436.事なかれ主義者は隅々まで見られた
朝食の後、ノエルを部屋から連れ出し、ドライアドたちに見送られながら転移陣を使ってクレストラ大陸に転移した。
出迎えてくれたのはホムンクルスのムサシだ。侍っぽいイメージで作ったからか、語尾が「ござる」になっている。……ござる、って忍者か? いや、でも見た目は武士って感じだしな。時代劇とアニメで混ざったかも。
「なんかごめん」
「何がでござるか?」
「なんか、色々と」
「よく分からんでござるなぁ」
「割とどうでもいい事だと思うのですわ。それよりも、こっちの様子はどうだったのですわ?」
「手紙でも伝えたでござるが、ヤマトの大王が亡くなったでござる。新しい王はまだ決まっていないみたいでござるよ。あと、メグミ殿が魔道具を返しに数日前から旧市街地に滞在しているでござる。どうするでござるか?」
んー、なんか面倒事に巻き込まれそうな予感。
「それは私が受け取っておくのですわ。他には何かあったのですわ?」
「縁談の申し込みが何件か届いていたでござる。言われた通り、全て丁重にお断りしておいたでござるよ」
「ありがと!」
「この後はどうするでござるか?」
「世界樹のお世話をしたら旧市街地に行く皆を見送りに行きつつ旅館に行こうかなって」
「分かったでござるよ。ただ、その前にドライアドとフクちゃんに職人たちを紹介してほしいでござる」
「もう作る準備できたの?」
ムサシが言う職人とは建築士たちの事だ。
大人数で来た時に世界樹フソーの根元に建てられていた建物だと手狭だったから旅館で寝泊まりしていたけど、出来れば転移陣の周辺で寝泊まりしたい。
「職人の選定も資材の搬入準備もばっちりでござる。魔法建築士にも来てもらっているから、二、三日もあればすぐにできると思うでござるよ」
「それじゃあ今日からお願いしようかな」
「分かったでござる。先に伝えておいて主殿たちが外に出るタイミングで中に入る事ができるようにしておくでござる」
ムサシがアダマンタイト製の檻の向こう側の人たちに伝えるため、森に消えていった。
世界樹フソーを囲う森を抜けるには普通に歩いたら小一時間くらいかかるけど、ムサシだけだったらすぐなんだろうな。
「とりあえず、世界樹のお世話をするか」
「その間、荷物の確認をしておくのですわ!」
レヴィさんを中心に、持ち物の確認が始まったのを尻目に、僕は世界樹フソーへと近づいて行く。
見上げるとはるか上の方の枝に大きな梟のフクちゃんがいた。その近くにもドライアドたちがいるみたいで、下を覗き込んで僕をジッと見ている子たちが数人いる。
視線を前に向けると、世界樹の幹をよじ登ろうとしている子たちもいるから、木登り好きはどこのドライアドたちも変わらないのかもしれない。
「程々の量でお願いします。【生育】」
世界樹フソーの見た目は殆ど元に戻っているからか、それとももうほとんど成長していないからかは分からないけど必要魔力が少なめで済むから助かる。この後、アダマンタイトの形を変えるために【加工】をしなくちゃいけないし。魔道具作成も控えてるから。
サクッとお世話を済ませたら、皆の所に戻る。既に荷物や魔道具のチェックは全て終わってるようだ。
「それじゃあ行こうか」
僕の号令の下、ぞろぞろと皆で歩き始めたけど、普通に歩くと一時間くらいかかる道のりだ。パメラが我慢できるはずもなく「ちょっと飛んでくるデス!」と言って飛んで行ってしまったし、ノエルは歩きながら魔石に魔法を付与し始めた。
やっぱり時間がもったいないよな、という事で浮遊台車をアイテムバッグから取り出して、それに乗りこむ。魔力探知だけではなく、身体強化も苦手なモニカも僕と一緒に同乗したんだけど、その様子を見て面白そうとでも思ったのかフソー周辺で暮らしているドライアドたちも乗ってきた。
ただでさえそんなに広くないからモニカが僕の足と足の間に腰を下ろす形になっていたのに、ドライアドたちも遠慮なく乗ってきたから密着する事になってしまった。
「モニカ、大丈夫?」
「はい、問題ございません。出発しましょう。ラオ様、お願いします」
モニカは心なしか早口だったけど、表情はいつも通り微笑を浮かべているだけだ。ドライアドたちがぎゅうぎゅうくっついて来ても苦しいとかはなさそうなので、ラオさんに押してもらって一気に旧市街地へと向かった。
浮遊台車に乗っている僕たちに配慮したからだろうけど、十分くらいはかかって森を抜けた。
旧市街地と禁足地である森を隔てるアダマンタイトの檻の近くで浮遊台車が止まった。
もう一回! とせがむ小柄なドライアドたちを下ろして、モニカが降りた後に続き、グッと伸びをする。
「シズト様達遅いデース」
「勝手に先行するんじゃないわよ!」
先に到着していたパメラがエミリーにポコッと叩かれていた。
でも確かに時間かかるよなぁ。いちいち移動するのが面倒だからここまで続いている転移陣を作ってしまってもいいかもしれないけど、そうなるとリスクが増すだろうし……、等とどうでもいい事を考えていると、どこからか笛の音のようなものが聞こえてきた。それから少し遅れて、ジュリウスの腰につけられていた鈴が鳴った。
「転移を!」
ジュリウスの合図で魔道具『帰還の指輪』を慌てて使うと、シグニール大陸にある屋敷の地下の一室に転移した。
笛の音が聞こえなくなり、ジュリウスの腰につけられている魔道具『呪術報知鈴』の音も止んだ。
念のためポケットに入れていた魔道具『身代わりのお守り』を取り出すと、少しだけ黒く染まっていた。
「ムサシと連絡が取れるか確認します。シズト様は念のため安静になさっていてください」
それだけ言うと、ジュリウスは急いで部屋から出て行った。
残された僕は、僕の体に異常がないか確認するため、お風呂に連行されるのだった。




