421.事なかれ主義者はお金が増えた
レヴィさんたちが帰ってくる間に、世界樹フソーへ【生育】の加護を使った。
最近はもう安定してきたのか、魔力もそれほど持っていかれなかった。
余ってしまった魔力はアダマンタイトの加工をするために必要なので温存しておく。
やる事がなくなってしまったので、地べたに座ってボケーッとドライアドたちに囲まれながら日向ぼっこをしていると、パメラが暇だとピーピー騒ぎ始めた。
仕方がないからエミリー、シンシーラ、モニカも含めた五人で遊ぶ事になった。ノエルは建物から出て来なかった。
「この面子で遊ぶのは初めてだね」
「パメラとシンシーラが共に活動をしている事が殆どありませんから」
「やっぱり夜の警備は誰かに任せた方が良いかな」
「それいいデスね! お仕事なくなったら遊び放題デス!」
「全然良くないじゃん。シズト様は優しいからそんな事しないけど、役に立たないと捨てられても仕方ないじゃん」
即席で作った丸い机を皆で囲んでお喋りをしていると、モニカが律義に挙手をした。
「五人で遊ぶのはいいですけど、どんな遊びをするんですか? シズト様と同じく、私も魔法は使えないので体を動かす系の遊びは不利なのですが」
「大丈夫、そっち系はもう諦めた」
魔道具『パワースーツ』の出力には上限を設けられてしまったので、卓球や野球の前に『超次元』とかつきそうな遊びは無理だ。まあ、そもそもこの人数だと野球もできないけど。ノエルを引っ張ってくればギリギリ三人制のバスケはできるかな。ゴールの大きさやコートの広さとか授業でさらっと習った気がするけど記憶が曖昧だししっかりした物は無理だけど。
………記憶力が良い明に聞けばいけるか? それ以前に記憶を呼び覚ます系の魔道具を作る事ができれば自力でできるような気も……そもそも体育の筆記試験は平均点くらいしかとってなかったから一度覚えたかも怪しいな。
「では室内ゲームでしょうか」
「麻雀したいデス!」
「あれは四人でやる遊びだったじゃん」
「じゃあポーカーでいいデス!」
「他にやりたい事がなければそれにするけど?」
「別にそれでいいじゃん」
「異論ありません」
「シズト様がそれでよければ大丈夫です。パメラが熱くなりすぎないか心配ですけど」
エミリーがチラッとパメラに視線を向けると、すでに興奮し始めている気がする。
ジュリウスが出してくれた木で作った手製のトランプを器用にシャッフルしていた。
それから腰につけていたポーチから可愛らしい巾着袋を取り出した。
「賭け事はダメだよ」
「ちょっとだけデス! 上限を決めるデス!」
賭け事に関する事なのに、パメラにしては良い妥協点を提示してきたな。
これは以前からやってるのかも?
チラッとエミリーやシンシーラを見ると、集まってきていたドライアドたちにちょっかいを出していた。
「今月のためにモニカに管理してもらってた金貨十枚までを上限にするデスよ!」
「モニカさん?」
「ギャンブルの欲を発散するために致し方ない処置でした。お小遣いから一定額を積み立てして時々しているのです。ちなみに発案者は私ではなく、シンシーラです」
「仲間を売るなんてひどいじゃん!」
「死なば諸共です」
どうやら、シンシーラは酔い覚ましの首輪のおかげでお酒を楽しむ事ができるようになったのに、パメラにはそういう物がなく発散できなくてストレスがたまっていたらしい。
奴隷に落ちるまで賭け事をするような子だから、ギャンブル自体が好きなのは分かってたけど、奴隷になっても治らないとは……。
「普通、奴隷はお金なんて縁遠い物ですからね。でも、シズト様の奴隷たちは毎月お小遣いをもらいますから……。使えるのにしたい事ができない、というストレスでパメラの羽に影響が出て、一時期は抜け毛が酷かったのでこっそりとしてました」
「体に影響が出るほどはやばいね。根本的な解決に至ってないけど」
「隠れて抜け出して賭場に行かれるよりは身近な所で安全にお金をすって貰えれば良いかと愚考しました」
「減らす事前提なんだね」
「引き際を知らない子ですから」
「そっかぁ……」
パメラには引き際を教えた方が良いんだろうけど、すぐに忘れちゃうし難しいよね。ルールは覚えられるのに、そういう事は忘れるのはどうしてなのか謎だ。
ただまあ、上限を決めて仲良く遊ぶ分にはいいか、と僕もポーカーをする事にした。
お菓子を賭けて遊ぶ程度だったらこれまでもしているから、そんな感じでやればいいだろう。
ジュリウスから僕のお財布を受け取って、机の上にチップ……というか貨幣を積む。
長く遊べた方が良いでしょう、という事で普段は使わない銅貨を金貨十枚分積んだからそこそこの量があった。
この量が全部なくなるなんて到底思えないけど……なんて事を考えながら、レヴィさんたちが帰ってくるまで皆でポーカーを楽しんだ。
パメラは素寒貧になった。ここぞという時にお金をたくさん賭けるのがいけないんだと思う。




