424.事なかれ主義者はたくさんの人に見られた
皆の食事が終わると、各々するべき事をするために出て行った。
レヴィさんは北部同盟国の方々に挨拶をしに行くらしい。とりあえず僕は不要、という事でレヴィさんについて行ったのは彼女の侍女のセシリアさんと、専属護衛であるドーラさんだ。
どこかで寝泊まりをしていたらしい近衛兵たちも一緒だから、きっと大丈夫だろう。
ラオさんとルウさんは冒険者ギルドに行くらしい。
本来は僕の専属護衛なんだけど、今日はシンシーラとパメラの二人が僕についているから、という事らしい。たぶん元奴隷組の子たちに気を利かせたんだと思う。
ホムラとユキは魔道具店の様子を見に行ってもらった。どうやら他国からの商人や貴族の使いの者が大勢やってきているみたいだ。
ノエルは魔道具の観察をするんだと言い張って、宿に残る事になった。ユグドラシル出身の世界樹の番人が数人宿の警備にあたってくれるらしい。
残った面々は僕と一緒に街の散策だ。
モニカは恐れ多いと言って辞退しようとしていたけど「残ってもする事ないでしょ?」と尋ねると観念した様子で一緒に行動する事になった。あくまで僕のサポートをするつもりらしく、メイド服を脱ぐつもりはないようだ。
エミリーもメイド服のままついてくるようだけど、嬉しそうにもふもふの白い尻尾が振られている。
パメラとシンシーラは夜警をする時の格好だった。
どちらも動きやすさを重視しているのか、露出が多い防具だった。パメラに至っては背中から生えている翼の関係か、背中が大きく開いているものだ。背中からの攻撃に弱そうだけど、大丈夫なんだろうか。
「どこから行くデスか?」
「もうしばらくお待ちください」
「しばらくっていつまでデスか?」
「しばらくはしばらくです」
今にも飛んで行ってしまいそうなパメラを制止したのはジュリウスだ。
今日は仮面をつけてはいないけど、武装はしている。
彼はパメラから視線をスッとそらして、通りの向こうからやってくる一団に目を向けた。
「来たようです」
「……多くない?」
「シズト様のお立場を鑑みると、あのくらい当然かと」
「…………そっか」
気軽に街の散策をするつもりだったんだけど、どうやらそれはできそうにないらしい。
今回、街の散策をするにあたって、街の警備をお願いしている同盟軍からお願いがあった。
街の散策は自由にしていいけど、選抜メンバーを連れて歩いて欲しいらしい。
無用なトラブルを避けるためなんだとか。
多種多様な人種、種族が入り混じったその一団は、僕たちのすぐ近くまでやってくるとその場に片膝をついた。
彼らを代表して、歴戦の戦士といった風貌の男が口を開いた。
「お待たせしました、シズト様。本日、シズト様の御身を守らせていただきます精鋭二十六名、現着しました」
「……よ、よろしく……?」
なんか皆緊張した面持ちなんだけど大丈夫?
こっちまで緊張してくるから気楽に行きたいなぁ……。
当初の予定では街の様子を見て回って、ついでにビッグマーケットとも大市場とも呼ばれ、賑わっている転移門付近のマーケットを見て回りたかったんだけど……結構な大事になってしまって帰りたくなってきた。
街の中を歩いて、北にあるビッグマーケットを目指している間は人通りが少なくて気にならなかったんだけど、大市場には行ったら状況が変わった。
十三ヵ国と転移門で繋がった影響で、いろんな国の人々が大勢やってくるようになったらしいんだけど、大きな神社の夏祭りとか花火大会を彷彿させるほどの人混みだったみだった。
進むのも大変そうだなぁ、と思いつつも観光地ってそういうもんだよね、と思っていた僕が馬鹿だったわ。
護衛として周囲を固めていた人たちの半分が離れて行って、ちょっとは気楽に過ごせるかな、とか思ったのも束の間、お買い物を楽しんでいた人々の視線が僕たちに集まった。
僕たちの前を歩いていたドワーフの国から派遣されたという男性の兵士が大きく息を吸ったのが分かる。
「世界樹の使徒様のお通りである! 道を開けよ!」
「!?」
ちょっと何してくれてんの!?
買い物楽しんでた人たちの視線が一斉に僕に集まったんですけど!?
アタフタとしている僕の両手を、二人の女性が安心させるようにギュッと握ってきた。
右側はエミリーで、左側はシンシーラだ。
「落ち着くじゃん。無用な混乱を避けるために報せただけじゃん」
「先日から伝えてあるのですから、もう少し別のやり方はあったと思いますが、これだけの大人数に周知するのに一日じゃ難しかったのでしょう」
二人とも気にした様子もなく、尻尾を僕の体に擦りつけるように当てながら歩き続けている。
後ろを振り返ると、モニカもこくりと頷くだけで動揺した様子は見受けられない。
パメラに至っては「面白そうなものを探しに行くデスよ!」と翼を羽ばたかせて僕たちの周りを旋回しながらお店を見ているようだ。
進行方向の人混みが、モーゼの十戒に出てくる海のように真っ二つに割れていく。
先程までは僕に配慮して道に広がって護衛していた人たちが、間隔を狭めて隊列を組んで、その空いた空間を歩いて行く。
そうしてジロジロとたくさんの人たちに見られながら、僕は大市場を歩く事になるのだった。




