414.事なかれ主義者はポイされたくない
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魔法学校を案内してもらった翌朝、約束通りラピスさんはやってきた。
集合場所のクーが乗っている馬車の前に、時間通りに来ていたラピスさんを出迎える。
「お邪魔じゃないといいのですが……」
「邪魔なんかじゃないですよ。それに、レヴィさんのご家族が来る事なんてよくある事ですし……」
ほんとにね。なんであんなに頻繁に来るんだろうね。王族って暇なのかな、って思ったけどそうでもなさそうだし。
なんて事を考えながらラピスさんが馬車に乗るのを待っていると、思い出したかのように彼女が口を開いた。
「ずっと敬語を使っているようですが、敬語は使わなくていいですよ。シズト殿は私にとって兄になるんですから」
「なるほど……? じゃあお言葉に甘えて……ラピスさんも敬語じゃなくていいよ」
「分かりました」
「敬語じゃん」
「あっ……癖はなかなか抜けないんです」
分かる。僕も敬語じゃなくなる時あるし。
お互いが話しやすい話し方で、となったところでクーをおんぶして転移陣を使って世界樹ファマリーの根元へと転移した。
転移してすぐ出迎えてくれたドライアドたちを「本当にいるとは……」と興味深げに見ていたラピスさんだったけど、ドライアドたちもジーッとラピスさんを見返していた。事前に伝えてはいたけど、それでも興味を惹かれるらしい。
「後で、お話をお聞かせいただけますか?」
「おはなしー?」
「なんの~?」
「レモン!」
「あ、いえ、レモンの話ではなく……いろいろと」
「いろいろってなに~」
「なんだろうね?」
「あるばいとかな??」
「私たちもしたーい」
「『あるばいと』ってなんですか?」
「短期労働みたいなものだよ。報酬を用意したらだいたいなんでもやってくれるよ」
「なるほど……では、それで」
「なにくれるの?」
「なんだろうねー」
「楽しみだねー」
観察する事からバイトの事に興味が移ったようで、ドライアドたちは離れて行った。
暇なのか頭の上に登ろうとして、僕のお腹辺りまで到達していたレモンちゃんをひょいっと持ち上げて、地面に下ろすと皆の後を追うように去っていった。
特に問題もなくドライアドたちと対面したラピスさんは、その次にでっかい白い毛玉に気付いて固まっていた。
「見間違いじゃなければ、高ランクの魔物がいるように見えるのですが……」
「ああ、フェンリルだね。だいたいいつも寝てる」
「小国を滅ぼした事もある魔物じゃないですか! ……危険じゃないんですか?」
「契約を交わしているから大丈夫なのですわ!」
「契約……って、なんでそんな恰好をしているんですか?」
「動きやすいからですわ!」
「ああ、なるほど」
長袖長ズボンという格好で朝の日課をしていたレヴィさんがやってきた事によって、ラピスさんの意識がフェンリルからレヴィさんに移ったようだ。
最初にレヴィさんの格好に疑問を持ったようだったけど、ラピスさんも同様の理由でスカートを履かず、男子生徒が履くスラックスを履いているらしい。似た者姉妹だった。
「レヴィさんはやること終わったの?」
「終わったのですわ! 代わりにお迎えしに行ってくれてありがとうなのですわ!」
「いいよ。クーが素直に言う事聞くの僕くらいみたいだし。とりあえず、応接室に早く行こうか」
僕にしがみ付いてこれからする事を「めんどくさーい」と文句を言っているクーの機嫌がこれ以上悪くならない内に応接室へ移動すると、メモを用意したラピスさんの質問コーナーが始まった。
「相手はどんな力を持っていましたか?」
「そんな事あーしが答えなくちゃいけないの? 他の人も知ってるじゃん」
嫌そうに顔を歪めたクーがジュリウスに視線を向けたので、つられて僕たちもジュリウスを見ると、こくりと頷いた。
「肉塊のような見た目をしていて、その体に触れた植物が黒い魔力に覆われてしまっていました。いわゆる『呪躰』という力かと思います。再生能力が高く、体から切り離された肉片に触れたものも呪われている様でしたので、精霊魔法で動きを封じました」
「……人の原形を留めていなかったんですか?」
「はい。何か気になる事でも?」
「邪神の信奉者はいずれも体に紋様のような黒い何かがどこかにあると記載されていましたが、人間の原型は留めていたはずです。人の原形を留めていないものは邪神の信奉者とは呼ばれず、『ナレハテ』と記述されていました」
邪神の信奉者だと思っていた者がただのナレハテだった件について。
邪神の信奉者と戦った面々の表情は若干険しいものになったけど、すぐにジュリウスは気持ちを切り替えて「どんな存在だろうとシズト様に仇成すものは身命を賭して排除するのみです」なんて物騒な事を言っていた。
「命はかけないで欲しいけど……まあ、そうも言ってられない強さの相手がいるって事か。……クーはナレハテをどうやって倒したの?」
「倒してないよ?」
「え、でもラオさんたちからは倒したって聞いたけど」
「あーしは直接手を下してないよ。ただ、別の所にポイッてしただけ」
「転移させたって事? じゃあどこかで生きてるかもしれないの?」
「うーん……転移って言うか亜空間にポイッてしただけだよ。死んでるかもしれないし、生きてるかもしれない。開いてみるまでは分からないけど、適当にポイッてしちゃったから、元の亜空間を開くのは無理かも?」
……まあ、今考えても仕方ないか。
とりあえずクーを怒らせて亜空間にポイッてされないように気を付けよう、と思いながら膝の上に乗ってちょっとご機嫌斜めなクーの髪の毛を優しく撫で続けた。
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