幕間の物語193.同盟国軍は認識を改めた
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クレストラ大陸の元都市国家フソーの中心地、世界樹フソーの根元に突如現れた集団の中心的人物であるシズトの評価は、そこまで高くなかった。
直接取引をしているラグナクア、ファルニル、エクツァ―、サンペリエの四ヵ国の上層部には世界樹を育む事ができる力を持ち、魔道具を自在に作る事ができる利用価値の高い者だと思われていたが、末端の兵士にとっては便利な道具を作り植物を育てるのが得意な庇護対象だと思われていた。
世界樹を囲う森から出てくる時は常に護衛が張り付いていたのもそういう印象を与える大きな要因だった。
だが、その評価が一変する事態がつい先日起こってしまった。
その報告が最初に届いたのは、各国の上層部が一堂に集まっている建物だった。
「……すまない、もう一度言ってもらえるだろうか」
「ハッ。ドラゴニア王国の王女殿下からの連絡で、街の南側を不法占拠している兵士を大量に捕まえてしまった。こちらでは扱いきれないからそちらに対応をお願いしたい、との事です!」
現在、元都市国家フソーの旧市街地の北側は四ヵ国同盟の兵士たちが固めているが、それは南側に布陣していた大量の兵士を見ての事だった。
その大量の兵士のすべてを捕まえたのか、と報告を受けたラグナクアの将軍は尋ねたが、報告をした兵は首を振った。
「その多くが旧市街地を放棄して前線を下げているそうです。数日前に突如南側の街の地面を覆った鉄のような物を警戒しているようです」
「危険な物なのか?」
「いえ、その様には見受けられません。南と北の境界近くまで覆っていたので確認させましたが、特に何もありませんでした。王女殿下からは鉄のような物で覆われた地面は気にせず、指定されたポイントにいる兵士を無力化して持って行って欲しい、との事でした。放っておくと死んでしまうから、と」
「だったら彼らがすればいいんじゃないか?」
それまで黙っていたエクツァーの将軍が口を挟み、言い返そうとしたラグナクアの兵士はエクツァーの将軍に睨まれて口を閉じた。
ただ、それをラグナクアの将軍が待ったをかけた。
「彼らがしない理由に心当たりは?」
「……人数の問題でしょう。彼らは多くても十数名。それに対して捕虜は軽く千を越えているそうです」
「千か……およそ百倍の人数差をどう埋めた?」
「見ていないので何とも申せません」
「……そうか」
「理由探しをこんな所でしてないで、さっさと向こうに聞いてみればいいじゃん」
そう言ったのは、黙って成り行きを見守っていたファルニルの将軍だった。
将軍たちの中でも一番若い彼は、気楽にそう言うと「会議終了~」と言いながら部屋から出て行こうとしたが、それを止めたのは同盟国最後の一国サンペリエの将軍だ。
「向こうの求めに応じるのであればそれ相応の報酬を頂く必要があるのではないだろうか。千人単位の捕虜の世話をするのだ。そのくらい求めても問題ないだろう?」
そうして、それぞれの同盟国や友好国とフソーを繋ぐ転移門の設置を約束された四ヵ国は、駐屯していた兵士たちの半数を旧市街地の南側へと向けた。
そこで兵士たちを待っていたのは、地面も建物も鉄で覆われた不思議な光景だった。
「これやったの、異大陸から来た世界樹の使徒らしいぞ」
「んなわけねぇだろ。魔道具を作ったり植物を育てる力しかないって話だぞ?」
「物を作る加護もあるらしいぞ。それで、地面と建物を覆ったんだってよ。どうやったのか聞いたら異大陸の王女殿下が教えてくれたそうだ」
「箔でもつけようとしてんじゃねぇの? ほら、世界樹の使徒ってあのいつも守られてる弱そうな男だろ? 俺たちの中にもあいつの事舐めてる奴が一定数いるから、そういう事にして舐められないようにしてんじゃね?」
「舐められないように隠さずに伝えたかもしれないけど、地面を鉄で覆った力は彼の加護の力で間違いないだろうね。確か【加工】の神の力だったはずだ」
「聞いた事もねぇなぁ」
「だから見た事もない光景を作れるんじゃないのか?」
そんな事を喋りながら歩いていたが、何かを叩く音と振動を感じた者が数名いて、進軍が止まった。
斥候が出され、確認させるとどうやら鉄で覆われた建物の中から助けを求める声が聞こえるとの事だった。指定されたポイントだったため、警戒しながらそちらへと向かうと、鉄で覆われた建物のいくつかに空気穴が開いていて、そこから声が聞こえるようだった。
兵士たちが警戒態勢のまま建物を囲むと、タイミングよく建物を覆っていた鉄が液体のように流れていき、内側からボロボロに壊された建物が倒壊した。
逃げようとする者たちが数名いたが、多勢に無勢で全員拘束された。
倒壊した建物の下敷きになった者たちは、数日何も食べていないという事で抗う力も残っていないようだ。
「……世界樹の使徒様はいらっしゃったか?」
「いえ、見つかりませんでした。話を聞いていた通り、指定された地点に行くと拘束が解かれるようですね」
「…………下級兵士の者たちに無駄な言動は慎むようにと伝えておけ。声を聞かれているかは分からんが、行動は監視されているだろう。もしも気分を損ねるような事があったら、俺たちが捕まる側になるかもしれん」
「かしこまりました」
その後、四ヵ国の兵士たちは街を見て回り、建物の中に閉じ込められたり、道の真ん中でまとめて足元を拘束されている者たちを見つけ、捕えて行った。
捕らえられている者たちを全て拘束する頃には、兵士たちのシズトに対する思いは変化していた。
普段は争いを嫌う穏やかな性格だが、怒らせたらマズイ相手である、と。
行きとは対照的に、帰りはとても静かな行軍だった。
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