380.事なかれ主義者は恥ずかしくてできなかった
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トネリコのお世話をサクッと済ませたけど、ファマリーに戻ってきたのは少し経ってからだった。
トネリコ周辺で暮らしている褐色肌のドライアドたちからもプレゼント攻撃を食らったからだ。
トネリコに行く前は出待ちをしていたファマリーのドライアドたちに同じ攻撃を食らったけど、やっぱり縄張り意識的な物があるのだろうか。
これは私たちの物だぞ、的な。
「ドライアドたちの生態系に詳しい人っていないかな」
「私たち以上に詳しい人はいないと思うのですわ」
「ですよねー」
畑作業が一段落したレヴィさんに笑われた。
僕もそうかな、とは思ってたけどやっぱりそうだったみたいだ。
僕たちの中で一番ドライアドに詳しい……というか親しいのはレヴィさんだろう。
レヴィさんでもよく分からない事をその他の人たちが分かるわけがない。
つまり、この縄張り争い的なプレゼント攻撃を避ける方法は自分たちで探していくしかないのだ。
何かしら問題が起こると困るから、古株の子同士を会わせるのがいいかもしれない。
青バラちゃんは今日もアルバイトに励んでいるので今すぐは無理だけど。
「そんな事より、早く行くのですわ!」
「はいはい」
急かすレヴィさんに引っ張られながら歩き始めると、前にいたジュリウスも歩き始めた。
リヴァイさんたちが待っている迎賓館に行くのはもう少し先の時間だけど、先程話し合って町で食事をとる事になったのだ。
セシリアさんはレヴィさんの数歩後ろからついてきていて、ガチャガチャと音を立てながら歩いているドーラさんはその隣に並んでいる。
二人は軽く食事は済ませているという事で、基本的に食べるのはレヴィさんと僕だけの予定だ。
畑をしばらく進むと、町との境界線が近づいてきた。
町に近づくにつれてドライアドたちからの視線は少なくなってきたけど、その分町の子たちの視線が増えていく感じがする。
町に一歩踏み入れると、周囲にいた人々は思い思いの事をしているけど知ってる。僕の視線から外れると僕をジッと見てくるって。
だるまさんが転んだをしたら面白い事になるんじゃないか、と思ったけどレヴィさんに引っ張られるので放っておく事にした。
何かがあればジュリウスが止めてくれるだろうし。
「それで、どこに食べに行くの?」
「そうですわね……時間も時間ですし、迎賓館の近くで済ませようと思うのですわ」
「一覧はこちらに準備しております」
事前に聞かれるであろうことをまとめておいたのだろうか。
セシリアさんから差し出された紙には、迎賓館の周りだけではなく、ファマリア全域の情報が載っていた。
新しくどんどん建物が建てられている外側に新しく参入してきた屋台が集中しているようだ。
ただ、今回は迎賓館に向かうまでのルート上にある所に行く事にしているので、とりあえず迎賓館のある方へ進みながら気になった所で食べる事にした。
南の区画には迎賓館だけではなく、ドラン公爵の兵士たちが生活している駐屯地や、以前作った円形闘技場がある。
また、兵士たち用に作った公衆浴場もあった。普段は兵士の人ばかりだけど、外から来た人たちはここで体の疲れを癒す事が多いようだ。
町の子たちは基本的にアパートの中に作られている共同のお風呂場を使っているはずだけど、公衆浴場を出入りする人の中には奴隷の姿も見えた。
「大きな風呂が好きな子が使っているようです」
「あー、まあ気持ちは分かるかも」
僕が見ている方向で何となく察したのか、セシリアさんが教えてくれたけど、何となくわかる。
家にお風呂があるけど、近所の銭湯に行きたいときもあるよね。
ただ、奴隷の子たちが生活しているのは北の区画だからめちゃくちゃ遠いんじゃないだろうか。
ファマリーの根元を真っすぐ通り抜ける事ができれば近いだろうけど、ぐるりと一周する必要がある。
「それぞれの区画で公衆浴場作った方が良いかな」
「そうですわね、棲み分けができていいと思うのですわ!」
「同じ物をポコポコ建ててもつまらないだろうし何かしらの特徴は付けたいけど……」
「同じ物でよろしいのでは? 近場に作っても『あっちの方が良い』となってしまいますし」
「……そうだね」
元々遠くからわざわざここまで来るの大変だろうな、って事で作ろうと思ってたのに違いを作ってしまったら「あっちに行きたい!」ってなるか。
じゃあ全く同じ物を作る事にして、レヴィさんに建築家と場所の確保をお願いしておいた。
「そんな事よりも何を食べるのですわ? 南区では、ここら辺が一番飲食店が多いのですわ」
「そうだねぇ。ラオさんたちがいればいろいろな物を食べれたんだけど……」
「ん、護衛があるから無理」
ドーラさんが自己申告してくれたとおり、基本的に彼女は護衛中そこまで食べない。
朝と夜にドカッと食べて、お昼はいつも僕と同じか少し少ないくらいしか食べないのは、食事に集中しすぎて護衛が疎かになるといけないから、というのもあるけど単純に防具を身に着けたままだと食べ辛いからだそうだ。
そうなると大食いの人の協力を得られないので自力で食べ切るしかない。
ただ、ここら一帯のお店は駐屯兵向けの所が多く、安くて量が多い物が多いようだ。
どこにするか迷う時間がもったいないので、町の子たちがたくさん並んでいる店に並んだ。
列はどんどんと進み、自分たちの番になった。
お店の人は驚いた様子だったけど、他の子たちと変わらず僕たちを空いている席に案内してくれた。
レヴィさんと向かい合わせに座ると、セシリアさんとドーラさんはレヴィさんの近くに立ち、ジュリウスは僕の後ろにやってきた。
お店の人の迷惑にならないように気を付けているようだけど、座るつもりはないらしい。
書かれているメニューはどれがどれか分からなかったのでとりあえずオススメを選んだたら肉がふんだんに使われたビーフシチューのようなものが出てきた。
一皿だけに留めておいてよかった、と思いつつ町の子たちがそうしているように、レヴィさんと分けて食べた。
塊肉がゴロゴロとたくさんあって食べ応えがある。
食事の途中でレヴィさんが「食べさせてあげるのですわ!」と言って差し出してきたスプーンは、周りの子たちの視線が気になって咥える事ができず、兜を取ったドーラさんがパクッと食いついていた。
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