363.事なかれ主義者はゆっくり過ごしていた
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世界樹フソーの根元にある建物で寝泊まりして数日が経った。
レヴィさんとセシリアさんに頑張ってもらったおかげで、ヤマト以外の周辺諸国とは良好な関係を築く事ができそうだ。
僕たちが出した条件を吞んでくれたので、森の外側の都市に関しては自由に使ってもらう事にした。
本当は奴隷になっているエルフたちを買い戻した際に住む場所にしたかったんだけど、こっちの貨幣はないので奴隷を買う事もできないし、当分必要ないだろうから。
森の方は比較的落ち着いているらしい。
ヤマト以外の国々の方面からは人が入って来なくなった。
ヤマト方面も、数人が森の中に入って調査をしている程度だ。
ドライアドたちが監視をしてくれているのでとても助かっている。
防衛用の魔道具は既に設置済みだ。
ゴーレムに加えて、濃霧を発生させる魔道具や、踏んだ者の魔力を強制的に使って転移させたり眠らせたりする地雷系の罠もある。
相手をケガさせないように戦闘不能にするにはやっぱり眠らせるのが一番だよな、とは思ったけど、起こされたら終わりだから転移させるのも混ぜといた。
いつも同じ場所に置いてあるとばれてしまうので、適宜ドライアドやゴーレムたちが移動させてくれている。
また、ドライアドに案内される形で植物系の魔物に会いに行った。
万が一の時のためにジュリウスが控えていてくれたけど、特に問題は起きなかった。
……ちょっとトレントに【生育】の加護を使ったら大きくなっちゃって、人語も喋るようになっちゃっただけだ。
植物が魔物化していようと、それは植物という判定になるようで、【生育】で成長させることができたんだけど……まさかあれだけの魔力で進化するとは思わなかった。
やっぱ世界樹の必要魔力量がおかしいんだよな。
ドライアドにも生育をつかって見たら大きくなるんじゃないか、とは思ったけど、特に変化はなかった。植物に近いけど精霊だからかもしれない。知らんけど。
一先ず、トレントたちは軒並みエルダートレントに進化させ、リーダー格の人語を喋るエルダートレントの上位種に任せる事にした。
あと変わった事といえば、世界樹の様子だろうか。
全く葉っぱがついていなかったが、上の方で新しい葉っぱが芽吹き始めているようだ。
安定しつつあるからしばらく放置しても問題ない、とお菊ちゃんに言われたので、今日はシグニール大陸に帰る予定だ。
セシリアさんが作ってくれた朝ご飯を頂きながら、今日の予定を頭の中で考えていると、レヴィさんが口を開いた。
「今日はファマリーに戻る日ですわ?」
「うん、そうだね。特にこれと言って問題も起きてなさそうだし……」
チラッと窓の外を見ると、窓からのぞき込んでいたドライアドたちが頭をひっこめた。
だけど彼女たちの頭の上に咲いている花が隠れてなくて、ゆらゆらと揺れている。
ドライアドたちが覗きをできるようになるくらい彼女たちに暇な時間ができたのだろう。
「オイラはここに残ればいいんだな?」
「ごめんね、ライデン」
「あーしは残らないからね! ライライ頑張れー」
「世界樹のお世話をしたらまた戻ってくるから、それまでよろしく」
念のため、転移陣の護衛としてライデンを残す事にした。
ライデンにお願いしたのはクーよりも純粋な力が強いからだ。近接戦闘だけで言えばジュリウスも認めるほどのようだ。
アクスファースのお店や教会が大丈夫か心配だけど、現地住民を雇ったり清掃に協力してもらったりしているから大丈夫らしい。
アクスファースに転移陣は設置していないからクーにも残っていて欲しかったけど「お兄ちゃんと一緒じゃないの有り得ない」と言われてしまったので、ここに残ってもらうのは諦めた。
その代わり、僕と一緒にファマリーの根元で過ごしてもらう事にした。
アクスファースで何かが起きた場合、ライデンがファマリーにすぐ戻って来れるように、向こうの転移陣はいつでも起動できるようにしておこう。
その後は特に確認する予定もなかったので、のんびりと雑談をしながら朝ご飯を食べた。
食後の片づけを手伝おうとしたら「食洗器に入れておくだけですから大丈夫ですよ」とセシリアさんに断られてしまった。……乾燥機能もしっかりつけてあるから入れるだけでいいのってやっぱり楽だよね。
食事の後片付けもすぐに終わってしまったので建物の外に出ると、ドライアドたちが集まってくる。
「にんげんさんどこ行くの?」
「フソーちゃんのとこ?」
「日向ぼっこ?」
「これおいしーよ~」
わらわらと集まってきて花に囲まれたけど、すぐにお菊ちゃんがやってきて持ち場に戻るように指示を出していた。
「転移陣の使い方はもう大丈夫?」
「完璧です。お任せください」
お菊ちゃんは転移陣の一部を大事そうに抱えていた。
大陸間用の転移陣だからか、一部でも小柄な彼女にとっては十分大きいようだ。運ぶのが大変そうだ。
そう思っていたけど、何も問題はなかった。
お菊ちゃんは髪の毛を自由に操り、転移陣の欠片を頭上に掲げると、スタスタと運んで行く。
転移陣にそれを嵌め込むと、既に向こう側の準備はできている様だった。魔法陣が淡く輝き始める。
レヴィさんの護衛としてついてきた近衛兵の人たちも含めて一緒にその上に乗る。
しばらくすると、淡い輝きが強くなり、ライデンとドライアドたちに見送られる中、僕たちはその場から転移した。
一瞬で景色が変わるのは慣れないな、と思いつつ皆が転移陣から降りるまで待つ。
僕とレヴィさんを守るように囲んでいた近衛兵たちが降りると、それまで転移陣の外側で僕をジッと見ていた女性が突っ込んできた。
「シズトくん、お帰りなさい! けがはどこもしてないかしら? お姉ちゃん心配で心配で……」
「あーしがいたんだから怪我してるわけないでしょ。っていうか、お兄ちゃんに抱き着いていいのはあーしだけなんですけど~。ルウルウ早く離れて!」
「今日のお世話係は私だからダメ! 一週間以上ずーっと我慢してたんだから! クーちゃんは向こうでいっぱいシズトくんにお世話してもらったでしょ?」
「あー、そういえば、戻ってきたらお世話係再開だったっけ」
向こうにいる間は、レヴィさんが「平等に愛してもらうために無しにするのですわ!」と言ってくれたからゆっくり過ごせたんだけどなぁ。
ムギュッと抱き着かれてルウさんの柔らかさを感じつつも、もうしばらく向こうにいても良かったかな、なんて事を思うのだった。
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