435.事なかれ主義者は知らない方が良い事は知りたくない
神様から「誰かが妊娠したら教えてね」と念押しされてから二週間が経った。
流石に二週間の間に妊娠した人はいないけど、初めてしてから三カ月ほど経っている。そろそろ誰かが妊娠してもおかしくはないと思うし、二週間前から人数が二倍になったり、する時間が増えたから時間の問題だと思う。
僕の体力が少し心配だけど、安眠カバーのおかげで目覚めはいつもすっきりしている。
ただ、前日にお世話係以外の人が夜の運動会に参加した場合は、朝からお世話係と運動会をする事もあるから安眠カバーだけのおかげではないだろう。
知らない内に何か盛られてるんじゃないだろうか、と心配になるけど、実害は今の所ないので誰にも聞いてない。知らない事が良い事も世の中にはあると思う。
昨日のお世話係がノエルだった事もあり、今朝は何もなかったけど、朝風呂は日課となってしまった。
のんびりと入る事ができるお風呂を堪能した後、食堂へ向かうと既に皆揃っていた。
席に着き、手を合わせて食前の挨拶を唱和すると食事が始まる。
いつも通りラオさんとルウさんはすぐに食べ終わった。
ユキとホムラは口元を盛大に汚すけど自分で拭おうとしないので、仕方がないから代わりに拭う。
ノエルは朝食を詰め込むと、口に物をたくさん含んだ状態で席を立って部屋を後にした。ノルマは減ったけど、少しでも早く終わらせて魔道具の研究をしたいらしい。
ノエルが嵐のように去っていった後、他の人とお喋りをしていたレヴィさんが僕の方を向いた。
「今日からクレストラ大陸にいくのですわ?」
「そうだよ。ムサシからの手紙に、ヤマトで政変があったらしいんだよね。正直面倒事の予感しかしないからちょっと億劫なんだけど……」
数日前に、ヤマトの特使がムサシの下を訪れて、大王だったヤマト・タケルが病気で急死したと伝えて来たそうだ。タイミングが良すぎてなんだか怪しいけど、これも知らない方が良い事な気がする。
好戦的だったタケル派の者たちは一気に勢力を弱め、代わりに台頭したのは次期国王候補であるメグミさんらしい。
他にもたくさん子どもがいる中でメグミさんが選ばれたのはおそらく僕と面識があるからだろう、という事だった。まだ政略結婚を狙っているのかもしれない。
「きっと大丈夫なのですわ~」
「そうかなぁ。権力争いに巻き込まれそうな気がするんだけど」
「そんな事はさせないのですわ~」
今回、クレストラ大陸に行くのは前回と同じ面子だ。お留守番をしてくれるジューンさんや、仕事で長期間離れられないランチェッタさんには後で埋め合わせをするつもりだ。
「……大王が病死して、大王の派閥だった人たちの勢力が弱まったって事は、戦争も終わるって事かな?」
「十中八九そうなるわね。これ以上続けていてもヤマトにメリットは一切ないもの」
朝ご飯を食べに来ていたランチェッタさんが自信満々に断言した。
どうしてか尋ねたら「自分だったらそうするからよ」と返答があった。
「このまま戦争を続けても、北部同盟を一国で相手できるほどの戦力はないでしょうし、転移門の影響で賑わっているビッグマーケットに取り残されてしまうわ。私だったらそんな愚かな選択はしないわね」
「そっかー。じゃあ戦争が終わったら転移門で繋がってる国の観光をしようかな」
「各国に事前に伝えておくのですわ?」
「そうだね、お願い」
「分かったのですわ~」
「今日はシズトくん、街に出向くのかしら? それによってお姉ちゃんたちも予定を決めようかな、って思うんだけど」
「んー、たぶん今日は外に出ないと思う。世界樹フソーの世話をした後は魔道具をたくさん作りたいし、ビッグマーケットの様子はこの前見て回ったから」
「依頼の確認をしておきます、マスター」
「私は奴隷商との交渉をしておくわ、ご主人様」
「二人とも、よろしくね」
ホムラは魔道具店に顔を出して様子を見るついでに魔道具の制作依頼がないか見に行くつもりのようだ。
ユキは各国の公認奴隷商に会いに行き、元都市国家フソーの住人だったエルフたちがいないか確認をする予定だ。
生き残ったエルフたちは殆ど奴隷にされているとの事なので各国に協力してもらってエルフの奴隷を集めてもらっている。
ヤマトにもおそらくエルフの奴隷がいるから、和平を申し込んできたときに条件としてエルフの奴隷の引き渡しでも入れてもらおう。
「シズトくんが外に出ないなら、お姉ちゃんたちは冒険者ギルドに行こうかしら」
「だな。情報収集がてら、様子を見に行くか」
「パメラも行くデス!」
「面倒事を増やしそうだから私が監視してるじゃん」
ドーラさん以外の冒険者組はギルドに出向くらしい。
酒場も併設されているって事だし、そういう所で聞き込みとかもしているのかもしれない。
そういう聞き込みは面白そうだけど、ギルドに行ったらテンプレ的な感じで絡まれそうだから僕は行くつもりはない。ファマリアのギルドだったらほとんどが顔見知りだから行ってみてもいいけど……特に集めたい情報とかないしな。
「ドーラさんはレヴィさんの護衛だよね」
「ん」
黙々と食事を続けていたドーラさんが僕の問いかけにはすぐに反応して食べるのをやめ、こくりと頷いた。
ただ、それ以上言う事はないみたいで、すぐに食事を再開した。あの小さな体のどこにあれだけの量が収納されるのかいつも謎だ。
モニカとエミリーは僕の手伝いをしてくれる、という事で皆の予定を確認し終えた所で食事に集中する。
ドライアドたちが窓からこっちを覗いているからね。褐色肌の子が増えたからギャラリーも倍増したけど、仲良く交互に並んでいるから満足するまで放っておこう。




