365.事なかれ主義者はしばらく眺めていた
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魔道具を使って世界樹の番人に変装をした後、ニホン連合の内の一国シガの首都ビワにやってきた。
同行者は護衛のジュリウスと、クー、それからパメラだ。
ジュリウスは僕とお揃いの仮面をつけて、武装をしている。
パメラは背中が大きく開いた袖なしの服を着ていた。ズボンは短く、足の付け根くらいまで丸見えだ。
隣を歩く彼女の黒い翼は周りの注目を集め、きょろきょろとあちこち動く黒い目を見ては何か話している人がいた。
……そういえばパメラって僕と一緒で黒髪黒目じゃね? 種族が違うから気にしてなかったけど、勇者の血が混じっていると思われたらやばいのでは?
ちょっと厄介事な予感がするから早めに帰った方が良いかなぁ。
そんな事を思いつつも興味の赴くままに坂を下っていくパメラに引っ張られて着いたのは港だった。
いくつもの帆船が停泊していて、小さな小舟が行き来している。
陸側も人がごった返していて、あちこち歩き回っていた。
湖とは思えない程水平線がどこまでも続いている景色を眺めていると、ジュリウスがクーに説明をする体で話し始めた。
「シガの首都ビワはご覧の通り湖の上にある島です。過去の勇者様たちが作ったこの大きな湖の影響で水運業が盛んですね。国内を行き交う船は湖に住む魚人に護衛されているのであまり襲われる事もないのですが、魔物が棲みついているそうですので、お気を付けください。中には高ランクの魔物もいるようです」
「できればそれは聞きたくなかった」
なんかフラグが建った気がするし。
いや、でも最近この勘は当たらないしなぁ。別に遭遇する事もないのかも……?
「この国の多くが湖と化してしまっているので、耕作地が少なく、問題となっているそうですよ」
「勇者の被害えぐい」
ぼそりと呟いた僕の呟きに、ジュリウスとクーは反応しなかった。
パメラは一瞬こちらを見たけれど、良い匂いに釣られてフラフラと歩き始めた。
……それでいいのか、護衛。
「過去の勇者様は養殖もできるのではないか、とお試しになられていましたが、魔物が棲みついている事もありなかなかうまくいっていないのが現状ですね。魔道具作りの一助になれば幸いです」
「はいはい。おにーちゃんに伝えておくねー」
クーが気のない返事をしても、ジュリウスは気にした様子もなくぺこりと頭を下げた。
ジュリウスの説明が終わると、今度はフラフラと歩きまわっていたパメラが戻ってきた。
視線はまっすぐに僕を見ている。
……僕の名前を呼ぶなって言っておいたんだけどちゃんと覚えてるかな。
「シズ……あ! ……クー様、あれ美味しそうデス!」
ジト目で見ていると、思い出した様子でクーを呼んだ。
ついでに視線も背負っているクーに向けてくれると良かったかな。
僕とバッチリ視線が合ってるんだけど気づかない様子だ。
背中に背負われているクーも呆れた声音を出した。
「勝手に食べれば~?」
「エミリーにお金を持っていくなって言われたからお金がないデス!」
「なんで?」
「賭場に行くだろうからお金を持たせてくれないデス!」
「ふーん」
しょんぼりとしているパメラには申し訳ないけど、財布管理をエミリーがしているのは良い事だと思う。
賭け事に夢中になりすぎて奴隷になっちゃった子だもん。
ちょっとした遊びでもお菓子をかけていつも何も残らず、アンジェラにお裾分けされてるし。
最初の方は勝つんだけど、引き際を見極める目がないというか……引くという選択肢を持ち合わせていないというか……勝負時の時に必ず負けてしまうのもそう言う星の下に生まれてしまった不憫な子なのかもしれない。
なんか賭け事に勝ちやすくなるとかそういう魔道具があればいいのかも……いや、それだと余計にのめり込むからダメだな。絶対調子に乗るわ。
それよりも引き際の時に止めるような魔道具があればいいんだけど……。
一緒にお菓子をかけてる時も、アンジェラたちが「やめた方が良い」って言っても賭けちゃうし、僕が一緒に賭場に行っても止められないだろうしなぁ。
パメラが賭け事を楽しく終われる方法は何かないものか、と考えていると後頭部がペチペチと叩かれた。
「お兄さん、パメパメが美味しそうって言ってるやつ食べる?」
「え? あー、そうですね。頂きましょうか」
パメラが美味しそうと言っていたのは焼きそばのような物だった。
目の前で鉄板を使って調理している姿を見ると確かに美味しそうって思う気持ちも分かる。
パメラは一人前をぺろりと平らげていたけど、僕はクーと半分こした。
色々食べ歩きをするならちょっとずつ食べないとすぐにお腹が満腹になっちゃうから。
具はもやしとネギだけで、塩の味がする。過去の勇者が伝えた料理らしい。
港の近くに並んでいた屋台を見て回り、一通り気になる物を食べたら今度は来た道を戻る。
上り坂になっているから食後の運動には丁度良いだろう。
大通りはまっすぐに続いていて、上り坂の先には立派なお城が見えた。
お城には特に用がないけど、お城の近くから街を一望できる観光スポットがあるらしい。
メインストリート沿いにあるお店の呼び込みに時々捕まりながら、観光スポットを目指して坂道を上った。
観光スポットはちょっとした広場になっていて、像の近くで待ち合わせをしている人たちや、遠くの湖に浮かぶ船を見ている人などがいた。
小高い丘の上から見ると、湖の中にポツンとあるのがよく分かる。
湖の水位が上がる事があったら沈むんじゃないか、とかちょっとどうでもいい事を考えながら景色を楽しんでいると、僕に背負われていたクーがボソッと呟く。
「空からの景色が見たいなら言ってくれればいいのに」
「クー様の場合は自由落下しながら見る事になりそうなので遠慮しておきます」
「パメラが運んであげてもいいデスよ?」
……なるほど、確かにそれもありかも? なんて思ったけど、実際にしたら後でパメラが「危ない事をさせるな!」と怒られそうだからやめとこう。
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