幕間の物語185.国王は口を滑らせた
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ドラゴニア王国最南端の町ファマリアには、高位貴族や王族が訪れた時のために迎賓館がある。
その迎賓館にやってきたのは勇者三人組を引き連れたリヴァイ・フォン・ドラゴニアとラグナ・フォン・ドランの二人だった。
今日は遊びに来たはずが、なぜか仕事をする事になってしまった二人は不機嫌そうにしていたが、馬車から降りて迎賓館の中に入る頃には普段通りの顔つきに戻っていた。
馬車の中で散々文句を言い続けたからだろうか。
「国王陛下、ドラン公爵様、お帰りなさいませ」
彼ら二人を出迎えたのは、この迎賓館の管理を任されている侍女たちだった。
流石に町を自由に行き交っている奴隷たちには荷が重いため、ドラン公爵が彼女らを雇い、日々の来客対応等を任せていた。
エントランスホールは豪華なシャンデリアや、高そうなインテリアが置かれていたが、姫花以外は特に興味を示さず、先導する侍女の後をついて行く。
階段を上がって廊下を歩き、通されたのは階段から一番遠い奥の部屋だった。
リヴァイは椅子に座ると、机を挟んだ向こう側の空いている椅子を指で示した。
「まあ、座れ」
「失礼します」
陽太、明、姫花の順番で並んで座ると、リヴァイの隣に腰かけていたラグナは侍女が素早く用意した紅茶を一口飲む。
「まあ、なんだ。非公式の会談だからお前たちも気を張らず楽にすればいい」
ぼりぼりと焼き菓子を食べながらリヴァイがそう言うと、陽太と姫花は明の顔をちらりと見てから姿勢を崩した。
明はそんな二人を気にせず、自分だけ背筋を伸ばして座っていた。
「貴重なお時間を頂きありがとうございます」
「全くだ。シズト殿と遊びに来たのに思わぬ邪魔が入った」
「まあ、そう言うな。王都でわざわざ待つ手間が省けたと考えればいいんじゃないか」
「お前は王都まで来なくて済んだから楽だったかもしれんが、俺は王都に住んでるんだから手間でもなんでもないぞ。パールが言わなかったら今頃シズト殿と遊んでいたのになぁ」
はぁ、と明らかにテンションが引くそうなリヴァイを見て明はどうしたものかと考えつつ静観しているようだ。
姫花はそんな明を見て、大人しく用意されていたお茶菓子を食べたり紅茶を飲んだりしている。
陽太は他に誰かいないかと室内をきょろきょろとしていた。
テンションが低いリヴァイを無視して、ラグナが三人を見て口を開いた。
「まずは改めて自己紹介からしようか。俺はラグナ・フォン・ドラン。不毛の大地よりも北の一帯を治めている公爵家の当主だ」
「手紙を頂いた黒川明です。こっちの男が一応冒険者パーティーのリーダーで、金田陽太です。それで、こっちが茶木姫花」
「全員シズト殿と前世で交流があったのか?」
「はい、ありました」
「その頃の話を聞いてみたいな」
「それは俺も気になる。どういう物が好きなのかとかどういう遊びがあったのかとか教えてくれ」
それまでやる気な下げだったリヴァイがずいっと前のめりになると、目を瞬かせた明は姫花と陽太に視線を向けた。
それからしばらくの間、シズトに関する話が続いた。
当たり障りのない物ばかりだったが、リヴァイは熱心に聞き、時には質問をしていた。
気が付けば長い間話し込んでいて、日が暮れ始めていた。
質問攻めされた明は若干疲れた様子だったが、彼の隣に座っていた二人は出される焼き菓子などを食べているだけだった。
事前に明が「話は僕がしますから二人は黙っていてください」と言っていたからだったが、少しくらい代わりに答えてくれても良かったんじゃないか、と思う明だった。
「む、いかん。もうこんな時間か」
「シズト殿について根掘り葉掘り聞きすぎだ。ドラゴニアで暮らすうえで話し合うべき事がまだ全然話す事ができていないだろうが」
それもそうだった、と明は居住まいを正してまっすぐにリヴァイを見た。
「アキラ殿たちがどこで暮らそうが我々は関知しない。が、神聖エンジェリア帝国は何かしら仕掛けてくるだろうな」
「ただでさえ前回の世界樹騒動の時に逆恨みされただろうからなぁ」
「アキラ殿たちが姿をくらました後、真っ先に疑われたのもこっちだったしな」
「その節はご迷惑をおかけしました」
「気にするな。濡れ衣を着せられたシズト殿が気にしていないのに俺がとやかくいう事ではない」
リヴァイは冷めてしまった紅茶を飲み干すと、机の上に置かれていた魔道具に魔力を流して自分で紅茶を注いだ。
女好きの陽太対策もあるが、非公式の会談だからと極力部屋には人を入れないようにしていたため自分で淹れるしかなかった。
「実際エンジェリアが攻めてきても問題ないだろうからな。ラグナが何とかするだろう」
「待て待て、俺は貴族の中で最南端を治めてはいるが、ドラゴニア最南端の町はドランじゃなくなったじゃないか」
「あー……それもそうだったな。エンジェリア帝国が侵攻をし始めたらまず不毛の大地を通るわけになるし、ファマリアが狙われるのは必然か」
「……なるほど。であれば、狙われる者は固めておいた方が良いでしょうし、やはりファマリアで暮らせばいいのでしょうか」
アキラが首を傾げながら尋ねるとリヴァイは首を横に振った。
「いや、転移陣で繋がっておるからドランか王都でも構わんぞ」
「転移陣?」
「ああ。シズト殿が作った魔道具だ。ある場所からある場所へと瞬時に移動させる魔法陣だ。ダンジョンにある物と同じ系統の魔法陣だろうな。不毛の大地にある亡者の巣窟というダンジョンには元々階層移動用の魔法陣がなかったが、シズト殿が転移陣を設置して目的の階層に一気に行けるようにしているしな」
「……なるほど。シズトの移動手段はそれでしたか。それにしてもシズトはやはり魔道具を作れるんですね」
明の発言にリヴァイは顔を顰め、ラグナはリヴァイをジト目で見た。
それに対して「仕方ないだろう。知っていると思ったのだから」と小声で文句を言う。
「大丈夫ですよ。見当はついてましたから。魔道具店のある国にはいつも静人が信仰している二柱の神様に加えて、聞いた事がない神様の教会がありましたし、ファマリアにもありましたから何となく予想はしてました。それに町の子たちもそのような事を言ってましたからね。まさか三柱から加護を授かっているとは思っていませんでしたが……以前静人に加護について聞いた時に怪訝な表情をしていたのも今思えば納得できますね」
「俺たちは一つしかもらえてないのに、あいつ何したんだろうな」
「お願いでもしたんじゃない? 姫花もお願いしたらもっと貰えてたかなぁ」
「加護を授かったらすぐにエンジェリアに送られてしまいましたからね。まあでも、多くの加護を持っているとそれだけ狙われるでしょうし、エンジェリアも僕たちを手放さないように手を回して来たでしょうから一つで良かったのかもしれません。……話がそれましたね。どこに住んでもすぐに移動できるのならどこでもよさそうですが……、転移陣は常に使えるんですか?」
「シズト殿の許可さえあればな」
「……なるほど。しばらく考えてもいいですか?」
今この場で結論を出せるほどお互い話し合っていなかったので、明は時間を求めた。
その意図を汲み取ったのかは定かではないが、リヴァイも鷹揚に頷く。
「構わん。ただ、アキラ殿たちにはそれぞれ監視をつけるが問題ないな?」
「ええ。僕たちの護衛も兼ねているのでしょう?」
「まあ、それもあるが……お前たちが問題を起こした時に正確に事態を把握するためだ。くれぐれも、シズト殿に迷惑をかけるなよ。お前たちのせいでシズト殿がドラゴニアを去るような事があれば……」
「分かってます。二人にもしっかりと言い聞かせておきますので」
「であれば、俺からはもう何もない。ラグナはどうだ?」
「特にないな。ドランに住むのであれば一言声をかけてくれ、程度だ。その場合はこちらからも監視をつけさせてもらう事になるだろう」
「分かりました」
明が頷いたところで話が終わった、とラグナとリヴァイが立ち上がった。
それに続いて三人の勇者も立ち上がる。
一週間後までに決める事を約束して、その場はお開きとなった。
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