408.事なかれ主義者は見比べた
皆が揃ったところで、クーが乗っている馬車に繋がる転移陣を使って、ドタウィッチの首都に転移した。
先に転移したラオさんやルウさんは既に馬車の中におらず、座席に寝転がっていたクーが「お兄ちゃん、おんぶ~」と言ってきたのでクーを背負ってから馬車を下りる。
馬車は既に出店予定地の建物の目の前に止まっていた。
下民区と呼ばれているらしい場所だけど、内壁のすぐ近くにその建物はあった。
内壁へと通じる門が目と鼻の先にあるからか、人通りも多かった。
「人の目は常にありそうだね」
「なかなかの好立地なのですわ。国王陛下に感謝なのですわ~」
「夜は人通りが少なくなるそうですが、他の通りよりはましかと」
建物は三階建てで、周囲の建物と同じく年季の入った感じだった。
通りに面している部分から店の内部を知る事はできそうにないけど、お金儲けが目的じゃないからこのままでいいか。
鍵を持っていた案内の人と一緒に、ホムラとユキが室内に入って行った。
この場に留まっていると他の人に迷惑になるだろうから僕たちも後に続く。
店内はほとんど何も置かれていない。
以前までは、閉門時間までに入れなかった時のための宿泊所だったらしいけど、何かが置いてあったであろう跡しか残っていなかった。
二階に上がる階段は出入口のすぐ近くにあった。外へとつながる扉は、この表玄関か、奥にある勝手口くらいらしい。
「改装工事を受注する事も考えているのですけれど、そこら辺はホムラたちに任せればいいのですわ?」
「そうだね。どういうレイアウトが良いのかよく分からないし」
「それは私たちも同じです、マスター」
「そうね。ただまあ、ある程度店を回っているから多少の事は分かるわ、ご主人様。とりあえず、この広さがあれば十分だから、二階と奥の厨房だった場所は居住スペースや物置にすればいいんじゃないかしら」
「転移陣はどこに置くのですわ?」
「んー、三階、かなぁ。防犯用の魔道具は二階と三階に設置すればいいかな?」
「それでもいいかもしれませんが、専属護衛を雇ってお金を消費するのもありかもしれません」
セキュリティーのためにどんな魔道具を作ろうか、と考えていたところだったけど、ジュリウスの言う通りある程度護衛を雇えばいいか。
「これまでは極力自国の者を雇い入れてきましたが、ここではそれを避けた方が良いかもしれません、マスター」
「あー……店員がどっちの身分だとしても揉め事になるかもしれないもんね」
「エルフから数人見繕いましょう」
「ある程度自衛できる者の方が良いわ」
「かしこまりました。候補はユキ様かホムラ様に確認して頂ければよろしいですか?」
「私たちはそれでいいけど、どうかしら、ご主人様?」
「いいんじゃない? ユキに店員の確認をしてもらうとして、護衛の確認はホムラにしてもらおうかな」
「かしこまりました、マスター」
店員と護衛については話がまとまりそうだ。
あとはレイアウトとかだけど……それは実際に働く人に決めてもらった方が良いかな。
「………シズト様、転移陣の設置する場所は決まったっすよね? 決まったんだったら早く次に行くっす!」
「そうだね。それじゃあ、二人とも、後の事はお願いね」
「お任せください、マスター」
「手早く終わらせるわ、ご主人様」
対照的な二人に見送られながら、僕たちはお店を後にして馬車に乗ると、内壁の中へと移動する。
一緒に馬車に乗車したレヴィさんとセシリアさんは、この後の事を確認しているようだ。
僕は膝枕を強請ってくるクーの頭を太ももの上に乗せて、ぼんやりと車窓から街の様子を見る。
内壁を越えると道を行き交う人々の身なりも、街並みも綺麗になった。
建物はどこも真新しい状態を維持されているのか、汚れ一つない。
街の中には所々校舎があるらしい。街の中心に近い所にある校舎ほど、通うためには実力が必要なんだとか。
王城と校舎が一体化している所はほんの一握りの生徒しか入る事は許されていないらしい。
そんな場所で学んでいると、選民思想が拡がっても致し方ないのかもしれない。
「そろそろ着くみたいですわ」
レヴィさんが言った通り、王城を囲う内壁よりも高い城壁が近づいてきた。
街を飛び回っていた巡回用のゴーレムを見かける機会がどんどん増えてきたと思っていたけれど、城壁の中はもっとすごいんだろうなぁ。
「ほら、シズト。ボケッとしてないでクーを背負うのですわ!」
「悪目立ちしそうだよねぇ」
「今更なのですわ!」
「……そうだね。ほら、クー、起きて」
「……あとごふん……」
いい感じに微睡んでいたクーがなんか言っているけど、セシリアさんは気にせずにクーの体を起こした。それから、馬車が停まったところで僕が席を立つと、僕の背中にクーを縛り付けた。
ジュリウスが外から扉を開けてくれたので、セシリアさんが先に降りて、その後をレヴィさんが続いた。
クーを背負った僕が最後に降りると、御者をしていたジュリーニが馬を操って、兵士に案内されて離れていく。
残された僕たちの前には一人の少女が立っていた。
おそらく学校の生徒なのだろう。白いシャツに黒色のズボンを履いていた。
金色の髪は短く切り揃えられていて、背丈も僕くらいある。
海のように青い瞳は順繰りに僕たちを見回した後、僕を見たところで止まった。
「お初にお目にかかります。本日、学校の案内を任されました、ラピス・フォン・ドラゴニアです。よろしくお願い致します」
ぺこりと頭を下げるラピスさん………って、今、ドラゴニアって言った?
じゃあこの人がレヴィさんの妹さん……? え、でも、ドリル……。
キョロキョロとレヴィさんとラピスさんを見比べていると、セシリアさんがそっと近くに寄ってきて「髪型は遺伝ではないです」と教えてくれた。




