幕間の物語191.賢者たちは対面した
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シグニール大陸の北にある国ドラゴニア王国はダンジョンで有名な国だったが、今では世界樹でも有名になりつつある。
ドラゴニア王国の最南端に広がる不毛の大地に、シグニール大陸三本目となる世界樹が生え、世界樹の素材が出回るようになったからだ。
出回るといっても今はまだ葉っぱや枝だけだったが、それでも世界樹の素材を求めて多くの商人が不毛の大地にある世界樹へと集まった。
そんなドラゴニア王国の最南端に聳え立っている世界樹ファマリーの周りには、町が広がっていた。もう街と呼べるほどの規模になりつつあるその町では現在、町の拡張工事と共に城壁の建設が進められている。
町を行き交う浮遊台車にはレンガがたくさん載せられており、首輪を着けた子どもたちが押して移動していた。
町の大通りでは、浮遊台車が走る場所は歩行者のための場所とは明確に分けられているため、歩行者が横断をするための横断歩道も設けられている。
いくつかの横断歩道を渡って宿屋が多く建ち並ぶ西区から行政に関わる建物が多く集まっている南区へと向かって歩いているのは、シグニール大陸の勇者である金田陽太、黒川明、茶木姫花の三人組だった。
先頭を歩くのは魔法使い然とした格好の黒川明と真っ白なローブを身に纏った茶木姫花だった。何やら話をしながら歩いている。
その後ろをついて歩くのは金田陽太。金色に染まった髪を弄りながら通りを歩いている人々に視線を向けていた。
「わざわざ迎賓館まで呼ばなくても、宿屋に来ればいいのに」
「向こうにも都合があるんじゃないですか? あくまでこちらは住まわせてもらう側ですし、余計な事を言って国外追放とかになっても助けませんから気を付けてくださいね」
「分かってるわよ」
姫花が可愛らしい顔を不快そうに歪めているのには理由がある。
彼女たちがのんびりと朝食を食べている頃、急にやってきた使いの者に迎賓館に来るようにと言われたからだった。
束の間の休憩、という事で今日はのんびりと過ごすのだと決めていた姫花だったが、流石に王家からの呼び出しを無視するわけにも行かなかったので、しぶしぶ真っ白なローブに着替えて今に至る。
「台車タクシーは捕まらないから歩くしかないし、ほんと最悪なんですけど~」
「仕方ないですよ。エンジェリア帝国に対する防衛手段として防壁が必要なんですから。下手したら戦争が起きるかもしれませんし、そうなった場合、向こうが真っ先に攻めてくるのはここでしょうからね。不毛の大地がありますから簡単に侵攻する事は難しいでしょうけど、少なくともエンジェリア帝国からファマリアに来る程度はできるでしょうし、備えておくのは大事じゃないですか」
「そーだけど~、そうじゃなくてさー、歩くのが面倒だって話じゃーん」
「楽してばかりだと太りますよ」
「シズトは太ってなかったじゃん」
「……見えない所で努力してるんですよきっと。ほら、太りたくなかったら歩いてください。冒険者で太ってて動きが遅かったら致命的ですよ」
この世界で肥満気味なのは、街で生活を営んでいる者ばかりだ。
中には例外もいるが、冒険者の多くは太っておらず、動きも俊敏だった。
むしろ太っていると自己管理すらできていない者と笑われる事すらある。
それを理解しているわけではないが、前世の価値観で痩せている方が可愛い、と思っている姫花は不貞腐れつつも歩き続けた。
迎賓館に到着すると、そこで働いている使用人が現われて、部屋に通された。
しばらく三人並んで待っていたが、一時間ほど経っても待ち人が現われない。
だが、明は苛立った様子もなく、アイテムバッグの中に入れていた魔法に関する事が書かれた本を読み込んでいたし、姫花は爪の手入れをしていた。
陽太はというと、部屋に控えている侍女と少しでも話をしたくて何度も紅茶を飲み干してはお代わりを所望していた。途中からティーポット型の魔道具が机の上に置かれて、自分で注ぐように言われていたが。
(シズトはなんでもかんでも魔道具にしますね。まあ、僕も同じ加護を持っていたらそうしていたでしょうけど。いや、シズトよりももっといろいろ試しに作って、やらかしていたかもしれません)
付与の加護を授からなくて良かった、と明が改めて考えていると部屋の扉が開いた。
侍女が開けた扉から入ってきたのは、兵士を引き連れた男性二人組だった。
一人は金色の髪を短く刈り上げた中年の男だ。青い目は眠たそうな印象を見る者に与える目つきだった。
彼の名前はラグナ・フォン・ドラン。ファマリアから来たに行ったところにある公爵領を治めている領主だ。
もう一人は肩にかかるほどまで伸びた金色の髪を外側にカールさせている男性だ。
この国の国王であるリヴァイ・フォン・ドラゴニアだ。鋭い目つきで立って出迎えた三人を一瞥すると「楽にせよ」と端的に言葉を発して、自分は明たちの前に座った。
陽太も座りかけたが、明が座らないように腕を掴み、身体強化を使って立ち上がらせた。
ラグナが席に着くと、三人に「座っていいぞ」と声をかけた。
一言礼を述べてから座る明を真似て姫花と陽太も席に着いた。
「今回呼んだのは他でもない。すぐにダンジョンの探索をしたい、という事だったから急ぎで護衛を見繕った。軽く紹介しよう」
ラグナが視線を向けると壁際に控えていた兵士たちが前に歩み出た。
ラグナは一番左の女性を指で示した。
「一番左の女性はカレン。『怪力』の加護を用いて身の丈以上あるハンマーを軽々と振り回す兵士だ。アキラ殿の護衛兼、前衛職として使ってやってくれ。一番右にいる大男はシルダーだ。ヒメカ殿の護衛兼盾役として活用してくれ。真ん中にいるのはヨウタ殿の護衛としてつくラックだ。冴えない見た目をしているが、どんな厳しい状況でも生き残ってきた運のいい兵士だ」
「ちょっと待て……ください。どうして俺の護衛だけ同性なんですか?」
「アキラ殿がその方がお互いのためだと言ったからだ」
「はぁ?」
「パーティー間で面倒事を作らないためですよ。それにいいじゃないですか。陽太はドランに住んでお店で済ませるつもりなんでしょう?」
「それとこれとは話が別だろ!」
「どうせ放っておいても向こうから相手はやってくるでしょ」
「そうだな。貴殿らには接触するなとは言っておらんから、血を取り込むために接触してくるだろうよ」
「できれば僕たちにも余計な手出しをしないように通達をしてもらいたいのですが……」
「であれば、自分たちが有用だと示せ。三人合わせてシズト殿と同じくらい有用だと示す事ができれば、ある程度の望みは叶えてやろう」
リヴァイにバッサリと要望を断られても明は残念そうな表情をする事もなく、ただ「そうですか」とだけ呟いた。
姫花はシルダーと呼ばれた男性を値踏みするかのようにじろじろと見ていたし、陽太はまだ納得いかない様子だったが、明は護衛を付けるにあたって一通りの条件を確認するのだった。
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