402.事なかれ主義者は何事もない事を祈った
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ドタウィッチ王国の観光は夕暮れ前には終え、宿に泊まっていた馬車に設置してある転移陣を使ってファマリーの根元へと戻ってきた。
一緒に戻ってきたノエルは、転移陣の前で待機していた人物と目が合うと猛ダッシュで屋敷へと帰って行った。その人物はノエルを一瞥した後、その紫色の瞳を僕に向けてきた。
「お帰りなさいませ、マスター」
「ただいま。こんな所で待ってるなんて、なんかあったの?」
「ご主人様からお伺いしていた予定と相違がありましたので何かあったのかと思い、お帰りをお待ちしておりました」
「あ、はい。ごめんなさい」
「いえ、マスターは自由に過ごしていただいて結構です。万が一に備えていただけですので」
無表情で淡々と話すのは、地面すれすれまで伸ばされた黒い髪と神秘的な紫色の瞳が特徴的な女の子ホムラだ。僕が一番最初に作ったホムンクルスで、最近は営業スマイルも板についてきたらしい。日々の生活は未だに無表情だけど。いつかユキみたいに表情の変化を見る事ができるのかなぁ。
そんな事を考えながら屋敷に戻ると、同じく黒い髪の女の子に出迎えられた。こちらはショートヘアーだった。動きやすさを重視している、とか以前言っていた気がする。
「お帰りなさいませ、シズト様」
「ただいま、モニカ。もうみんな揃っている感じ?」
「いえ、まだ数人いらっしゃってません。屋敷内にはおられるのでシズト様が食堂に向かわれれば集まってくるかと。ただ、ランチェッタ様とディアーヌ様は屋敷にも到着されておりません。もうそろそろ来られる予定なのですが……お食事はいかがなさいますか?」
「皆が集まってからでいいよ」
「かしこまりました」
綺麗なお辞儀をしたメイド服の女の子の名前はモニカ。元奴隷で、今は僕のお嫁さんの内の一人だ。
日本人の血が色濃く特徴として出ているけど、神様から加護を授かる事はなく、苦労したらしい。ただ、細かい事は聞いてない。モニカから話す事があればいつでも聞くつもりだけど、元の身分には関心がないようだ。
とりあえず食堂へと向かうとジュリウスと一緒にモニカも少し後ろからついて来た。ホムラは三階に用があるからと別行動だ。
奥へと進んでいくに連れて何やら話し声が聞こえてくる。
食堂の扉が開いていて、そこから聞こえるようだ。
食堂に入るとそれまで話をしていた人たちの視線が一斉にこちらへと向いた。
最初に話しかけてきたのは、煌びやかなドレスを着たレヴィさんだった。
席を立ち、金色のツインドリルを揺らしながら近づいてきた彼女は開口一番「ずるいですわ!」と言った。
「私も観光行きたかったのですわ!」
「お姉ちゃんも行きたかったなぁ。ラオちゃんもそうよね?」
「アタシは別にどっちでもいい。ジュリウスがついて行ってたんだろ?」
「警備の面の問題じゃないわ!」
「私も行きたいのですわ! ……でも、ガレオールで行われる披露宴の根回しで忙しいのですわ……」
「明日も明後日も王都での用事がびっしりです」
残念そうに肩を落とすレヴィさんの補足をしてくれたのはセシリアさんだ。
レヴィさんの専属侍女として身の回りの世話をしつつ、僕のお嫁さんとして時々僕の身の回りのお世話もしてくれる人だ。有難いけど着替えは一人でできるのでお風呂の度に脱がせようとするのはやめて欲しい。
「僕の代わりにありがとね。しばらく留まるようにジュリーニに改めて伝えておくね」
「………初めてみるものは一緒に見たかったのですわ」
「あー……それはまあ、諦めてもらうしかないかな」
「シズト様が本日見て回ったのは下民街と呼ばれる場所でしたから、平民街や貴族街、魔法学校などはまだ見てないですよ。王侯貴族とのトラブルを避けるためにレヴィア様と一緒に行くつもりの様です」
「本当ですわ!?」
「ほ、本当だけど……? 貴族の相手はモニカかレヴィさん、ジューンさんに任せきりだから誰かついて来てくれないと内壁の内側に入るのはちょっと無理だし」
ジューンさんに視線を向けたが、彼女はエミリーと一緒に給仕をするのに忙しそうだった。
ジューンさんはエルフらしからぬ体型をしているけど、れっきとしたエルフだ。金色の髪に緑色の瞳、それからノエルよりも長い尖った耳――。それらだけを見るとエルフだと断言できるけど、スレンダーな人ばかりのエルフの中では異質な体型の女性だった。
人間からしてみると魅力的な女性なんだけど、エルフからしたらそうじゃないみたいで、お嫁さんになった当初は猫背かつ体型が分かりにくい服を好んで着ていたけど、最近は背筋を伸ばしてのびのびと生活をしている。
最近は僕の代わりにエルフの国のいろいろな事を任せている関係で、貴族や王族関係者との接点も増えているそうだ。ジュリウス曰く、物怖じせず対応する事ができているんだとか。
「交渉とか分かりませんからぁ、レヴィちゃんと一緒に行ける時の方が良いと思いますぅ」
「そうですね。私も魔道具関係の事はさっぱりわかりませんし、相手の考えを読み解く洞察力もありませんからレヴィア様とご一緒に内壁の奥へと向かわれたらよろしいかと」
料理を並べながら僕の視線に答えたジューンさんの後に、モニカも辞退するとレヴィさんはほっとした様子で「何かあった時は任せるのですわ!」と胸を張った。
……何か起きる前提で話しているけど、何も起きない方が良いんだけどなぁ。
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