410.事なかれ主義者はついていけるようになりたかった
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レヴィさんの妹であるラピスさんの説明は淡々としていた。
今現在いるのは風紀委員室で、そのほとんどがドタウィッチ出身だけど、それらをまとめているのが彼女なんだとか。
この部屋よりも上の部屋には許可がない限り案内はできない、という事で下りながら説明をしてもらう事になった。
クーが気軽に使うからそういう風に思えないけど、転移魔法は結構な魔力を消耗するらしい。僕たち全員を移動の度に転移させると万が一の時に魔力が足りないかもしれない、という事で徒歩移動になった。
クーは「あーしだったらできるし?」とか言ってたけど、ラピスさんに相手にされてなくて、ムッとしていた。ムッとするのは良いけど、腕に力を入れて僕の首を絞めないで欲しいなぁ。
迷路のように入り組んだ通路を通り、階段を下りた先にあったのはいくつかの部屋だった。
「ここは選ばれた一部の生徒だけが入室できる教室です。この街には数多くの生徒がいますが、その実力によって教室が振り分けられています」
「学年では分けられてないんですか?」
「はい。完全に実力で分けられます。最上位クラスの生徒たちは、王城の殆どの教室に入る事が許され、宮廷魔導士の講義を直々に受ける事ができます。それを目指して日夜魔法の研鑽に励んでいる者が殆どですね」
「なるほど……それ以外の事をしている人もいるの?」
「はい。私もそうですが、魔法の研究をしている者もいます。魔法の研究で実績を積めば、生徒としてではなく教師としてこの街に滞在し続ける事が許可されますから」
「教える側に回りたいって事?」
「いえ、単純に滞在期間を延ばしたいだけですね。生徒の場合、一定期間経つと卒業する事になりますから。もちろん、後進の育成のために心血を注いでいる先生方もいらっしゃいますが、自分の興味関心のある事を優先する方もいるので」
「なるほど」
先頭を歩きながら話し続けていたラピスさんが振り返ると、僕の手を握っていたレヴィさんの手に力が込められた。
「ここから下は同じような教室が続きますが、どこか見学されますか?」
「んー……どんな授業をしているか気にはなるけど、別にいいかな」
たぶんここら辺の教室はレベルが高すぎて、聞いても理解できないだろうし。
ラピスさんは「分かりました」と言うと、踵を返してすたすたと歩き始めた。
僕たちはその後に続いてしばらく階段を下っていたんだけど、だんだん階段や廊下の雰囲気が変わってきている。
先程までは実用性重視、という感じで無駄な調度品などはなかったけど、美術品などが増えてきた。
廊下も広くなって明るい。部屋の扉の前には兵士が立っていた。
ラピスさんは立ち止ると振り返って真っすぐに僕を見た。
「ここから先は学校としてではなく、本来の王城として機能している場所が殆どです。一応、城で勉学に励む事が許された生徒同士の交流用としても広間は解放されていますが、使われる事は殆どありません。交流している暇があったら研究や研鑽をする生徒が殆どですから」
「学校生活をするんだったらもっと楽しめばいいのに」
「ここで勉学に励む事ができる生徒数は決まってますから、少しでもサボってしまうと下のクラスに落ちるかも、という焦燥感があるんでしょうね。……今も使われていないようですが、見学されていきますか?」
「大広間は何となく想像できるので大丈夫です」
「かしこまりました。……あと王城内で案内できる場所と言えば、王城の地下にある王立図書館ですが、いかがなさいますか?」
事前に聞いてた場所だ。
地下に広がる王立図書館は、その蔵書数はシグニール大陸一とも言われているとか。
庶民が読んでいるような娯楽本もあれば、貴族向けの統治論などもある。
そしてなにより、禁書庫と呼ばれる区画には、魔法に関する研究論文や自我を持ってしまった本もあるとかないとか……。
禁書庫は名前的に気になるけど、入る事ができるのは一部の生徒と教師だけらしい。
「それよりも街の案内をお願いしたいです。街にも校舎があるんですよね?」
「そうですね。では、参りましょう」
行き先が決まるとラピスさんはすぐにスタスタと歩き始めてしまった。
レヴィさんは妹さんの前だからかとても大人しいんだけど、ついて来てしまったノエルがそろそろ限界なような気がする。
勝手に離脱してスカウトしに行きそうになったところをラオさんに捕まり、担がれて運ばれているから通りすがるメイドさんとかの視線を結構集めていた。
建物の外に出ても、城門までは遠そうだ。
「城門の内側で魔法の実験をする者が多いです。危険な魔法の実験は外壁のさらに外側に出てするようにと言われているんですが、面倒臭がってこの場所で実験をする者も一定数います。そういう者たちをあの様に取り締まるのが我々風紀委員の仕事の一つです」
「なるほど」
何かいきなり魔法での戦いが始まったけど、アレは取り締まるためだったようだ。
ラピスさんと同じマントを羽織っている男の人が優勢のようだった。
ラピスさんは任せて問題ない、と思っているのか足を止める事はない。
「城門に着くまで街の説明をしましょう。街に点在している校舎ですが、それぞれランクがあります。中心である王城に近ければ近いほど生徒のランクが高いと思って頂ければいいかと。ランクが高くなるとそれだけ優遇されますから、少しでも上のランクになろうと日々精進している生徒もいます。ただ、学生の内に結婚相手を見つけようとする者もいるので、生徒同士の交流も盛んです。授業後に活動をする部活動というものもありますので、見学してみてもいいかもしれません」
「そうなんですね。……今は授業をしている校舎もあるんですか?」
「ええ、ありますよ」
「じゃあ、身体強化について授業をしている教室を見学してみたいです」
身体強化ができるようになったら、ボウリングとか卓球とかついていけるようになるかもしれない。
………魔法を使われなくても負ける事が多いけど。
「ありませんよ」
「え?」
「ですから、身体強化のような初歩の初歩である魔法を教えている校舎は、この街にはありません。そういう魔法はこの国にいる者は家庭で教わりますから、王都から遠く離れた地方の学校でもないかもしれません」
「………そっすか」
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