422.事なかれ主義者はのんびり入れなかった
ポーカーはモニカが一番強かった。
「相手の表情や視線の動き、仕草からなんとなく分かるんですよ」
「確かにパメラは分かりやすいもんね」
「シズト様も結構分かりやすいです」
「え?」
結構気を付けてたんだけど……エミリーとシンシーラが苦笑しているので二人にもバレていたようだ。
「意識しすぎるのも不自然なんですよ」
「難しいね。……あれ? でも、バレてたんだったら僕もパメラみたいになってたんじゃ……?」
「きっと今日はついてたんじゃん」
「データが不足しておりました」
「次は負けませんから!」
「パメラも負けないデース」
しょんぼりいじけていたパメラが復活したところで片づけをして、エミリーに給仕をしてもらいながらのんびりとお茶を飲んで過ごした。
ドライアドたちから差し入れされた果物のいくつかはその場でエミリーが皮をむいてくれたので食べたけど、やっぱり梨みたいなのが一番好きだな。あー、でも寒い時期だったらみかんも捨てがたい。
……梨とみかんって同じ季節に取れるんだっけ?
まあ、取れなかったとしてもドライアドたちの魔法もあるし、世界樹の根元に生えてる植物だし、不思議ではないか。
生で食べられない物は今度食べる事を約束してワーワー騒いでいるドライアドたちには納得してもらった。果物系はいけるんだけど、野菜は物によっては生は難しいから……。
あー、でもニンジンとかキュウリをスティック状に切ってもらって、マヨネーズとかつければ普通にいけるか。
まずマヨネーズを取り寄せる所からだけど。
マヨラーじゃなかったから、ある事は確認してたけど調達はしてなかったんだよな。
「何か気になる事でもございましたか?」
「ん? 別に何もないよ」
「左様でございますか」
一緒に机を囲んでいたモニカは再び紅茶に口を付けた。
ほんとに思考が読まれてる気がする。
意識しないと駄々洩れなんだろうけど、意識しすぎてもバレてしまうとしたらどうすればいいんだろうか……分からん。
レヴィさんたちはしっかりと宿を確保できたらしい。
案内された場所は、旧市街地の中心辺りにあった。どこのエルフの街でも勇者向けの宿はあるみたいだ。前世の日本にある旅館のような見た目の建物が目の前にあった。
建物のメンテナンス等をしているのは、元都市国家フソーの住人だったエルフたちらしい。
お出迎えをしてくれたエルフたちも皆一様に奴隷の証である首輪を身に着けていた。
「彼らには清掃などを任せます。周囲は戦闘奴隷に警備をさせていますが、アダマンタイトで柵を設けますか?」
「そうだね。ヤマトは何も動きがないって事だったけど、念には念を入れておこうか。皆は先に入ってて」
「分かったのですわ~」
「アタシらは残るぞ」
「お姉ちゃんたちは、シズトくんの護衛だからね!」
ラオさんは「ジュリウスがいれば必要ねぇかもだけど」と言っていたけど、何があるか分かんないし、人が多いと安心して作業できるから助かる。
「気を抜きすぎんなよ」
「あ、はい」
ラオさんに釘を刺されつつも、ジュリウスがアイテムバッグから取り出したアダマンタイトの品物をインゴットに変えていく。
ヘンテコなオブジェみたいなものもあれば、金色に輝く全身鎧もあった。ただ、これどうやって着るんだろう。着れたとしても僕だったら動く事すらできないだろうな。
……勝手に動く系にすればいいのか。ゴーレム的な。
……それ、中に人が入る意味ないか。
じゃあ操縦者の意思を反映して動く感じでロボットみたいにすれば僕でも動かせそう?
インゴットにしながらジュリウスに相談してみたら、ジュリウスは少し考えている様子だったけど「それは中に人が入る必要あるんですか?」と聞いてきた。
「遠隔操作可能なゴーレム、という事ですよね。確かにアダマンタイトゴーレムの中にいるのならば安全は確保できますが……」
「動きによっては中の人が大変な事になるかもしれないね」
巨大なゴーレムにしたとしても揺れとかやばそうだ。
体にぴったりフィットの物だとゴーレムの動きに合わせて自分も動く事になるし……。
ただまあ、呼吸の問題を解決したら緊急避難用としてはありな気がするし、覚えておこう。
考えるのはこの辺にしておかないと、いい加減ジトッと見てくるラオさんに注意されそうだ。せっせとインゴットにしたアダマンタイトをさらに【加工】で形を変えていく。
「こんなもんでいいかな」
「十分かと」
世界樹フソーを覆っている鳥籠ほどではないけど、アダマンタイト製の半球状の囲いをパパッと作った。
後で回収するし、残量の節約は考えなくても良かったけど格子状にして周囲の様子が分かるようにしておく。
ジュリウスのお墨付きも貰ったし、皆の所に戻ろう。
おそらく過去の勇者が要望したであろう大広間は、畳の部屋だった。修学旅行の雰囲気あるなぁ。
お風呂は当然のように広かったし、いろんな種類もあったから楽しみだ。
「貸し切りだから皆で一緒に入るのですわ!」
「楽しんできてね」
「シズトも一緒に入るのですわ?」
「いや、流石にそれはちょっと……」
慣れてきたとはいえ目のやり場に困るし……と、お断りしてみたけど結局一緒に入る事になった。
いつも通り湯浴み着代わりの水着を着てくれているとはいえ、こんな大人数で一緒に入った事はないから目のやり場に困った。




