359.事なかれ主義者は落ち着かない
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「いやぁ……やっぱり、ちょっとやりすぎたよね」
お城勤めのメイドさんに案内された部屋で、クーを膝の上に乗せながらここ数日の事を思い返す。
世界樹フソーに転移してから、世界樹の周りの森の外側にいた大国ヤマトの人とコンタクトを取った後の事だ。
大陸間の転移には、それ相応の魔石が必要であるためあまり頻繁に行ったり来たりできない事に加えて、ファマリーのお世話は頻繁にする必要があるからさっさと大王に伝える事を伝えて帰りたかった。
だから、少しだけ自重する事をやめて作った魔改造された馬車……というか魔力で動く車『魔動車』を移動手段とする事にした。
レヴィさんたちは馬車で首都まで送る、と提案されたみたいだけど丁重にお断りしてもらった。首都に向かうだけで二週間以上かかるのは無理だ。
森から出たところで囲まれて何か言われたけど、気にせずに『魔動車』をクーに出してもらった。
大きすぎてアイテムバッグに入らないから、クーの空間魔法で収納してもらっていたのだ。
「あらためて見ると派手だねぇ」
車全体が金色に輝いている。
アダマンタイトを薄く伸ばして車体全体に張り付けたからこんな見た目なんだけど、もう少し落ち着いた色にするべきだっただろうか?
なんて事を、魔動車に乗り込みながら考える。
馬車の御者席に座ったジュリウスが魔動車を運転する事になった。
僕たちの中で二番目に魔力が多く、近距離も遠距離もある程度戦えるからだ。
夜は魔動車に設置しておいた転移陣を使って世界樹フソーに戻り、元々あった建物で寝泊まりした。
建物の安全確認は事前に、レヴィさんについてやってきていた近衛兵たちが済ませてくれていた。
ゆっくりと休み、翌日の朝ご飯を食べてから車内に転移すると、景色が変わっていた。
魔動車の護衛として残っていたライデンが御者席に座って、街道に添って運転してくれていたらしい。
日が昇っている間はジュリウスが、日が暮れてからはライデンが交代で運転してくれたおかげで、数日で大国ヤマトの首都に到着する事ができていた。昼夜問わず猛スピードで走り続け、途中で街にもよらなかったからこんな早く移動できたようだ。
轢き殺した魔物の解体を途中でしていなかったらもっと早く着いたかもしれない。
王城まで案内されて、魔動車から降りると周囲の視線が魔動車に集まっていた。
そのままにしておくと厄介事になりそうだったからクーにしまってもらった。
そして今に至るという訳だ。
暇なのでここ数日の事を思い出していたけど、思考が魔動車の改善案にシフトする。
サスペンションが良くなかったのか、アダマンタイトで覆ってしまったのがダメだったのか、スピードを出し過ぎたのがいけなかったのか……何がいけないのか分からないけど車体の揺れがそこそこあった。
レヴィさんの付き人であるセシリアさんがグロッキーになっていた。
やっぱり中途半端に自重せず、空を駆ける車を作ればよかった。そうしたら揺れも多分ないし。
んー、と首を傾げながらクーの空のように青い髪を優しく撫でていると、僕の心を読んだレヴィさんが口を開いた。
「空を移動するのであれば車輪は必要ないような気がするのですわ」
「いや、常に空中に浮遊しているわけじゃないし、止まる時には地面の上に停車するわけだから必要だと思う」
まあ、それとは関係なく車輪があった方がそれっぽいから付けときたいんだよね。
……出来れば機関車を作って夜の空を走らせてみたいんだけど……いや、トナカイにひかせたソリも捨てがたいな? でっかい船を作って空を飛ばすのも面白そうだ。
くだらない事を考えていると、まだ若干顔が青いままのセシリアさんが僕の方に視線を向けた。
「これからの事ですが……」
「無理しなくて話さなくてもいいよ?」
「いえ、大丈夫です。これからの事ですが、礼儀作法はしっかり覚えていますか?」
「………」
「身なりだけそれっぽく取り繕ってもそういう所でぼろが出るので、しっかりと復習しましょう」
「あ、はい」
「シズトは異世界からの転移者だから、ある程度の不作法は目を瞑るのが暗黙の了解のはずですわ」
「その暗黙の了解を無視する者も一定いますし、『ある程度』がそれぞれの基準ですからできた方が良いです」
「でも、向こうの使者はとっても失礼だったのですわ~」
「向こうの使者と同じくらいの事をしても大丈夫、とは限りませんから。向こうが私たちを下に見ている場合は面倒事になるかもしれません。そういう面倒事を回避するために、ある程度の作法を身に着けるべきなのです」
「あ、はい」
ちょっと心配だからレヴィさんと一緒にセシリアさんから作法を教えてもらっていると、煌びやかな装備を身に着けた兵士が「準備が整いました」と呼びに来てくれた。
僕は今一度自分の身なりを確認する。
世界樹の使徒としてここにいるので、エルフの正装である真っ白な布が基調の服を着ている。
どこにも皺も汚れもない。
絡みつく蔦を表現しているのか、裾から胸元まで金色の刺繍が施されている。
髪型も大丈夫かな、と不安になっているとレヴィさんが「大丈夫ですわ」と小声で教えてくれた。
そのレヴィさんは瞳の色と同色のドレスを着ていた。
露出は全くないというのに規格外の胸のせいでむしろ目のやり場に困ってしまう。
兵士の案内にレヴィさんと並んでついて行く。
僕たちの後ろにはセシリアさんとジュリウス、ライデン、クーが歩いてついて来る。
自分で歩かされているクーは不満そうだけど、流石に一国の王に正式に会う時におんぶや肩車はダメだと思うんだ。
長いスカートで歩き辛そうなので、レヴィさんの歩調に合わせてゆっくり歩きながらきょろきょろと周囲を見ていると、レヴィさんが手袋を嵌めた手で僕の手を握ってきた。
「少しは落ち着くのですわ?」
「んー……むしろ別の意味でドキドキして落ち着けないかも?」
「フフッ。そう言えるのであれば大丈夫そうなのですわ~」
レヴィさんは楽しそうに無邪気に笑っている。
その笑顔が可愛いな、と思ったら筒抜けだったようで、ちょっと顔を赤らめてそっぽを向かれてしまった。
……直球で褒めれば主導権握れるのかな? とか考えたら握られていた手がギュウッと強く握られて結構痛かった。
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