし、お家帰るから!」
「はいはい」
ジュリウスはジュリーニたちに事情を説明するとの事で僕だけ先にファマリーの根元に戻る。
ドライアドたちがクーを見て、真似をするために引っ付いて来たけど、クーが彼女たちを転移魔法で畑の中に飛ばしていたのでそこまで重くならなかった。




