幕間の物語179.深淵に潜みし者は新しい玩具を手に入れる
評価&いいね&ブクマ登録ありがとうございます。
真っ暗な空間の中で、笑い声が響く。
「いやぁ、愉快愉快。ほんと、エルフって見た目が良いから遊びがいがあるねぇ。長命種だし、しばらく遊べそうだ」
暗闇の中に浮かび上がったのはある種の映像のようなものだ。
そこには蹲っているエルフの女性が、ずっとブツブツと呟きながら小刻みに震えている。
一糸纏わぬ彼女の背中には、真っ黒な文様が複雑に浮かび上がっていた。
「ちょっと残念なのは反応がつまらなくなってきた事かなぁ。僕が話しかけているって言うのに無視ってどういう事なのさ~。……ちょーっと暇だから落書きをさらに増やしちゃおうかなぁ」
『ご、ごめんなさい! ごめんなさい、ごめんなさいゴメンナサイ――』
小さく丸まりながら壊れてしまった機械のように、同じ言葉をひたすら言い続けるエルフの女性を見て、暗闇の中にいた者は深いため息をついた。
「なーんか、僕が悪者みたいじゃん。ちゃんとあなたの望み通りに気に食わない奴らをどんどん呪いの対象にしてあげたでしょ? あなたの力じゃ、相手の事をしっかりと知らないと呪いが返ってきちゃうから、情報を得るお手伝いもしてあげたじゃん? ……実際に体を貸してもらったのは僕だけどね!」
自分で言ってケラケラと笑う暗闇の中の者は、丸まって動かなくなってしまったエルフを見て、再びつまらなさそうにため息を吐く。
「ちょっと体を借りて遊んだだけなのに大げさだなぁ。僕が代わりにしてあげたおかげで、あなたは何もせずに新しく呪いたくなった人たちの情報をしっかり手に入れる事ができたじゃん。相手を呪う時は嬉々として使ってたでしょ」
『あ、当たり前でしょ! 他の人を呪えば、私の体に纏わりついている呪いが薄まるって言うから……。でも、そのためになんで私の体を使うのよ! 神様なら、そこら辺の女の体を乗っ取って集めればいいじゃない。どうじでわだじのがらだなのよ!!』
暗闇の中にいる者は、泣きわめいているエルフの体を乗っ取る度に、その体を使って情報を集めていた。
エルフという事もあり、見目が良いという事で相手に困る事がなかったので、どんどんと情報が集まっていた。
情報収集をしている時も意識があったのか、体を取り戻す度にエルフの女は半狂乱の状態になっていたが、詳しい情報を手に入れた相手を次々と呪っていく。
このままのペースだと、バレるのも時間の問題だろうなぁ、と思いながらまだ何か文句を言っていた女の姿をかき消した。
再び暗闇に包まれた空間の中で、独りぼっちになった者は呟いた。
「なんか面白い事ないかなぁ」
それからしばらくの間、暇を持て余していたが報せが届いた。
暗闇の中に浮かび上がった人物は、身なりの良い男性だった。貴族か、はたまた豪商か。しばらく思い出そうとしていたが思い出せなかったようで、報告を受けている者は思考を止めた。
『また、神を呪う者が生まれました』
「おー、手際が良いねぇ。コツを掴んじゃった感じ?」
『いえ、たまたまです。エルフ共が内輪揉めをしていましたから、ちょっと元代表を国から脱出させたら簡単に堕ちました。自分の境遇を嘆いていますが、それと同じくらい信仰していた神と今の使徒を呪っています。神様も感じられるのでは?』
「そうだね。いやー、しばらくあの玩具で遊ぶのやめとこうって思っていたから丁度良かったよ~。今回のはどこの誰エルフなの?」
『元都市国家フソーにいた元世界樹の使徒です。他のエルフたちは放っておけばその内、逃げ出した彼を呪うでしょうから放っておきました』
「いいねぇ。都市国家フソーってあのバカでかい大陸の真ん中ら辺にあった国でしょ? 遊びがいがあるなぁ。……ああ、君はその調子でどんどん不幸の種を蒔いて行ってよ。それはそれで面白そうだ」
『かしこまりました』
報告が終わると、暗闇の中に唯一浮かび上がっていた人物が消えた。
暗闇に取り残された者は、これから起こり得るであろう事を想像しては笑っていたが、ある事を思い出してため息をついた。
「そういえば世界樹フソーにも彼が現われたんだっけ。ほんと、どこにでも現れるよなぁ」
暗闇の中に浮かび上がったのは、黒い髪に黒い瞳の少年だった。
都市国家フソーが滅んだ後に現れたのは不幸中の幸いだろうか。
今の所、配下の者から邪魔をされたという報告は来ていなかったが、それも時間の問題だろう。
「やっぱりヤマトにいる間に、誰かに殺させとけばよかったかなぁ。めちゃくちゃ速い馬車で移動してたし、途中の町にあまり寄らなかったから気づくのが遅れたのが良くなかったな。ヤマトの王様と会った時はどうしたものかと思ったけど、交渉が決裂したみたいだし、それは良かったけどさぁ。ちょっと目障りになってきたんだよなぁ……せっかく戦争が始まりそうだってのに、水を差されちゃ困るしね。人間たちにはしっかりと殺し合ってもらって相手を憎んでもらわないとねぇ」
しばらくの間、黒髪の少年をどうするべきか考え込んでいるようだったが、いい案が思いつかなかったようだ。
ふっと浮かび上がっていた少年が暗闇に消えた。
「時間の無駄だし、新しい玩具でちょっと遊んでみよっと。古い方は……しばらく放っておくのもいいけど、ちょっとそれじゃあつまらないし、丁度エルフの国にいるんだからひっかきまわしてみようかな」
これから起こるであろうことを想像して、闇に覆われた空間で一人楽しげに笑う者の声がしばらくの間、響いていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。




