幕間の物語195.元引きこもり王女たちは直せない
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時は少し遡り、シズトが完成した内壁を見に出かけている頃。
シズトの第一夫人であるレヴィア・フォン・ドラゴニアは、新しくシズトの配偶者となったランチェッタ・ディ・ガレオールを屋敷に連れ込み、二階の談話室と呼ばれている部屋へとやってきていた。
談話室には大きな丸テーブルが置かれ、その周囲を囲うように椅子がいくつか置かれている。
金色の縦巻きロールを揺らしながら入ってきたレヴィアが一番乗りだったようで、室内には誰もいない。
「とりあえず座るのですわ~」
「話とは何かしら」
「全員揃ったら話すのですわ。とりあえず座るのですわ~」
「私も座るので、ディアーヌさんもお座りください」
「分かりました」
空いていた席に適当に座ったレヴィの近くから順番に席が埋まっていく。
レヴィアの両隣にはセシリアとランチェッタが座り、ドーラとディアーヌも二人の隣に腰かけた。
全員が揃うまではのんびりしよう、という事でテーブルに置かれていた魔道具を使って紅茶を淹れて一息ついていると続々とシズトの配偶者が入ってくる。
ラオとルウは屋敷にいた者たちに声をかけてきたようだ。
彼女たちの後から狐人族のエミリーや、狼人族のシンシーラ、翼人族のパメラが入ってくる。
ホムラとユキは魔道具の研究をしていたハーフエルフのノエルの足首を掴み、引き摺って入ってきた。
ランチェッタとディアーヌの視線が彼女たちに向かうが、二人とも気にしておらず、ノエルに至っては仰向けのまま引き摺られつつも魔道具を眺めていた。
ドランの屋敷で任されていた仕事に取り組んでいたモニカは、ジューンと一緒に入ってきた。
最後の二人が席に着いたところで、レヴィアが口を開いた。
「全員が揃ったようですわね。話し合いを始めるのですわ。その前に、初対面の人もいると思うから新しくシズトと結婚した人たちを紹介するのですわ。私の隣に座っているのがランチェッタ・ディ・ガレオール。ガレオールの女王陛下なのですわ」
レヴィアに紹介されると、ランチェッタは席を立った。
胸にある二つの大きな膨らみが揺れる。それを見てパメラが自分の胸と比較して「また大きな人が入ったデース」と呟いた。
パメラの呟きを聞き流して、ランチェッタは丸眼鏡を通して円卓に座っている人たちを見渡した。
「初めに、これだけははっきりとさせておくわ。わたくしは、正室にはならないわ」
「立場を考えたらランチェッタ女王陛下が正室になった方がお互いのためだと思うのですけれど?」
「そうね。ただ、わたくしは貴方たちの事を同じ男性をお慕いしている仲間だと思っているわ。それまでの身分や上下関係とか関係なく対等に協力し合っていきたいの。それに、正室は常に側で支えて上げられる人がなるべきよ。わたくしは今の立場から退くつもりはないからそれはできないわね。ディアーヌもそれでいいわよね?」
「はい。こればかりは曲がらないと存じておりますから」
「……それでは今まで通り私が正室という事でいいのですわ?」
念のためレヴィアが確認してが、異議が出る事はなかった。
一部話を聞いているのか疑念を抱くレベルで他の事をしている者もいたが、聞いていないようで聞いている事を知っていたためレヴィアはそれ以上確認する事はなく次の話に移った。
「今日のお世話係なのですけれど、元々パメラだったと思うのですわ」
「そうデスね! たくさん遊ぶデース!」
「はしゃいでいるところ申し訳ないのだけれど……今日は二人に譲ってくれないですわ? 結婚式後の初夜ですし、あまり時間が取れないなか来てくれているのですわ。ランチェッタ女王陛下とシズトの関係に無粋な横やりを入れられないように、今日済ませておきたいのですわ」
真剣な表情でお願いするレヴィアの隣に座っていたランチェッタは申し訳なさそうに眉を下げながらパメラを見ていたが、本人はきょとんとしたまま首を傾げた。
「別にいいデスよ? 明日にずれるだけデスね? あ、でも明日は夜の見張りの仕事をする日デスね?」
「それはぁ、エルフの人に任せますからぁ、気にしなくていいですよぉ」
「じゃあ問題ないデスね!」
「申し訳ないのですわ」
「次回来るときはお礼の品を持ってくるようにするわ」
「お礼の品デスか!? 美味しいおやつをたくさん欲しいデス!」
「あんまり食べ過ぎると太るわよ」
「エミリーと違って、どれだけ食べても太らないデース。エミリーもシンシーラと一緒に鍛錬するといいデスよ」
「余計なお世話よ!」
「私が太ってるって言いたいみたいじゃん? ちょっと表出るじゃん!」
一気に騒がしくなった室内を鎮めたのはレヴィアだった。
手を叩いて注目を集めたレヴィアは「そういうのは話が一段落着いてからするといいのですわ」と話を元に戻した。
「ランチェッタ女王陛下とディアーヌにそれぞれ自己紹介するのですわ。順番は……――」
「その前にちょっといいかしら?」
「なんですわ?」
「女王陛下、ってわざわざつけるの面倒だと思うから、わたくしの事は呼び捨てでいいわ」
「……分かったのですわ。じゃあ私の事もレヴィで良いのですわ!」
「………流石にアタシらが呼び捨ては気が引けるんだけどな」
ラオの呟きにほとんどの者がゆっくりと頷いたが、結局この日から無理しない程度に呼び捨て且つ敬語を使わずに会話する事になった。
対等な関係を築くための試みだったが、一番苦労する事になったのはレヴィアとパメラだった。
「これは口癖なのですわ!」
「そうデス! 口癖デス!」
「以前から矯正しようと思っていたんですよね。丁度良い機会です」
「無理ですわ~!」
「諦めが肝心だと思うデス!」
セシリアの努力も虚しく、言葉遣いを直す事はできず、次回の話し合いの時に敬称は『さん』か『様』で、話し方は自由となるのだった。
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