411.事なかれ主義者はドラゴンのお肉を食べてみたい
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魔国ドタウィッチの首都にある魔法学校のレベルになると簡単な身体強化を教えてくれる人はいないらしい。
むしろ身体強化すら使えないと知られるとあまりよろしくないらしいので、ラピスさんにはあまり他言しないように言われた。
気を取り直して魔道具の研究をしているという者たちの所に案内してもらった……のだが、誰も魔道具を作るだけの単純作業をやりたいとは思わないようだ。
自分の研究で忙しい、と断る人はまだいい方で、すべての人の生活を豊かにしたいという考えに対して「下民にも等しく与えるなんてとんでもない!」という人もいた。
なんか魔法が使える人のためだけの補助的な魔道具を作るべきだ、とかなんとか言ってきたけど、考え方が根本的に違うようなのでお断りした。
「身内に引き入れても良い事なさそうだからいい判断だったと思うのですわ」
「シズト様が邪魔しなければいい感じだった人もいたのに、どうして邪魔したんすか!」
「だってノエル、嘘ついてたし」
「嘘ついてなんかいないっす!」
「研究し放題って言ってたけど、ノエルが求めている人材ってノルマを代わりにこなしてくれる人でしょ?」
「寝食を削れば研究し放題っす」
「そういうのはウチでは認めてないから」
「仮に研究し放題と言っても、設備が整っているここを離れる人は少ないと思いますが……」
「ラピス様は知らないと思うっすけど、設備は同等以上っす。話をするついでに覗かせてもらったっすけど、ボクが普段使っている物ばかりでしたっす。まあ、ボクがお願いして最上級の物を揃えてもらったから当然っすけどね。むしろ、ダンジョン産の魔道具と同等の出力の魔道具を自在に作る人が身近にいるからきっとこっちの方が環境が良いはずっす!」
「自由自在には作れないし、作れたとしても危ないものは作らないよ? ラオさんに怒られるんだから」
身体強化を使えたらきっと拳骨も痛くなくなると思ったんだけど、教えてもらえないなら仕方がない。
……頭を守る用の魔道具でも作ろうかな。防災頭巾的な。
「どうしても人材が欲しい、という事であればフランシス学校長に相談してはいかがですか?」
「一応、もうしてるんです。ただ、ノエルが自分から魅力をアピールするんだって張り切ってて」
「こんな事なら家で魔道具の研究をしてればよかったっす」
思い通りにいかなくて不貞腐れてしまったノエルはルウさんに任せるとして、この後の事を考える。
学校での用事はもうないし、日が暮れ始めてるから美味しいご飯屋さんでも探しに行こうかな。
チラッと前をスタスタと歩き続けるラピスさんを見る。見たいところはある程度見終わったので馬車が停められている所まで案内してもらっている所だ。
「ラピスさん」
「なんでしょうか」
振り返りもせずに返事をした彼女はやっぱり淡白というか、『無』という感じだ。
対する姉のレヴィさんはずっと妹さんの事を気にしている様子だったけど、僕が何を考えているか察したようでギョッとして僕の方を見てきた。真ん丸に見開かれた青い目は宝石のようにとても綺麗だった。
普通だったらお誘いする空気じゃないと思うんだけど、義妹だし、交流できる時にした方が後々いいかもしれないし、ちょっと空気を読まずに誘ってみよう。
「ご飯一緒に食べませんか?」
「申し訳ありませんが忙しいのでまたの機会に」
即答だった。
レヴィさんも一瞬ホッとしたけど、また僕の次の行動を読んだのかアタフタしている。面白い。
「またの機会って具体的にいつですか?」
「手が空いている時です」
「手が空いている時はいつですか?」
お? アタフタしていたレヴィさんが目を丸くしてラピスさんを見たぞ。
そのラピスさんは足は止めないけど先程までの即答ではなくて、ちょっと返答に間があった。
「……研究が終わったらです」
「研究が終わるのはいつですか?」
「…………卒業する時、でしょうか。とにかく、しばらく食事はしません」
「そうですか、残念です。……そういえば僕たちって学生区の中で自由に行動していいんですかね? これからご飯に行きたいんですけど」
「ええ、構いませんよ。食事を提供しているお店は入室に制限は設けられてませんから」
残念。設けられていたら一緒に行く理由になったのに。
「そうなんですね。じゃあ僕たちはこれからご飯に行くので……あ、そうだ。ラピスさんのお勧めのお店はありますか?」
「ありません」
「行きつけのお店は?」
「食事は部屋で手早く済ませるのでないです」
「なるほど。……有名なお店はありますか?」
「…………『ドラ飯』の話題はよく聞きます」
お、また即答じゃなかった。
返答に間が空くとレヴィさんが物珍しそうにラピスさんを見るのは何なんだろう?
あとで教えてくれるかな……あ、頷いた。教えてくれるっぽい。
「学生に人気の店で混んでますから、トラブルにならないように気を付けてください」
「ラピスさんが一緒にいてくれればトラブルに巻き込まれない気がするんですけど……?」
「我々風紀委員の役目は事が起こってからですので」
「そうなんですね。いやぁ、それにしても残念です。レヴィさんも久しぶりに妹さんと会えたからたくさん話したいと思うんですけど――」
「そんな訳ないでしょ! ……失礼しました。お姉様は私がいると気が休まらないと思いますので――」
「そんな事ないのですわ! 一緒に食べたいのですわ!」
「……お姉様?」
「大丈夫ですわ。今なら加護をコントロールするための魔道具もあるのですわ!」
レヴィさんが首から下げていた魔道具『加護無しの指輪』を嵌めて、ラピスさんを真っすぐに見ている。
ラピスさんは、そんなレヴィさんを目を丸くして見ていた。
お、なんかいい感じに話が向かいそうな予感?
とりあえず、ドラ飯って所がどこか分からないから案内してもらっていいかな。なんか名前的にドラゴンのお肉とか出てきそうだし、早く行ってみたいんで。
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