361.事なかれ主義者は聞こえないふりをした
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世界樹フソーに【生育】の加護を使うと、残存魔力の半分ほど持っていかれた。
今までで見た世界樹の中で大きいし、【生育】の加護が使われなくなって時間が経っていたから、もっと大量の魔力を持っていかれる事を覚悟していたけど、全然持っていかれなかった。
ただ、やっぱり少量の魔力じゃ世界樹に劇的な変化は見受けられない。
ドライアドたちは「フソーちゃんおはよー!」と元気に挨拶をしているが、正直起きているのか寝ているのかすら分からん。
騒ぎを聞きつけたのか、他のドライアドたちも集まってきたけど、途中から抱き着いてきたり皆で話しかけて来たりしなくなった。
不思議に思っていると、クイクイッと服の袖を引っ張られた。
下を向くと、他の子たちよりも大きな黄色い花を咲かせた女の子が僕を見上げていた。この花は確か菊だった気がする。
こっちの世界でもあるんだな、なんてどうでもいい事を考えていたら、菊の花のドライアドが丁寧にぺこりとお辞儀をした。
それを見てガバッと周りのドライアドたちがお辞儀をする。
つられてお辞儀を返すと、菊の花のドライアドが話し始めた。
「人間さん、こんにちは。フソーちゃんを助けてくれてありがとうございます。私はこの子たちの中で一番の古株のドライアドです。よろしくお願いします」
「ご丁寧にどうも……音無静人です。よろしくお願いします」
ペコペコとお互いに頭を下げる。
このドライアドは古株というだけあって、とても礼儀正しい子のようだ。
……ユグドラシルやトネリコの子たちは落ち着いていたけど、ここまで丁寧じゃなかったような気がするから、この子が特殊なのかもしれない。
何はともあれ、目の前の子と他の子たちは大体背丈が同じだから本当に見分けがつかない。
呼びたい時は古株の子を連れてきてと言えばいいんだろうけど、一番古株な子が代表として喋っているだけで、二番手や三番手の子も古株の内に含まれているらしい。
下手したら数人集まってくる可能性がある事を考えると、やっぱり名前を聞くのが手っ取り早いんだけど……。
「あなたのお名前は何ですか?」
「ドライアドです」
「一人一人に特別な名前はついてない?」
「ないです」
「そっか……。とりあえず便宜上、あなたの事を『お菊ちゃん』って呼んでいい?」
「いいですよ」
菊よりもお菊の方が女の子の名前っぽいし、ドライアドも素直に受け入れてくれたので古株の子の名前『お菊ちゃん』に確定した。
他の子たちは名づけに興味がないのか「ふーん」という感じだったから、続々と集まってきているドライアドたち全員に名付けしなくて済んでホッとした。
「お菊ちゃんはもう動いて大丈夫なの? 体調崩してたんでしょ?」
「だいぶ治りましたけど、まだ本調子ではありません。ただ、下の子たちが心配ですし私がしっかり指示出さないと思ったまま好きな事をしてしまいますから……」
ドライアドたちってフリーダムだもんね。
日頃の苦労が簡単に察する事ができる。
「ゆっくり休んでていいんじゃない? ほら、レヴィさんの指示も聞いてるみたいだし」
「簡単に人間の言うとおりになるような子たちは後でお説教ですね」
レヴィさんは転移陣周辺の警備要員としてついてきた近衛兵とドーラさんを巻き込んで世界樹フソーの周りに畑を作ろうと『魔動耕耘機』を使って耕していたけど、ドライアドたちは彼女たちが土に混ぜ込んだたい肥がとても気に入ったようだった。
まあ、向こうの子たちからも人気だもんね、たい肥。
レヴィさんはそれと引き換えに農作業の手伝いをお願いしていて、レヴィさんの指示の下、耕された畑にどんどんと植物が生えていく。
ドライアドたちは楽しそうにレヴィさんと一緒に農作業をしていたが、お菊ちゃんは怒っているようだ。
ただ、それはレヴィさんや僕に対してじゃないようなのでヨシ。
「森の侵入者がたくさんいる状況ですし、あの子たちは簡単に騙されちゃいそうですから、やっぱり私がしっかりしないといけないんです。フクちゃんはとても強いですが、頼ってばかりではいられません。私たちで捕まえる事ができる程度の人間さんたちは私たちで捕えなくちゃいけないんです」
「なるほどなぁ」
その後、しばらくの間お菊ちゃんとお話をしていたのだが、早めにした方が良い事があった事を思い出した。
空を見上げると、まだ太陽が沈むには早い時間の様だ。
農作業を楽しそうにしているレヴィさんを呼び戻して、お願いをする。
「ちょっと南以外の方面にジュリウスと一緒に行って、ヤマト以外の国と話をしてきてもらっていい?」
「分かったのですわー」
「ありがと。じゃあ、僕は必要な物の準備をするね」
「レヴィア様。分かっていらっしゃると思いますが、魔道具で服を綺麗にしてから向かいますよ」
「分かっているのですわー」
本当かな。
なんかちょっと森に向けて歩き出そうとしていたし、セシリアさんから視線を逸らしてるけど。
セシリアさんはため息をついて、レヴィさんを先導するように唯一ある建物の方へと歩いて行った。
「さてと……ジュリウス、映像がばっちりとれているか見たいから、首輪頂戴」
「かしこまりました」
ジュリウスは首に着けていた奴隷の首輪に似せて作った物を自分で外すと僕に渡してきた。
移動の合間に魔力が有り余っていたので作ってみた魔道具だ。
魔力を流すと、周囲の様子を映像として記録したり、記録された物を投影したりするものだ。
記録は一度しかできないのがちょっと難点だけど、今回はこれで十分だった。
謁見の前に身に着けている物は預ける事になるのでは? と思って、外すと問題になる奴隷の首輪に似せて作ったけど、特に持ち物を預かるとは言われなかった。
武器の類を身に着けていなかったからかもしれないし、それとも何を持ち込まれてもどうとでもなると思われていたのか分からないけど、ボディチェックすらないのなら、わざわざ首輪タイプにしなくてもよかったなぁ、なんてちょっと思った。
ただまあ、コレをジュリウスに着けてもらう時に、奴隷の首輪が邪魔という理由で彼を奴隷から解放する事ができたから良しとしよう。
「……奴隷契約をもう一度結んでいただけるんですよね?」
「ちゃんと写ってるといいなぁ」
最後までお読みいただきありがとうございます。




