395.事なかれ主義者はこれから一緒にご飯を食べようと思った
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ラグナクア、ファルニル、エクツァー、サンペリエそれぞれの国の友好国や同盟国と元都市国家フソーを繋げるための転移門は数日で出来上がった。
組み立て式のそれらはとりあえずライデンに預かってもらい、彼を残してシグニール大陸に戻る事にした。
本当はランチェッタさんの事もあるし一週間で戻るつもりだったんだけど、二週間ほど経ってしまったのはちょっかいをかけてきていた大国ヤマトを南側の旧市街地から追い出した後の処理に時間がかかったからだ。なんか捕まえた人の中には偉い人もいたらしい。まあ、軍隊の中にも貴族は一定数いるよね。
捕らえた人々が汚した街並みは、少しずつ増えていっている元フソーの住人で現在奴隷のエルフたちが一生懸命働いてくれたおかげで綺麗になった。
ただ、地面を鉄で覆っている間はヤマトも攻めづらいのではないか、という意見が四ヵ国間の話し合いで出たらしく、鉄で覆ったまましばらく放置する事になっている。
それが効いているのかは分からないけど、いまだに大国ヤマトの兵士たちは街から離れた場所で街の様子を見ているようだ。もうしばらく戦闘はないだろうとの事だった。
四ヵ国の友好国や同盟国の使者が到着するまでに一度帰ろう、という事になりガレオールにある実験農場に戻ってきた。
あんまりここに長居してもドライアドたちの邪魔になるだろう、と思って出口に向かって歩き始めたところを、農作業を見守っていた現場監督ぽい人に呼び止められた。
「シズト様。ランチェッタ女王陛下がもうすぐいらっしゃいます。今しばらくお待ちいただけますでしょうか」
「別にいいけど……何かあったの?」
「私は何も伺っておりません。ただ、女王陛下にシズト様がいらっしゃったら報告するように、と申しつかっているだけです。女王陛下にお尋ねください」
申し訳なさそうに眉を下げながら頭を下げる騎士の格好をした人にお礼を言って、僕たちはのんびり待つ事にした。
「なんだろうね」
「タイミング的に言えば、結婚式の事だろーな」
「そうね。大事な式だから、ランチェッタ様もシズトくんに確認したいんじゃないかしら。なんていったって女王陛下の結婚式だもの。入念な準備は必要だと思うわ」
「あんまり派手なのは嫌だなぁ……」
レヴィさんたちとした結婚式は参列者も少なくて、パパッと終わったから何とかなったけど、だいぶ配慮してもらってあれだったし。
ただ、ランチェッタさんの場合は、状況が状況だから派手にした方が良いのかも?
少しの間、我慢するだけで後々の面倒事が回避できるなら、まあ……?
んー、と首を傾げていると、現場監督っぽい人にあれも駄目これも駄目と言われて暇を持て余していたドライアドたちが僕の真似か首を傾げていた。
ちゃんという事を聞いているようで安心した。今度フソーに行った時に頑張っているご褒美を上げてもいいかも?
ドライアドたちの様子を眺めながら待っていると、ランチェッタさんが護衛を引き連れてやってきた。
今日は露出の多いドレスを着ていて、今にも胸が零れ落ちそうだった。
胸にばかり視線が向かないように、ランチェッタさんの顔を真っすぐに見ると、彼女の口元が綻ぶ。
「ちょっと会わないだけで久しぶりって感じね。一カ月会わない事なんてよくあるのに、たった二週間でそう思ってしまうのはやっぱり恋をしているからかしら? シズト殿は元気にしていたかしら?」
「うん……って手紙にも書いたじゃん」
「実際に目で見ないと安心できないでしょう? 大国ヤマトが森を荒らしているって聞いたし」
「手紙が来る時間帯になるとそわそわして仕事どころではなくなっていらっしゃいました。大変珍しい事でしたので、シズト様にも見せたかったです」
「ディアーヌ」
「おっと。口が滑ってしまいました。申し訳ございません」
余計な事を言ったディアーヌさんをジロリと睨むランチェッタさんは、咳払いすると首から下げていた丸眼鏡をかけた。
「……そうね、見たところ怪我もないし、魔力の異常もなくて安心したわ」
「これで安心して式を行えますね」
「ディアーヌ」
「話が進まなかったのでつい」
再びじろりとディアーヌさんを睨むランチェッタさんだったけど、眼鏡をかけて視界良好だからか、先程よりは迫力がなかった。
「式って結婚式の事だよね?」
「そうよ。レヴィア王女殿下からそちらで行った式の事は聞いているわ。それと同等の事をディアーヌと一緒に行う予定よ」
「恐れ多い事ですが、シズト様が平等性を重視している、とお聞きしましたのでそのようになりました」
「式自体はガレオールにある三柱のいずれかの教会で行う事にしているの。わたくしは両親も祖父母も亡くなっているから参列者はディアーヌの両親と祖父母、それから兄妹くらいでしょうけど、そちらは誰かいるかしら?」
「特になしで問題ないのですわ。その後、パーティーもするのですわ? もし開かれるならそれにお父様たちが顔を出すかもしれない程度ですわね。いつ頃を予定しているのですわ?」
「直近で申し訳ないのだけれど、式は明日にでも行えたらと思っているわ。公爵派と魚人国の王子殿下が余計なちょっかいを出してきそうだから。パーティーの日程はシズト殿たちが戻ってきてから決めようと思っていたから一週間後くらいでどうかしら?」
「こちらはちょっと顔を出す程度であれば明日でもきっと問題ないのですけれど、そちらの都合もあるだろうからそれでいいのですわ。とりあえず、お父様に連絡しておくのですわ~」
レヴィさんは善は急げと言った感じで駆けだしていった。
その後をセシリアさんが慌てて追い、ドーラさんと近衛兵たちも周囲を警戒するためについていった。
ラオさんとルウさんとジュリウスは僕たちの護衛として残っているし、ジューンさんはホムラとユキに纏わりついているドライアドたちをニコニコしながら見守っていた。
「レヴィア王女殿下は快諾してくれたけど……シズト殿はよかったかしら?」
「……え? ああ、問題ないですよ」
「そう。良かったわ。特に何も言わなかったから急過ぎたのかも、とは思ったのよ」
「あー……それは、ごめんなさい。レヴィさんが加護無しの指輪を付けてなかったから、僕が心の中で考えた事を汲み取って発言とかしてたから任せてればいいかな……って」
「そう? それならよかったわ」
読心の加護にもこんな弊害があるんだなぁ、なんて思いながらランチェッタさんに行う予定の式やパーティーの事を詳しく確認したらいつの間にか昼になっていた。
「お食事はされていきますか?」
「お邪魔じゃなければ」
「邪魔なんてとんでもない。シズト様が同席して頂けたら女王陛下もしっかりとしたお食事をとって頂けるでしょうから、むしろありがたいです」
「……ディアーヌ」
「おっと、また口が滑ってしまいました。それでは、城へとご案内いたします」
ディアーヌさんを先頭に、実験農場を後にする。
ホムラとユキはガレオールの魔道具店の様子を見に行くという事で分かれ、ジューンさんは一足先に屋敷に戻るという事でホムラたちについて行った。
実験農場の外に泊まっていた馬車に、ディアーヌさんとランチェッタさんの二人と一緒に乗り込むと、ディアーヌさんがまた口を開いた。
「久しぶりのちゃんとしたお食事ですし、料理長が張り切ってしまうかもしれません」
「ディアーヌ」
「……ランチェッタさんってちゃんとご飯食べてないの?」
「そんな事ないわ。ちゃんと毎日食べているわよ」
窓の外を見ながらそういうランチェッタさんを、ディアーヌさんは困った子を見るような眼差しで見つめていた。
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