404.事なかれ主義者はやり切った
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ランチェッタさんとの披露宴は日が暮れても続いていた。
最初の方に挨拶に来ていた国内の人々はそれぞれの派閥なのか、仲のいい人なのかは分からないけど、小集団を作って話をしつつ用意された食事を食べている。
魔道具『スピーカー』から流れる音に合わせて、魔道具によって照らされた中央のスペースで踊っている人もいた。
国外からいらっしゃった使節団の人々は、至る所にそれとなくある魔道具を見て回っているようだ。時々魔道具ではない物も魔道具だと騒いでいる人もいたけど、特に確認を求められたわけじゃないのでランチェッタさんの隣でじっとしておいた。
国外から来る人たちは夕暮れ時からどんどん増えている。
転移門の活用をオッケーにしたのが良くなかったのだろうか。今頃ファマリーの根元では警戒心マックスのドライアドたちが通り過ぎる人々を監視している事だろう。……ちゃんと事前に了承してもらったから機嫌を損ねてはいないだろうけど、何かしら埋め合わせはした方が良いかもしれない。いや、一応僕の土地っていう事だから誰を通そうが僕の勝手なんだけどさ。
ドラゴニア国内にいた時でさえほとんどの貴族とは会う事はなかったから、これを機会にと顔つなぎにやってくる人々もいれば、世界樹の素材が欲しくて何とか便宜を図って欲しいという人もいた。
ウェルランドからやってきたドワーフたちはそういうお願いをしてこなかったけど、会場にあるお酒をがぶがぶ飲んでいる。いったい何をしに来たんだろう。そしてそれを率いているのは何だか見慣れたドワーフな気がするんだけど、娘さんのドロミーさんはどこにいるのだろうか。
ニホン連合からやって来た方々は、キョートだけではなく私の国にも転移陣を、という人たちが殆どだった。
他国の転移陣……ではなくて転移門の設置に関してはガレオールを起点にしていこうと思っているので、そこら辺はランチェッタさんに相談してほしい。
キョートの転移陣は別に他国へ自由に行けるものではない。行く先はファマリーの根元だから勝手に使おうものならドライアドたちがぐるぐる巻きにするかフェンリルが面倒そうに相手をする事になるだろう。
今回はいろんな国々から来てもらって、問題が起きた際に味方になってもらおう作戦なので検討はさせていただくけど、僕は作るだけなので交渉の席を設けて欲しいと言われても困るっす。
しつこい人は僕の近く控えていたジュリウスがつまみ出していた。
「シズト、大丈夫?」
「流石にちょっと疲れて来たかも」
時々休憩を貰っているけど、正直挨拶されても全く顔を覚えられない。
王侯貴族になったらこういう集まりはよくあるっていうし、やらかす自信しかないからやっぱりなりたくないね。
披露宴もあと少しで終わり、という時間帯に数人部屋に入ってきた。
挨拶が終わったと思って気を緩めていたけど、姿勢を正して気を引き締める。
煌びやかな衣装に身を包んだタイプの違う女性たちに囲まれてやってきたのは、白くて長い髭がトレードマークの男性だった。
歳相応の皺が目立つ顔立ちで、その眼光は会場を見渡した時に一瞬鋭くなった気がしたけど、僕の前までやってくる頃には優しい目つきになっていた。
「ランチェッタ女王陛下。この度はご結婚おめでとうございます。あんなに小さくて可愛らしかった女の子がこれほど立派に育って……時の流れとは早いものですのぅ」
「久しぶりに会ってもフランシス国王陛下は相変わらずですね。シズト、この方はフランシス・ドタウィッチ様よ。お察しの通り、ドタウィッチ王国の現国王陛下ね」
「よろしく」
にっこりと差し出された手を思わず握ってしまったけど、ランチェッタさんも誰もとやかく言わないのでこれでよかったのだろう。
「音無静人です。よろしくお願いします」
「シズト殿、と呼んでもよろしいかのぅ? ワシの事も気軽に呼んでくれればいい」
「分かりました、フランシス様」
「いやぁ、それにしても転移陣というのはすごいのぅ。今回は使わなかったが、キョートに行って使って見ても良かったかもしれんのぅ」
「あ、ご興味があるのでしたら、帰りにつかってみますか?」
「そうじゃのう。会場は魔道具の話でもちきりのようじゃし、それもありかもしれんのう」
ご立派な髭を手で弄りながらそういうフランシス様は、風貌や言葉遣いはお爺さんっぽいけど、その姿勢はとても綺麗だった。
僕たちの前まで来る足取りもとてもしっかりしていたし、話を聞いているとどうやら熟練の魔法使いで、この近くまで転移魔法で移動してきたらしい。
事前にランチェッタさんには許可を取っての事だったけど、転移陣を使わなかったのはキョートまで行くのが面倒だったからだそうだ。
「国王が長い間、城を空けるわけにも行くまい?」
「……そうですね」
ふと会場の隅で談笑しているドラゴニア王国の国王陛下を見てしまったけど、普通はそうだよな。
ランチェッタさんもあまり城を空けたくないからと朝晩だけ食事を共にする感じになってるし。
「本当は、シズト殿とゆっくりじっくりと話したい事がいろいろあったんじゃが、どうやらお主は一度ワシの国に来ているようじゃし……待っていれば顔を出してくれるかの?」
「……顔を出さなかったの良くなかったですか?」
「いや、それは構わん。そっちにも都合があるじゃろう? じゃが、今度来るときはゆっくり話せたらいいと思っておる。ワシの国を訪れた際には一度、城まで来てくれんかのぅ?」
「はい、その時はこちらから参ります」
「楽しみじゃのう。いつ来ても問題ないように言伝をしておくからの。明日でもよいぞ」
「ちょっと用事が立て込んでいるので……」
「じゃろうな。のんびり気長に待っておるぞ。その時にでもゆっくり話を聞かせてくれると嬉しい」
「もちろんです」
綺麗なお辞儀をしてフランシス様は離れて行った。
なんだか近所のおじいちゃんと話をしているような感覚になった。
今度話す時も緊張せずに話せそうだ。けど、何があるか分かんないし、レヴィさんと行ける時に行く事にしよう。
その後、余興などを見ながら過ごしていたけど新しい人はやってくる事はなかった。
魔道具の宣伝もしっかりできたし、これでランチェッタさんの立場が安全なものになるといいんだけどなぁ。
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