391.事なかれ主義者は詫びの品を選定する
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世界樹の世話をするために数日間、シグニール大陸に戻っていたら、その間に世界樹フソーの周りが騒がしくなっているそうだ。
「森に被害が出てドライアドたちが騒いでしょうがねぇんだけどよ、シズト様、どうするんだ?」
「どうするって言われてもねぇ。向こうの状況が分からないけど、僕が行くわけにも行かないし……ああ、アレがあった」
視界の先にはUFOみたいなフォルムをした円盤が地面に置いてあった。
こっちに放置していたそれは『ドローンゴーレム』と名付けた遠隔操作系のゴーレムだ。
コントローラーだけはアイテムバッグに入れて保管していたので、ホムラとユキにスクリーンや魔動投影機の準備をしてもらって、ドローンゴーレムを起動してみた。
ドローンゴーレムに搭載された『魔動カメラ』が写したその映像は、リアルタイムで『魔動投影機』と同期してスクリーンに投影されている。
「これでちょっと偵察してみようか。アダマンタイト製だから壊れる心配もないし」
「動かしてみたいのですわ!」
「別にいいよ。……あ、でも偵察ってなると音とかも拾えた方が良いか」
ドローンゴーレムには集音マイクみたいなものは付けてないし、投影機にはスピーカーがない。
偵察ならばありとあらゆる情報があった方が良いだろうし、その方がドローンぽいからつけられるならつけてみたいんだけど……うん、できそうだ。
ドローンゴーレムや魔動投影機に【付与】をしている時に、ラオさんの視線をとても感じたけれど、ため息を一つ吐かれただけで特に止められなかった。
止めないの? と尋ねるルウさんには「しっかりとこっちで管理すればいいだろ」と言っていた。
「……ちょっと魔力消費激しいかも」
「大丈夫なのですわ! 魔力量には自信があるのですわ~」
確かにレヴィさん、ずっと身体強化をしつつ魔道具を使っても倒れた事ないもんね。
レヴィさんがコントローラーに魔力を流すと、ドローンゴーレムが起動した。
スクリーンに僕たちが映し出される。
「音声機能はどうかな? ちょっとドーラさん、小さな声で何か言ってもらえる?」
「ん」
ドローンゴーレムの後ろに回り込んで観察をしていたドーラさんが、レヴィさんに操縦されて近寄ってきたドローンゴーレムを両手で軽く挟むと小さな口を開いた。
『おなかすいた』
「……偵察しながらおやつにしようか」
『ん』
「レヴィさんはおやつどうする?」
「シズトに食べさせてもらうから大丈夫ですわ~」
「僕が大丈夫じゃない気がするんですけど?」
「身内だけだからいいと思うのですわ?」
「ちっちゃい子たちが見てるでしょ?」
「じゃあ建物の中に移動するのですわ!」
そういうとレヴィさんはコントローラーを持ったまま建物へと向かって行ってしまった。
ラオさんは苦笑を浮かべて魔動投影機を抱えて歩き始め、ルウさんは「私はシズトくんにあーんしてあげたいなぁ」とか返答に困る事を言いつつスクリーンを持って追いかけて行った。
「……とりあえず、ドーラさんもそれ放っておいていいからいこっか」
「ん」
聞こえる程度の大きさで短く返事をすると、ドーラさんはドローンゴーレムを離して駆け寄ってきた。
ジュリウスは建物の外で警戒するらしいし、ホムラとユキはライデンともう少し話をするようだったので、ドーラさんと仲良く並んで建物へと歩いて向かった。
世界樹フソーの根元にあった建物は、先代の世界樹の使徒が使っていた事もありいろいろ大きかった。
こんなにも大きな建物の中で一人で生活をするのは僕は無理だな。部屋はもっと狭くていいし、こんなにあっても掃除が大変だし……ああ、今はもう埃吸い吸い箱とか色々あるから掃除の心配はしなくてもいいのか。
どうでもいい事を考えている間にスクリーンや魔動投影機の準備は終わって、レヴィさんがコントローラーに魔力を流した。
スクリーンに映像が移り、スピーカーからは音が聞こえる。
「それじゃあ動かすのですわ~」
「くれぐれも安全飛行でお願いね」
スピードを出しすぎて木にぶつかるとドライアドたちから抗議が入るだろうから。前回がそうだったし。
室内に置かれていた高そうな革張りのソファーに腰かけていると、ポテトチップスが山盛りになったお皿を持ったドーラさんが僕の隣に腰かけた。
建物内という事で護衛はおしまい、と全身鎧を脱いだドーラさんの重みで少しソファーが沈む。
ポリポリと食べるのにつられて僕も食べ始めると、今度はレヴィさんが操作しながら椅子から立ち上がってボクの隣にやってきた。
勢い良く座ったから結構揺れた。
視線を逸らしていると、ドーラさんが僕の膝の上にポテチの入ったお皿を置いて、そこから取って食べ始めた。
「私も欲しいのですわ~」
「好きに取ればいいんじゃない?」
「手が塞がっているのですわ! 食べさせて欲しいのですわ」
「だって、ドーラさん」
「忙しい」
パリパリパリパリと食べ続けるドーラさんは助け舟を出してくれなかったので周囲を見回したけど、皆スクリーンを見ながらくつろいでいた。
……誰も見ていないならいいか。
口を大きく開けたレヴィさんの口の中にせっせとポテチを入れていく。
お皿の中にポテチがなくなると「追加」と呟いたドーラさんがアイテムバッグから取り出したポテチが入った皿と僕の膝の上に乗った皿を取り換えた。
ラオさんとルウさんはスクリーンの方をジッと見て何か話をしている様だったけど、声が小さすぎて聞こえない。
「……そろそろみたいですわね」
スクリーンには森の中を進む様子が映し出されていたけど、ちらほらとドライアドたちが映るようになってきた。どうやら日中は彼女たちが見回りをしているらしい。外からの攻撃で怪我をしないように離れたところから植物たちの様子を見ている彼女たちは、ドローンゴーレムに気付いた様子だったけど、状況を理解しているのか、追いかけてくる事はなかった。
ドローンゴーレムが森を抜けだしたようで、周囲が一気に開けた――と思ったのも束の間、勢い良く後退したのか景色が一気に戻っていく。
「レヴィさん?」
「私じゃないのですわ!」
「吹き飛ばされたみてぇだな」
「タイミングが悪かったのかしら」
「暢気な事を言ってる場合じゃないよ!? ほら、ドライアドたちが集まってきた! 謝らないと!」
「……こっちの声は向こうに届かないのに、どうやって謝るのですわ?」
「…………そうっすね」
格子の向こう側の人と話をするためにもその機能はつけとかなくちゃいけなかった。
レヴィさんにはドローンゴーレムを操作してもらって、来た道を戻ってもらう。
僕はその間に、ドライアドたちに対してどう詫びるのか考えるのだった。
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