432.事なかれ主義者は平等に接したい
「ただいまー」
「おかえりなさぁい」
「なさ~い」
「なさい!」
「野菜?」
「野菜ではない」
転移陣を使って世界樹ファマリーの根元に戻ると、ジューンさんとドライアドたちが出迎えてくれた。
ドライアドたちが野菜を大量に持ってきそうな気配を感じたのでしっかり否定するのを忘れない。
「否定しても結局持ってくるのはなぜだろうね」
「シズトちゃんがいない間はぁ、皆我慢してたからじゃないですかぁ?」
「なるほど。我慢してたのか……僕がいても我慢してほしいなぁ。食べきれないほど貰っても勿体ないし」
ドライアドの生態はやっぱり謎だ。
久しぶりだったからか、普段は分担して受け取る事を許してくれるドライアドたちだったけど、今回は僕じゃないと渡そうとしなかったので、収穫物の回収だけでだいぶ時間がかかってしまった。
後から後から湧いて出てくるドライアドたちは一体どこから出てきたんだろうか、って思っちゃうくらいの人数だった。
「……なんか褐色肌の子も混じってない? 気のせい? 日焼けしただけ?」
「シズトちゃんがいない間にぃ、シズトちゃんを探しにこっちに入ってきちゃったんですぅ。その時にぃ、道を繋げちゃったみたいですぅ」
「大丈夫だったの、それ?」
「古株の子たちが来るまでは大丈夫じゃなかったですけどぉ、青バラちゃんとジャスミンちゃんが来たら仲良くなりましたぁ」
「そっか……ジャスミンちゃんって?」
「ほらぁ、トネリコの方の古株ちゃんの事ですよぉ。白いお花がジャスミンのお花みたいでしたからてっきりそう呼んでるのかなぁって」
あの子の頭に生えているの、ジャスミンなんだ。見覚えはあったから、お茶かなんかのパッケージで見たのかな。ジャスミンティーは飲んだ事ないけど。
「ねーねー、何で登ってるの~?」
「人間さんは木じゃないよ~」
「僕もそう思う」
「なんでだろー」
「わかんな~い」
「そっか、分かんないのか」
「レモーン!!」
「はいはい、落ち着いて」
どうしてファマリーの子たちは僕の体をよじ登ろうとするのか。
何がきっかけだったのかなぁ、と思い返してみたけれど特に思い当たる事はなく、雄たけびを上げているレモンちゃんを宥めて肩から下ろす。
それからまだよじ登って肩よりも上を目指していたドライアドたちも下ろしていく。
それをジッと見ていた褐色肌の何やらひそひそと話し合っている。
嫌な予感しかしないのでさっさと退散しよう。
「んじゃ、アタシらはイザベラに戻った事伝えてくるわ。ルウ、行くぞ」
「はーい」
「ノエルは魔道具を作ってくださいね」
「なんでっすか、ホムラ様! 工房の皆がせかせか作ってくれてるじゃないっすか!」
「数が足りないのよ」
「せめてノルマの数を減らしてほしいっす!」
「前向きに検討させていただくわ」
「それ、シズト様が言ってたけど検討しないやつじゃないっすか!?」
ギャーギャーと騒いでいるノエルは、ホムラとユキが彼女の部屋へと連れて行くようだ。
頑張って魔道具を作って欲しい。
「私はとりあえず食事の準備をしてきますね。お昼は屋敷でお召し上がりになりますか?」
「そうだね」
「かしこまりました。では、準備しておきます」
ぺこりと頭を下げたエミリーも尻尾を振りながら屋敷へと向かう。
パメラは「遊んでくるデース!」と言って別館の方へと飛んで行ってしまった。その様子をシンシーラが見て「今日夜の見張りがあるけど大丈夫じゃん?」と呟いていたけど、大丈夫なんじゃないかな。万が一居眠りしちゃったとしてもファマリーの根元で丸まっているフェンリルがいるし。
「シンシーラはどうするの?」
「私はちょっと昼寝するじゃん。今日は私の日だから夜頑張るじゃん」
「……なるほど」
そういえばこっちに戻ってきたからお世話係も復活するのか。
夜に何事もなく眠れていたから忘れていたけどまた毎日夜遅くまで眠れないのは大変かもしれない。
やっぱりこれ以上相手を増やさないように気を付けないと。
レヴィさんは放ったらかしにしていた畑の様子が気になるようで、セシリアさんとドーラさんを連れて離れて行った。
肌が白いドライアドたちはレヴィさんの後をついて行くようだ。
肌が黒いドライアドたちも、その様子を見て気になったのかぞろぞろとついて行く。僕の体に登ろうとしていた子たちもそれに気づいて慌ててついて行った。
「私はドランの様子を見てきます」
「よろしくー」
モニカは綺麗なお辞儀をすると、転移門を使ってドランの屋敷に向かった。
残ったのはジューンさんと僕だけだ。
「ジューンさんはこれから何かするの?」
「祠のお掃除をしようかと思いましてぇ」
「なるほど。じゃあ世界樹のお世話をすぐに終わらせるから、一緒にやろっか」
お留守番をしてくれたジューンさんのご褒美になるかは分からないけど、日が暮れるまでは一緒に何かして過ごそうかな。




