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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第19章 自衛しながら生きていこう

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幕間の物語183.賢者たちは他人のフリをした

いいね&ブクマ登録ありがとうございます。

また、誤字脱字報告もありがとうございました。

いつも助かってます。

 シグニール大陸に転移した勇者一行のドラゴニアへ向かう旅は順調に進み、ドラゴニア最南端に広がる不毛の大地を進んでいた。

 先頭を行く茶色の髪の少女は、鼻歌交じりに視界に映ったアンデッド系の魔物を光魔法で処理していく。

 伸びてきた髪を後ろで一つに結んでいて、結ばれた髪が馬の尻尾のようにゆらゆらと揺れていた。

 スタスタと進んでいく彼女の背中に向けて、黒髪の少年が話しかけた。


「姫花、もう少し魔物をおびき寄せてから処理してください」


 姫花と呼ばれた少女は振り向くと、きょとんとした様子で首を傾げた。


「え、嫌よ。どうしてくっさい魔物をわざわざ近寄らせないといけないのよ」

「魔石集めが大変そうだからですよ」

「ゾンビとかの屑魔石は放置しておけばいいじゃない。わざわざ集めたところで大したお金にならないんじゃないの?」

「塵も積もれば山となる、ということわざを知らないんですか? 共有のアイテムバッグの容量はまだまだありますし、姫花のアイテムバッグの中にも入れる事できますよね?」

「嫌よ。一緒に入れた物に臭いが付いたらどうするのよ」

「共有のアイテムバッグの中に入れている物には何の影響もなかったじゃないですか」

「そうだとしても臭いとか気持ち悪いのとかついてそうで嫌なのよ。ライトアロー」


 姫花が無造作に杖を振ると、彼女の周囲にいくつもの光の矢が生まれ、遠くから近づいて来ていたゾンビを貫いた。

 姫花は目の前の黒髪の少年――明から視線を逸らして、明の後ろに向けた。

 だいぶ離れたところでゾンビの解体をしている金色の髪の少年が見える。

 それに向かって姫花は声を張り上げた。


「よーた~~~。さっさと解体しなさいよ~~~」

「うっせーわ!! 文句があるんだったらお前らも手伝えよ!」

「私たちは今まで散々やってきたから今度は陽太の番でしょ! なんもしてないんだから!」

「だったらもっと近くでまとめて倒せよ!」

「今まで散々そう言ってきた私たちの言葉を無視して好き勝手に魔物を倒してた陽太に言われたくないんですけど~」


 ドワーフの国ウェルズブラでは『除雪雪だるま』の除雪した範囲でしか行動しなかったため比較的楽だったのだが、それまでの国々では陽太は好き勝手魔物を倒してきた。

 魔力を温存するためにあまり戦闘に参加してなかった明と、大けがを負った時に対処できるように魔法を極力使わないようにしていた姫花は解体作業をこなしていたのだがその度に陽太に同じような文句を言っていた。

 それを覚えていて、陽太に仕返しをしているのだろう、と明は他人事のように分析していた。

 そんな明に矛先が向かう。


「明だって何にもしてないじゃねぇか。暇なら解体を手伝えよ!」

「お断りします!」


 珍しく大きな声で返事をした明に、陽太は舌打ちを返すと再び作業をし始めた。

 陽太は明にも大事な役割がある事を知っていたからだろう。

 陽太は黙々とゾンビの胸元をえぐり、魔石を取り出す単純作業を繰り返す。

 レイス系の魔物であれば霊体が消えて魔石が地面に転がるだけなのだが、実体があるゾンビ系の魔物は今のようにえぐり取る必要がある。

 身体強化魔法を使ってサクサクと魔石を取り出していく様を見ていると、手伝いの必要なんてないと感じる明だった。




 日が暮れる少し前に転移魔法で移動すると、不毛の大地唯一の町であるファマリアに着いた。

 町の拡張工事が毎日行われているため、意図せず町の中に転移してしまい、ちょっとした騒動があったが、無事に冒険者ギルドに辿り着く事ができた。

 ギルド内は夕方という事もあり、たくさんの冒険者がいた。

 その半数以上が自分たちよりも年下の子どもたちで、奴隷の証であるごつい首輪を着けている。

 冒険者ギルドから貸し出されている魔道具『浮遊台車』を返却しに来た子もいれば、ゾンビ系の魔石を両手いっぱいに抱えている子もいる。

 受付のために並んでいる列はどこも長く、時間がかかりそうだった。

 明は陽太と姫花にその場を任せて冒険者ギルドを後にした。


(町でトラブルを起こされるよりはギルド内の方がマシでしょう)


 そう判断した明は一人、町を歩く。

 町を行き交うのはやはり女子どもが多く、そのほとんどが首輪を着けた奴隷だ。

 ただ、その奴隷たちは今まで見てきた奴隷たちよりも表情が明るく、笑顔も見受けられた。

 屋台に並んで皆でお金を出し合い、ちょっとお高い料理を食べている姿を見ると奴隷とは何だろう? と疑問を感じる明だった。

 明と同じく今日訪れたのであろう冒険者たちも同じように奴隷たちを何とも言えない表情で見ていた。

 駆け出し冒険者よりも良い物を食べている奴隷が羨ましいのだろう。

 だが、主人が近くにいない奴隷たちに手を出すような者は一人もいない。

 手を出そうものなら、町の中を巡回しているドラン兵だけでなく、奴隷たちを温かい目で見守っている中年冒険者たちに捕まるからだ。


(町の中に転移してしまった時は焦りましたが、集まってきた兵士に町で気を付けるべき事を聞けて良かったです。ギルドの場所もオススメの宿も聞けましたし、なにより静人への伝言も頼む事ができました)


 一番の悩みの種が解消された事で明の足取りは軽かった。

 オススメされた宿屋を探して建物に掲げられている看板を見て回る。

 いくつか回るが時間も時間だったためなかなか空いている所が見つからない。

 紹介された宿が最後の一つになったところで、明はため息交じりに呟いた。


「ここがダメだったら条件を少し下げましょう」


 訪れたのは、子猫の宿という名の真新しい宿屋だった。

 扉を開けて中に入ると元気な声が室内に響く。


「こんにちはー。ごはんー? それともお泊りー?」

「宿泊です。三部屋空いてますか?」

「空いてるよー。皆ご飯目当てであんまりお泊りしないんだー」

「そうですか。僕としては助かりました」


 猫人族の少女の笑顔につられて、明も口元を綻ばせた。

 案内された部屋は個室で、掃除が行き届いている。

 変な箱のようなインテリアがあるが、その他は問題なさそうだ。

 宿屋にしては高めの価格だったが、明は子猫の宿に泊まる事に決めて料金を支払い、冒険者ギルドに戻る。

 冒険者ギルドでは陽太が可愛らしい冒険者を口説こうとして同じパーティだと思われる男性たちに囲まれていたが、他人のフリをして姫花と一緒に旅の間に手に入れた魔物の素材を換金するのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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