426.事なかれ主義者は撫でるのには慣れた
都市国家フソーの旧市街地の北側を散策した翌日。
みんながそれぞれ自分のすべき事を見つけて働いている中、僕もせっせと魔道具を作っていた。
作っているのは、昨日、ホムラとユキが持ち帰ってきた依頼だった。
普段だったら依頼された順番に作っていくんだけど、今は少しでもこちらの大陸の通貨が欲しいので、払われるお金が多い物から作っている。
「大陸が変わっても、お金持ちが求める物は変わらないんだね」
「そりゃそうっすよ。アイテムバッグなんてダンジョンから手に入るめちゃくちゃレアな物の代表格なんすよ?」
「それはまあ、予想の範囲内だったんだけど、増毛帽子とか、脂肪燃焼腹巻とかこっちでも量産する事になるとは思わないじゃん」
「そうっすか? 人族の貴族は容姿をすごく気にするじゃないっすか。当然だと思うっすよ」
同じ部屋で魔道具の観察をしているノエルとお喋りをしながら魔道具を作り続ける。
同じ魔道具ばかり作っていると飽きてくるからアイテムバッグ、増毛帽子、脂肪燃焼腹巻の順番で作っていく。
転移してからコツコツと魔力切れで眠り続けたおかげで、転移当初よりもだいぶ魔力が増えた自負があるけど、依頼の数が多いので正直今日の魔力だけで足りるとは思えなかった。
魔法を使う際に魔力を増幅してくれる魔法もあるんだけど、加護は魔法としてカウントしてくれないみたいだから自前の魔力で頑張るしかない。
「昨日適当に買ってきた魔道具はどう? 何か分かりそう?」
「まあ、読み取れる物はいくつかあったっすよ。シズト様に似た様な物を作ってもらえば、どんな効果がある線なのかも分かると思うっす」
「ちょっと今日は無理かなぁ」
「仕方ないっすね」
「どんな事が読み取れたの?」
「そっすね。炎を吹き出す魔道具からは、火を生み出す線と、物を放出する線がそれぞれ読み取れたっす。放出する線に関してはシズト様が以前作った『高圧洗浄機』とかにもあったから分かりやすかったっす。火を生み出す線は消去法的にそうなんじゃないか、って感じなので違うかもしれないっす。魔動コンロとかと比べたいんすけど、シズト様の作った物は線がつぶれていて読み取れない事も多々あるっすから、判別は難しいと思うっす」
「……ごめん」
ジト目で見てきたノエルにとりあえず謝っておいて、僕は手を動かしながら何かに使えないかなと考える。
物を放出する線を使って何か面白い事できないかな。
……ピッチングマシンとかできるかも?
うん、できそう。ピンポン玉を射出する装置も作れるだろうし、いろいろ応用できそうだ。
武器に転用される事もあるだろうけど、そこはもう仕方ないって割り切るしかない。っていうか、魔法がある世界なんだから大砲とかもあるだろう。
火を生み出す魔法に関しては汎用性が高いだろうから、是非とも加護無しで作れるようになってほしい。
その後もノエルにお喋りの相手をしてもらいながらせっせと作り続けていると、魔力がなくなってきた。
これ以上作ると日常生活に支障が出るだろう、という所で止めて、後は夜に加護を使って魔力切れになろう。
「ノエルはどうするの?」
「ここにいるっす」
「そっか。じゃあ僕はレヴィさんのとこに行くね。ジュリウス、行こ」
「ハッ」
寝泊まりしている大部屋を出て、すれ違うエルフたちに頭を下げられながら廊下を進む。
ジュリウスは僕の後ろからついて来ている。
「レヴィさんは?」
「表の通りにいらっしゃるようです」
「ありがと」
玄関につくと控えていた従業員さんが靴を出してくれた。
その人にもお礼を言ってスリッパから靴に履き替え、開けてくれた引き戸から外に出る。
「待ってたのですわ~」
「お待たせ」
外に出るとすぐにレヴィさんに声をかけられた。
普段着ないドレスを着ているのは、これからお偉いさんに会いに行くからだ。
新しく北部同盟に加盟した国々のお偉いさんにレヴィさん経由で一度会いたいと言われたので、僕も一緒に行く事になった。
僕が普段着ないエルフの正装をしているのも、そのせいだ。
真っ白な服ってすごく目立つんだよなぁ。
そんな事を思いながらアダマンタイトで作った半球状の檻まで歩いて行く。
レヴィさんはいつの間にか僕の手を握って隣を歩いていて、セシリアさんは数歩後ろを静かに歩いていた。
ドーラさんはレヴィさんの護衛としているので、全身鎧を着ている。歩く度にガチャガチャと音が出ているけど、周りを囲む近衛兵もそうだからあまり気にならない。
エルフの姿が見えないけど、きっと少し離れたところから護衛をしてくれているのだろう。ジュリウスは不測の事態に備えてすぐ近くに控えているけど。
目的地に到着すると格子状の檻の向こう側には馬車が停まっていた。
旅館の前から乗り込んでも良かったんだけど、アダマンタイトを【加工】するためには直接手で触れる必要があるためこういう形にした。乗り降り面倒だったし、護衛をする側としてはどちらでもいいって事だったし。
「【加工】」
人が一人通れるくらいの出入り口をサクッと作ると、最初に護衛の方々が外に出た。その後に僕たちも続く。
檻を元通りにしてから馬車に乗り込むとレヴィさんとセシリアさんが同乗した。他の皆は馬車の周囲を固めるらしい。
「トラブルが起きないといいんだけどね」
「大丈夫ですわ。シズトの機嫌を損ねたら大変な事になるって分かっているから余計な事はしてこないのですわ。挨拶だけで終わらないと思うのですけれど、何かあったら私に任せるのですわ!」
「頼りにしてます」
僕が頭を下げると、得意げな顔をしたレヴィさんは僕の肩にもたれかかってきた。
これから頑張ってもらうんだし、とりあえず頭でも撫でとこう。




