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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第3章 居候して生きていこう

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幕間の物語15.借金奴隷は女と思われたい

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 ドラゴニア王国の南に位置するダンジョン都市ドランには、先代の公爵が作り上げた元愛妾屋敷が建ち並んでいる区画がある。

 女狂いとまで評された先代公爵は、気に入った女性にはその区画にある屋敷に住まわせて、夜な夜な渡り歩いたそうだ。

 当然、警備の面で手を抜くことはせず、様々な仕掛けが施されている屋敷に賊など入る事はないだろう。

 裏ギルドからの報復を恐れていた借金奴隷であるノエルは、その区画にある屋敷に住む魔道具師に気に入られれば一緒に住まわせて貰えるかもしれない、と期待していた。

 自分が贋作を作っていた事もあり、負い目はあるが何が何でも取り入っていろいろな魔道具を見せてもらいたかった。

 魔道具師は男だと聞いていたので、女を武器にして取り入るのもありかもしれない。

 ハーフではあるが、エルフの血が流れているため、見目も悪くないはず。

 そんな事を考えながら目の前を歩く全身鎧を身にまとった人物の後を追う。


「まあ、ちょっと見た目悪くなってるっすけどね」


 想定外だったのは、身なりを整える前に引き合わせるという事だった。

 体を洗い、髪を切り、服もそれなりのものを着せて貰えれば、と思っていたがそんな甘くはないらしい。

 どうしたものか、といろいろ考えている間に目的の屋敷に着いたみたいだった。

 真っ白な壁が目立つ屋敷だった。


「え!?」

「……何?」


 外門をくぐって敷地内に入った瞬間に、ノエルは予想していなかったことが起こった事を悟り、驚いて声を上げた。

 不審げにこちらを見ている今の主人に説明をする必要があるだろうか。

 少し考えて、隠し事をして心証を悪くするのはよくない、と思って素直に話す事にした。


「ここに入った瞬間、魔道具が解除されたからびっくりしただけっす」

「そう」

「え、それだけっすか?魔道具の内容とか気にならないんすか?結構強力な魔道具っすよ!この区域に入るときにあった看破の魔法陣にすら引っかからない優れ物っすよ?」

「ここの敷地内にある看破の結界には効かないなら問題ない」

「えぇ~……結構手に入れるの苦労した一品なんすけどねぇ」


 不満そうにノエルはひび割れが入った眼鏡を触る。

 彼女が再度魔道具を使おうとしても、すぐに解除されてしまう。

 しばらくついて歩きながら再度使おうと思ってもいつまで経っても発動しなかった。

 3階のある部屋の前で立ち止まり、兜を取ったノエルの主人は、端正な顔立ちをしていた。


「えぇ~……全然イメージと違うっす」


 確かに女性の声だったけどもっとこう、武骨な感じをイメージしていたノエルだったが、そんな彼女を気にかける訳もなく彼女の主人は扉を開けて中に入る。

 ノエルは慌てて今の主人の後から遅れて入った。

 中に入って邪魔な前髪越しにこちらを見ている人を観察するノエル。

 一人はいろいろ大きく赤い髪が特徴的な女性だった。

 ベッドの上で髪がとても長い女性の頭をぐりぐりとしていた黒髪の少年を気にかけている様子の彼女は声を発しはしなかったがノエルを警戒しているのは見て分かった。


「ドーラさん、お帰り」


 そんな雰囲気も気づいていないのか、黒髪の少年がにへらっと笑って言葉を発した。

 ドーラと呼ばれた彼女の主人は少しの間をおいてから返事を返していた。

 挨拶が終わると黒髪の少年の視線が自分に向いた事をノエルは気づいた。

 部屋の中にいた女性たちを見てちょっと自信を失い始めていた彼女は、やっぱり身綺麗にしておくべきだったっす!なんて考えながら相手の言葉を待つ。

 こういう時、奴隷から話しかけるのは失礼にあたる。

 しげしげとノエルを見る黒髪の少年。

 偽装の魔法が付与された眼鏡の効果が切れていてよかったとノエルはほっとしていた。

 色々と面倒だったので、男に見えるように偽装していたが、今は効果がないので偽りのない自分の姿が見えているはずだ。


「その人、だれ?」

「魔道具の偽物を作っていた奴隷。その件も合わせて、話したい事がある」


 なんて紹介をしてくれるんだろうか今のご主人様は、と心の中で叫びつつその場に控えるノエルを気にした様子もなく、朝ごはんの準備をし始めた面々を眺める。

 部屋にいた全員が椅子に座り、黒髪の少年が「いただきます」と勇者様の真似事をしてから食事が始まった。

 屋台の料理は視覚的にも嗅覚的にもノエルの食欲を刺激した。

 ノエルは、お腹が鳴ってしまわないように気を張っていると、黒髪の少年がきょとんとした様子でこちらを見ているのに気づく。


「ほら、ここ座って一緒に食べてよ。よだれを垂らしながら、じっとこちらを見られていると食べ辛い」

「え!?いやいや、ボクは奴隷っすよ。あとで余り物を食べさせていただけるだけで大丈夫っすよ!」


 奴隷の扱いを知らない様子の黒髪の少年に少し、失礼にならないように気を付けつつ辞退するノエル。

 ここで一緒に食べた場合、どうなるか想像ができなかった。

 黒髪の少年は「そっか」とちょっと残念そうな表情になったが、すぐにハッとして赤い髪の女性をなぜか見た。

 それからいそいそと自分のご飯を食べつつ、机に並んでいた屋台の料理を大きく底が深い皿にとりわけ始めた。


(確かにあの女性たくさん食べそうっすもんね。おっきいですし)


 そっと自分の胸を触りながらくだらない事をノエルが考えていると、ドーラが話を始めた。


「シズトを攫おうとしたのは裏ギルドだった。もう制圧はしたからそこから狙われる事はない。攫おうとしたのは魔道具を作らせて儲けるためだったらしい」

「偽物を作ってたんだったら別に僕要らなくない?」

「魔道具の一部を性能が落ちた劣化版しか作れない奴隷よりも、新しい物を作り出すシズトを攫って作らせようとした、って聞いた」

「欲をかかずに偽物だけ作っとけば、誰も気にしなかったんだろうがな」

「本来は商業ギルドに登録して模造品の作成を禁じるのが普通なんだけどな。特に道具を作る奴だったら。けどお前はそういうの気にもしなかったしな」

「でもそれしたら、僕が作れる分しか出回らないんじゃない?」

「まあ、そうなるわな。あとはシズトが許可を与えた奴が作った物くらいか」

「んー、じゃあやっぱりいいかな。普及して少しでも冒険者が生きて街に戻って来れるんだったら、これからも作った物の模造品が出ても別にいいかなぁ」


 完全にノエルは蚊帳の外である。

 ノエルはぼけーっとしながら料理が余るといいなぁ、なんて事を考えていた。

 ただ、ふと視線を感じて顔をそちらに向けると、髪がとても長い綺麗な女性が無表情で凝視しているのに気づく。


(なんかしたっすかね)


 部屋に入ってきたときの様子を見る限り、髪がとても長い女性はシズトと呼ばれた黒髪の少年と親しい仲なのだろう。

 そんな人から何か思われているのなら例え上手く奴隷として取り入ることが出来ても、今後の事が不安になる。

 そわそわした気持ちでノエルはきょどっていたが、それに気づいたシズトがその女性を窘めた。


「だからホムラ、じっと無表情で彼を見続けるのやめてあげて」

(男って思われてるっす!確かに身なりそんな良くないっすけどちょっとやばくないっすか!?)


 ノエルが一人で男だと思われている事実に焦りを覚えていたが、話はどんどん続いていく。


「マスターの仰せの通りに」

「シズト的には模造品が出回っても気にしない?」

「全然気にしないかな」

「これからも?利益減る」

「別にそれだけしか作れないなら減るけど、別の物を作ればいいし」

「そう。じゃあ、あなた無罪」

「ありがたき幸せっす!」


 ひとまず無断で魔道具の劣化版を作っていた事は許されたようで、ノエルは大げさに、そしてちょっと高めの声を意識して出して感謝を伝えつつ、その場で土下座した。

 ノエルからは顔が見えていなかったが、シズトはちょっと口元が引きつっていた。


「……登録とかしてないからもともと無罪なのでは?」

「確かにそう。ただ、シズトの奴隷になって近くで魔道具を見て作っていきたいらしい。シズトが思う所があるんだったら諦めさせるつもりだった」

「ぜひ奴隷として側においてほしいっす!」

(なんか知らないけどドーラ様が援護してくれる間に取り入るっす!って、あんまり乗り気じゃなさそうっす!!)

「お願いするっす!何でもするっす!」


 身を捧げるくらいであの魔道具を作った魔道具師の側にいることが出来るなら安いものだと思ってノエルはシズトの足元にすり寄り、ひたすらお願いを続けた。

 それが功を奏したのかはわからないが、シズトがノエルに名前を尋ねた。


「ボクの名前っすか?ノエルっす。是非側に置いて魔道具を色々な魔道具を見せてほしいっす!」

「お前は何ができんだ?」

「そうっすね。奴隷になる前は魔道具の研究をしていたっす。だから簡単な魔道具の修理と、作成はできるっす。まあ、全然似ても似つかない物っすけどね。あとは、一通りの家事はこなせるっすよ。家を出る前は、親にできるようになれってしごかれたっすから」

「戦闘はどうなんだ?」

「弓と魔法を使うっすよ。近接はちょっと苦手っすね。加護はないっす」

「まあ、なんもできねぇよりはましか」

「じゃあ、とりあえずご飯がどんな感じなのか見てから決めよっかな」

「頑張るっすよ!」


 置いてもらえるなら何でも頑張る、と気合を新たに入れていたノエルだったが、シズトから言われた言葉に固まった。


「でも、その前にお風呂入ろっか」


 水浴びが苦手だったノエルは、何とか笑顔をキープしていたが頬が引きつっていた。




 その場にいた人の紹介をされた後、ラオに連れられて脱衣所に着いたノエルは、何のためらいもなく服を脱ぎ捨てた。

 水浴びが苦手なノエルだったが、今の身なりだと親密な関係になって魔道具の作り方の秘密を探ろうと思っても不可能だと分かっていた。何より、女だと思われていない事にも少なからずショックがあった。

 確かに手足は細いし、腰も細いが胸はほどほどにあるし、形もいいはずだ、と彼女は考えていた。

 自分の胸を何やら両手で持ち上げているノエルを見て、ラオが言葉を発する。


「やっぱお前女だったか」

「そうっすよ?」

「じゃあ、ついでにアタシも入るか」


 そう言って堂々と服を脱ぎ捨てて一糸纏わぬ姿になったラオの鍛え上げられた腹筋や、女性らしいとても豊満な胸に見入ってしまったノエルは少し遅れて慌てた。


「え、奴隷と一緒で大丈夫っすか?」

「アタシはそういうのあんまり気にしねぇんだよ。それよりお前から目を離さないほうがよさそうだ。精霊の気配がするしな」

「やっぱりわかる人にはわかるっすよね。エルフと人間のハーフっす」


 ノエルは髪をかきわけて耳を見せた。

 混血であるから家を出て人間の街に出る事になったし、トラブルに巻き込まれがちだったが、精霊魔法が使えるのはありがたいとノエルは感じていた。

 冒険者としてダンジョンに潜り、資金を稼いだ彼女は気になっていた魔道具の研究もできたし混血である事を恥じてはいなかった。面倒だから偽装の魔道具で隠すようにはなっていたが。

 ノエルとラオはお互い体を隠すことなく浴室に向かう。

 そして香ってくる果物の匂いに彼女はすぐに反応した。


「これは柚子っすね。こっちでも柚子を入れる習慣があるんすか?」

「いや、ねぇな。っていうか、これはシズトの趣味だ」

「そうなんすね。……にしても、お湯を無駄に使ってるっすねぇ。これ準備するだけでどんだけ薪がいるんすかね」

「魔道具で済ませてんだよ。知ってるだろ、あいつが魔道具師なの」

「これを魔道具っすか?……浴槽の底に魔法陣が刻まれてるっす!ははぁ、ここに魔石を置くとその魔力で動く感じっすね」

「まあ、魔石代は高くつくが、シズトが風呂好きだからな」

「やっぱ黒髪の人は風呂好きなんすね」


 ノエルが浴槽の縁から身を乗り出すように湯船の底を凝視している間にシャワーで体にお湯をかけ始めるラオ。

 それに対して耳がピクンッと反応してノエルがラオの方を勢いよく向いた。


「あんだよ」

「それも魔道具っすか!」

「みたいだな」

「みたいだな、ってなんでそんな興味なさげなんすか!こっちは魔石を使わずに魔力でお湯を出す感じっすか。……なんでシャワーにわざわざこれを?」

「お湯を沸かすのが面倒だったんじゃねぇか?使用人もいなければ湯番もいねぇからなぁ」

「めちゃくちゃ魔道具の無駄使いっすね。もっと魔物を倒す物を作らないんすかね」


 ノエルはラオの隣でシャワーを手に取ってお湯を出す。

 おっかなびっくり体にお湯をかけていき、髪をある程度濡らすと固形石鹸で洗い始める。


「知らねぇけど、戦い自体忌避してるからじゃねぇか?お前もっとしっかり髪洗えよ」

「や、やめるっす~~~」


 乱雑に髪を洗われる。

 全然泡立たないので、何度もラオが乱雑に洗うので新手の拷問か!なんて事をノエルが思っていたが彼女のおかげでだいぶ綺麗になった。


「なんでずっと目をつむってんだよ」

「お湯が目に入って開けられないっす……」

「ったく、面倒くせぇな」


 ラオは脱衣所に一度戻ると、タオルを片手に戻ってきてノエルに押し付けた。

 ノエルは何度もタオルで顔を拭う。やっと目を開けられるようになった彼女は、お湯に浸かると揺れる水面を邪魔に思いつつ、湯船の底の魔法陣をじっと見つめていた。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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