388.事なかれ主義者は落ち着いてきた
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王城の一室は当然のごとく広くて、なんか豪華で、今座っている椅子も高そうな物だった。
……いや、世界樹の素材で作った椅子の方が高いのかな?
んー、分からん。
首をひねりながら考え事をしていた僕の正面には褐色肌の女性が座っていて、僕を真っすぐに見つめてくる。
小柄な体格に不釣り合いなほど主張が激しい規格外な胸の膨らみを持つ灰色の髪の女性はランチェッタ様。ガレオールを統べる統治者だ。
灰色の髪の上には重たくないの? って聞きたくなるほどいろいろついた豪華な王冠が載せられている。
最近のお気に入りなのよ、と教えてくれた魔道具化した黒いドレスを着ている。
露出は少ないんだけど、ついつい胸に目が吸い寄せられてしまうのはレヴィさんと同じくらいの膨らみがあるからだろうか。
レヴィさんは魔道具の効果であれだけ大きくなったみたいだけど、ランチェッタ様は何も使わずこれだもんな。ある意味チートだと思う。
極力そこに視線が向かわないように視線を彷徨わせる度に目についた調度品をランチェッタ様が説明してくれた。
説明してもらう物がなくなってしまったタイミングで、先程から気になっていた事を尋ねる。
「ランチェッタさ……ん、もしかして疲れてる?」
つい敬語や敬称を使いそうになったけど、今室内にはランチェッタさんと僕しかいない。
他の人たちは部屋の外で待機してもらっている。
ランチェッタさんがそれを望んだからそうなったんだけど、二人だから敬称も敬語も不要だ、という事でこうなった。
まあ、慣れてないからありがたいんだけど……どうしても一人だとちょっと心細い。
ジュリウスほどになると、魔力探知で中の様子が分かるから何かあればすぐ来てくれるそうだけど、それでも近くに誰かいないとそわそわする。
ただ、そんな僕でも何となくわかるほど、ランチェッタさんの顔に疲労の色が見て取れた。
「手紙ではだいぶ楽になってきたって読んだけど……もしかして繁忙期的な感じ?」
「いいえ、違うわ。ただ……そう、あなたに会えると思うと眠れなくて、つい夜更かしをしてしまったの」
「そう? それならいいんだけど……」
視線を彷徨わせて答えたランチェッタさんはどこか歯切れが悪かった。
ただ、男で平民の僕には言い辛い事もあるだろう。
無理に聞き出す事なく、お茶会を楽しんだ。
用意された焼き菓子はどれも美味しかった。
代わりに、ランチェッタさんには、僕が作った魔道具で淹れた紅茶を飲んでもらった。
「自分で淹れた物よりも美味しいわ」
……既にこの魔道具は購入していたらしい。
どうりで、机の端の方に見覚えのあるポットがあると思ったんだよなぁ。
お茶会、というか密会? は何事も無く終わった。
ランチェッタさんが手を叩いて合図を送ると、扉が開いて外で待っていた皆が中に入ってきた。
「有意義な時間を過ごせたのですわ?」
「ええ、おかげ様で」
「良かったのですわ~。じゃあ、そろそろお暇するのですわ?」
「そうだね。特にやる事はないし」
そう言うと、レヴィさんと一緒に入ってきたランチェッタ様の侍女が眉間に皺を寄せて首を傾げた。
「……ランチェッタ様。例の件はお話されてないのですか? お話するお約束をしたかと思うのですが、私の勘違いだったでしょうか」
「…………」
「ランチェッタ様?」
「……はぁ。ちょっと忘れていただけよ」
「婚約者がいるランチェッタ様に、求婚してきた隣国の王子の話は忘れられるほどどうでもいい事ではないはずですが?」
「うるさいわね。話すタイミングがなかっただけよ」
僕たちが目を丸くしているのを見て、ディアーヌさんが深くため息をついた。
それから小声でランチェッタさんに「自分で求婚されたって言えないなら。私から言いますよ」と囁いているんだけどさっきから思いっきり聞こえてるんですけど……。
レヴィさんを見ると、待っている間にディアーヌさんの心を読んだのか、驚いた様子はなく、肩をすくめるだけだった。
「ちょっと立ち入った話のようですし、扉を閉めて話をするのですわ?」
「そうですね。シズト様には大変申し訳ございませんが、今一度ご着席ください」
「あ、はい」
有無も言わせない感じだったし、ランチェッタさんの疲れた様子も気になったので大人しく言う事を聞いて座ると、ディアーヌさんは満足そうに頷いた。
ただ、ランチェッタさんはディアーヌさんに厳しい視線を向けている。
「何勝手に決めてるのよ!」
「こればっかりは婚約相手であるシズト様にもしっかりと説明するべきです。ほら、ランチェッタ様も座ってください」
この部屋は二人だけで会うために用意されていた部屋なのか、椅子が二つしかなかった。
ジュリウスに視線を向けると、既に僕の求めている物が分かっていたようで、木の板をアイテムバッグからたくさん出してくれた。
今座っている椅子をお手本にしながらササッと椅子を作っている間に、ランチェッタさんは諦めたのか、深いため息をついている。
レヴィさんとジューンさんが両隣に座った。
あ、そういえば――。
「ねぇレヴィさん、この部屋の椅子と世界樹の素材で作った椅子どっちが高いの?」
「そうですわね。希少性も考慮すると、世界樹の素材で作った椅子ですわね」
「そっかー」
そう考えたら豪華な椅子に座っていても、落ち着けるような気がしてきた。それに皆もいるし。
ただ、人数分椅子を作ってみたんだけど、レヴィさんとジューンさん以外は誰も座ってくれなかったし、ラオさんはため息をついていた。解せぬ。
そういえばHJ小説大賞一次選考通過してました。
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