385.事なかれ主義者はあんまり関わりたくない
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お金をたくさん稼ぎたい、という訳ではないので魔道具店はキョートの首都フシミの端っこの方に開く事にした。
商業ギルドの紹介の元、案内された場所に建っていたのは今にも倒壊しそうな小さな家屋だった。何度も本当にここでいいんですか? とか、こんな建物でいいんですか? とか聞かれたけど、転移陣を設置して拠点にできればそれで十分だったからここに決めた。
寝る前に行っている【加工】のおかげで、素材が金属や木材で原形を留めていればある程度元通りに直せるようになったので【加工】を使ってサクッと直した。
周囲にある建物と比べると真新しくなってしまったけど、まあいいや。
防衛用のゴーレムを店の前の目立つところに立たせると、近所の子どもたちが物珍しそうにつついている。ゴーレムがモゾッと動くと、蜘蛛の子を散らすように逃げていくが、しばらくすると戻ってきてまた逃げてを繰り返していた。
玄関は引き戸だった。そこを開け放って今は掃除中だ。
まあ、掃除と言っても僕が手伝える事はないんですけどね。
「掃除は慣れてますからぁ、お任せくださぁい」
ニコニコしながら自陣満々にそう言ったジューンさんが精霊魔法をちょちょいと使えば、長年溜まっていた埃などが開け放たれた窓から外へと飛んで行ってしまった。
中に放置されていた家財道具一式は、ラオさんとルウさんがせっせと運び出し、セシリアさんが手配した廃品回収業者? に引き渡していた。
やる事がないので家の探索をしてみたけれど、他の魔道具店に置いてあるような大きな棚を置くスペースが見当たらなかった。
玄関から入ると少し広めの土間があって、炊事などをしていたのであろう名残がある。物が置けるスペースがあったので、壺を掲げたエント様の像を作って、魔力を流すと壺の口からドバドバと水が出るようにしてみた。……不敬かな? 怒られたら蛇口にしよう。
土間と居住スペースを分けるように段差があって板張りの床だった。その奥に居住スペースと思われる部屋が二つだけある。
一番奥の部屋に転移陣と防衛用の魔道具を設置するとして、手前の部屋をお店としよう。
僕と一緒に見て回ったジュリウスが室内を見渡しながら若干眉を寄せた。
「……やはりもっと広めの建物の方が良かったのでは?」
「んー、まあそうだけど……あんまり規模を大きくし過ぎると何かあった時に撤退し辛くなるから」
「……なるほど」
転移陣を設置させてもらえるから魔道具店を開こうと思ったけど、観光さえ終われば後は必要ないので何かあれば撤退する気満々だ。
だから大きなお店を持つつもりはないし、従業員も必要最小限しか用意しない。
少数精鋭で護衛を常に世界樹の番人たちの中から派遣し、お店もエルフに任せてみるつもりだ。
何かしらのお役に立ちたい、とユグドラシルにいるエルフたちから常々言われていたので、お試しで任せてみるけど……エルフが問題起こしても撤退する事にしよう。
板張りの所はお客様が座ってお話をする場所にするとして、真新しい畳が敷き詰められた部屋に、玄関との仕切りのようにカウンターを設けた。一応人が通れるスペースは作ってみたけど、必要な時だけ板を外して通る形にした。
跨ごうと思えば簡単に跨げてしまうけど、まあ、その時は護衛の人たちに頑張ってもらおう。
……店内にも全身鎧をいくつか置いて、ゴーレム化しておこう。
一通りする事が終わったらクーを馬車に乗せてジュリーニたちには出発してもらった。
僕たちと入れ替わるようにやってきたエルフたちに警備を任せて、馬車が出発する前にファマリーの根元へと戻って最初にした事は転移陣の設置だ。
その転移陣は設置してすぐに淡く輝き始めたかと思えば、光が強くなり、仮面をつけた世界樹の番人が目の前に現れた。
「問題ないようだね」
「ハッ。向こうに戻ります」
「よろしくね」
再び光が強くなったかと思えば、名前も知らないエルフさんはその場から消えてしまった。
転移陣の管理はドライアドたちに任せて、屋敷へと戻る。
ちょっと遅めのお昼ご飯を食べていると、給仕をしていたエミリーが僕の近くにやってきた。
モフッと白い尻尾が当たってるんだけど、と尻尾を見てからエミリーの顔を見ると「当ててるんです」とすました顔で言われた。
「お昼前に勇者様方がいらっしゃいました。警備をしていたアンディーが気づき声をかけると、シズト様にお話があるそうでやってきたそうですけど、立て看板に入ると危険という文字を見て、ファマリー周辺の畑には入らず、境界線付近で中の様子を窺っていたようです」
「なるほど。来客用にやっぱりインターフォン的なの作った方が良いかな?」
「いんたーふぉんが何かは存じ上げませんが……来客を報せる何かですか?」
「まあそんな感じ。こう、外に取り付けた物についているボタンを押すと、離れたところに設置してある物が鳴るんだよ」
「呼び鈴でいいんじゃねぇか、それ」
…………そうかな?
昼食を食べ終えたラオさんは魔力マシマシ飴を舐めながら話を聞いていたようだ。
「要は来客が来た事を報せる物があればいいんだろ? 鈴じゃ聞こえねぇだろうし、鐘かなんかで十分だと思うがな」
「……でも、鐘だと誰が来たかまでは分からないでしょう? インターフォンだったら、周囲の様子も見れるから、どんな人が来た分かって心の準備ができるよ! それに、通話できるようにしてしまえば勝手に入ってきてもらう事もできるし」
「まあ、シズトの好きなようにすればいいけどよ……勇者たちはどうすんだ? 会うんだったら着替えずにこのままいるけど」
「あー……そうだねぇ。用件は聞いてない?」
「会って話をしたいと言っていたそうです。宿屋にいるそうなので、暇だと騒いでいるパメラにでも手紙を渡して届けてもらおうかと思います」
「伝言頼んでもすぐに忘れちゃうもんね。パメラが物忘れしないような魔道具があればいんだけど……」
んー、と考え込んでいるとラオさんが咳払いをした。
そちらを見るとジト目のラオさん。
「あ、はい。今日会います」
面倒臭いけど屋敷に招きたくはないから迎賓館で会う事にしよう。
エミリーに手紙を書くようにお願いして、僕はせっせとお昼ご飯を食べた。
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