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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第21章 魔道具を作りながら生きていこう

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幕間の物語208.指揮官たちは戦をやめたい

 クレストラ大陸の南に広がる広大な土地を一国が統治していた。その国の名はヤマト。はるか昔に異世界から転移してきた勇者が興した国だった。

 今その国を治めている大王は、歴代の中でも一、二を争うほど統一思想の強い王だった。

 だが、その思いに反してここ十数年は領土が拡がっていなかった。

 今は無き都市国家フソーも含めると五ヵ国と国境が接していて、他国を攻めると他の国が攻めてくるため、一進一退の状況が続いている。

 そんな状況に変化が訪れたのはつい一年ほど前に会った世界樹騒動だ。

 世界樹の真実が白日の下に晒されてからヤマトの動きは早かった。

 各国に忍ばせた間諜や、他国の貴族の中でヤマトに友好的な貴族や大商人を利用し、世界樹をエルフから解放するという目的で都市国家フソーを滅ぼし、新たな領土を手に入れたのだ。


「それがそもそもの間違いだったのだがな……」


 これからの動きについて考えるため、今までの経緯を振り返っていたのは、大国ヤマトの姫君の一人であるヤマト・メグミだった。

 王族特有の莫大な魔力と、戦闘向けの加護を持っている事から政略結婚の道具としてだけではなく、戦力としても数えられていた彼女は、占領した都市国家フソーの防衛要員として派遣されていた。

 元都市国家フソーの北半分を占領していた四ヵ国同盟の兵士を相手するつもりだった彼女たちだったが、実際に相手にしたのは、異大陸からやってきたという転移者だった。

 文字通り手も足も出ずに捕虜にされ、しばらくしてから解放された彼女たちが思った事は「これ以上あの転移者と敵対しないようにするためにはどうすればいいか」という事だけだった。

 単純な戦闘力だけで見ても強さの上限が見えず、勝てる見込みがないと判断した彼女たちは、なにをしてでも戦を止めようと動いていた。


「一週間程度じゃできる事も限られているが、幸いな事に愚弟たちも同様に捕虜になっていた者がいたのが幸いだったな」

「話が早かったですからね」


 メグミの独り言に反応したのは、彼女と肩を並べて歩いていた彼女の隊の副官だった。

 メグミと同じく、元都市国家フソーの市街地で拘束されて数日の間、地獄のような日々を味わった同志だった。


「他の隊は私たちよりも精神的ダメージは少なかったようですが、それでもあの賑わいを見ると思う所があったようですね。他国に潜入させている商人の話によると、あの後、他の国々も一気に同盟に参加したとか」

「軍事力も四ヵ国同盟の時よりも遥かに上がっているだろう。ヤマトに攻め込んでこないのが不思議なくらいだ」

「そうですね」


 メグミたちは長い廊下を歩き終え、ある部屋へとたどり着いた。

 副官が扉を開けると、中には黒い髪の集団が待っていた。


「全員揃っているな?」

「お姉様を待たせるわけがないでしょ。全員十分前には揃ってましたよ」

「そうか。では、各々集めた情報を共有し、今後の方針について話をするとしよう」


 副官が椅子を引くと、メグミはそこに座った。

 卓を囲むのは、彼女と同じくヤマト・タケルの子どもたちだ。

 メグミと同じく、実績を積むために都市国家フソーに攻め込んだ軍に所属している者たちだった。

 メグミよりも年上の子どもたちは既に軍の要職などについているため、今回は従軍していなかった。


「お兄様たちと接触したのは……カケルだったな。反応はどうだった?」


 カケルと呼ばれた小柄な男は、勢いよく立ち上がると、背筋を伸ばして報告を始めた。


「僕たちと比べたら危機感は薄いですけど、情勢が刻一刻と変わって行っているのは間諜を通じて掴んでいるようです。中には商人を通じて利益を上げている者もいるようでした。戦争ムード一色だったのが変わりつつあります」

「ご苦労だった。サトリ、お父様の様子はどうだ?」


 足を組んでメグミを見ていた男は、肩をすくめた。


「どうもこうもないね。一連の失敗の責任を負わされた勇者様を公開処刑した後は、いまだに世界樹の使徒を捕えるか、殺す方法を考えてるらしい。その方法を考えさせられている兄様たちには同情するね。ま、いつも威張ってっから罰が当たったんだろうけどな」

「従軍してなくても不可能に近い事は伝わっているんだな」

「みたいだな。ま、お父様に和平を進言したらどうなるか分かったもんじゃないから、言われた事だけをやってるみてぇだけど」

「そうか。……味方に引き入れる事は可能だと思うか?」

「いやぁ、あの恐ろしさを味わってなかったら、こわーいお父様に逆らおうなんて思わないんじゃね」

「こちらの邪魔をする事もない、と?」

「会った時にそれとなく聞いてみたけど、そういう考えは浮かんでなさそうだったな。ま、俺に警戒して本心を読ませないようにしてたかもだけどさ」


 メグミは腕を組んで目を瞑り、しばらく思考に耽っている様子だった。

 その間、卓を囲んだ兄弟たちは自分たちが手に入れた情報を共有し合っていたのだが、メグミが目を開くと口を閉じて部屋が静まり返った。


「お父様が引かぬというのならば、やはりあの者たちの手を借りるしかあるまい」

「一度敵対してんのに協力すると思うのかよ」

「分からん。もしダメだったら、他国に亡命も視野に入れるしかないだろう。交渉は私とサトリが行く。他の者たちは情報を集め続けろ」


 メグミの話が終わると、部屋にいた者たちは席を立って部屋から出て行く。

 ただ、メグミはしばらく座ったまま動かなかった。

 交渉事が不慣れな自分が、果たして相手の助力を得る事ができるのか、自問自答し続けているようだったが、答えが出る事はなかった。

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