357.事なかれ主義者は久しぶりに農作業をした
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大国ヤマトからの使者と対談した翌日、シュウイチさんに書いてもらった大王様への書状を手に入れた。
手紙を手に入れたのならばさっさと向こうの大陸へ向かおう。
グズグズしているとシュウイチさんたちが出港しちゃうからね。
あの対談の最後、シュウイチさんが妙に引き際が良かったのは僕たちよりも早く船を動かす自信があったかららしい。
風の神から加護を授かった彼が全力を出せば、普通の帆船では到底出せない速度で大陸間を往来できるんだとか。
魔動船とどっちが速いか勝負してみるのも面白そうだったけど、大海を渡るためにはそれ相応の準備が必要なため、ドライアドたちに転移陣を運んでもらう事にした。それが一番速いだろうし。
ジュリウスを連れてガレオールへと転移すると、お相撲さんのような見た目の大男が出迎えてくれた。
「久しぶりだね、ライデン。急に呼び出しちゃってごめんね」
「構わねぇよ」
目の前で僕を見下ろしているのは、以前Sランクの魔石で作ったホムンクルスの内の一人であるライデンだ。
普段はアクスファースで店番と教会の管理を任せている。
今回は何が起きるか分からないので、一先ず少数で行動しようという事になり、ライデンに肩車されている少女にお願いして連れてきてもらったのだ。
「お兄ちゃんおそーい」
「ごめんごめん。ルウさんに捕まっちゃって時間かかっちゃったんだよ」
頬を膨らませて怒っているのはライデンと同じくホムンクルスのクーだ。
彼女は確かAランクくらいの魔石だった気がする。
ライデンよりもランクが低いが、転移魔法の使い手という事で僕を安全に逃がすためについて来てくれる事となった。
「ライライもなんか言ってやってよー」
「別に時間に遅れた訳じゃねぇんだからいいだろ」
そう、別に遅れた訳じゃない。二人が早すぎるだけだ。
まだ転移先の『サイレンス』ガレオール支店も開店前だ。
だからここでのんびり喋っていたんだけど……これ以上ダラダラしていたらこちらの様子をこっそりのぞいている子たちに迷惑がかかりそうだから移動する事にした。
階段を下りて表玄関から外に出ると、すでに大勢の人々が街の通りを歩いている。
馬車も頻繁に行き交い、マーケットの方では威勢のいい呼び込みの声が聞こえてくる。
「お待ちしておりました、シズト様。どうぞ、こちらへ」
「……あ、はい。お願いします」
実験農場まで歩いて行こうか、と思っていたら店の前に馬車が停まっていて、乗るように促された。
どうやらランチェッタ様が手を回してくれていたようだ。
移動後、馬車の御者をしていた人に話を聞くと「いつでも自由に行動できるように、一台馬車を停めているんですよ」と教えてくれた。
……専用タクシー的な?
僕が来ない時は無駄なんじゃないかとか思ったけど、そのおかげで実験農場まで迷わず、すぐ来れたのでまあ良しとしよう。
実験農場にはランチェッタ様がすでにいらっしゃっていた。
先にこちらへ来ていたレヴィさんに土いじりのレクチャーをされていたらしい。
彼女たちの周りには僕と同じような肌の色をしたドライアドたちが集まっていて、一緒に草抜きをしているようだ。
「待たせてごめんね、ランチェッタ様」
「気にしなくていいわ。レヴィア様からドライアドたちとの関わり方をご教授してもらっていたから、有意義な時間を過ごせたし」
「草抜きの仕方とかも教えたのですわ!」
「女王様にさせるような事じゃない気がするんだけど……王女様がしてる時点で今更、かな? ……っていうか、本当について来るの? 危ないよ?」
「だからこそついて行くのですわ。きっと私の加護が役に立つのですわ!」
今回は向こうに転移陣を設置して、ドライアドと話をするだけの予定だが、とんとん拍子で話が進んだら一気にヤマトの大王と話をする可能性もある。
だから私もついて行った方が良いのですわ、とレヴィさんが主張して今ここにいる。
彼女は農作業をするための服装ではなく、煌びやかなドレスを着ていた。
左手の薬指には僕とお揃いのブラックダイヤモンドの指輪が嵌められている。
レヴィさんの側に控えていたセシリアさんに視線を向けると、首を横にゆっくりと振られた。
諦めろ、という事らしい。
セシリアさんは普段通りメイド服だった。
いつもと違うのは、彼女もまたブラックダイヤモンドの指輪を着けている事くらいだろうか。
「あーしはお兄ちゃん以外守らないからね」
「レヴィさんたちもできれば助けてあげて欲しいなー」
「そーいうのはライライに任せた~」
「まあ、シズト様が守れって言うならオイラは守るだけだな」
ちょっと不安が残るけど、ライデンだけじゃなくてジュリウスもいるから滅多な事は起きないだろう。
僕は話の成り行きを見ていたランチェッタ様に視線を向けると、彼女は首を傾げて口を開いた。
「それで、どこに転移陣を設置するのかしら?」
「邪魔にならない所にしようかなって思うんだけど……本当に設置して大丈夫なの?」
「大丈夫よ。私たちもそれ相応の武力はあるし、向こうから勝手にこれないように工夫もされているんでしょう?」
「工夫って言うか、組み立て式にしているだけだけどね。使わない時はパーツの一部分を取ってしまえば使えないから、盗まれないようにも気を付けなくちゃいけないんだけど……そこら辺の管理はドライアドたちに任せようかなって」
ファマリーやユグドラシルの子たちには実際にお願いしているし、きっとフソーのドライアドたちにもできるだろう。
アイテムバッグから取り出したパーツをそれぞれ組み合わせていく。
「……割と簡単なパズルなのね」
「難しくし過ぎても普段使いで困るからね。あくまで外して自己管理するためだけのものだからそんな細分化してないってだけで、ランチェッタ様が望むならもっと細かくするけど?」
「このままでいいわ。管理が大変そうだもの」
物が増えるとそれだけ無くす可能性は大きくなるもんね。
嵌め込んでいく様子をドライアドたちにも見てもらって、しっかり覚えてもらう。
……まあ、覚えるも何も形をそれぞれちょっとずつ変えているから場所を間違えるなんて事はないだろうけど。
ササッと出来上がった転移陣を見て、ランチェッタ様が首を傾げた。
「……思ったよりも大きいわね」
「そうだね。魔石を使うタイプにした方がよさそうだったから、四隅に魔石を設置する場所も作る必要があったから」
自分の魔力で代用もできなくはないみたいだけど、流石に大陸間の長距離転移にはそれ相応の魔力が必要の様だった。
向こうに行くだけで魔力が空っぽになったらみんな戦えないだろうから魔石で代用する事になったんだけど、そのための魔法陣も加わっているのかそこそこ大きくなってしまったのかもしれない。
「それじゃあ、これを向こうで組み立ててもらってもいいかな? 組み立て終わったら、四つの窪みにそれぞれ魔石を置いてね」
「はーい!」
「任せて!」
「行ってきまーす」
ドライアドたちは元気よく返事すると、皆で一斉に草むらの陰に消えて行ってしまった。
ジッと転移陣を見ていても仕方がない。
「………ただ待ってるのは暇だし、農作業のお手伝いでもしよっか」
「任せるのですわ~」
元気なレヴィさんは草むしりを再開した。
セシリアさんは仕方ない、と言った様子だけどレヴィさんのぬいた草を集めて行った。
僕はたい肥作りの魔道具をサッと作ってその中に草と土を交互に入れたり、そこら辺で育てられていた植物にランチェッタ様の許可を貰ってから【生育】の加護を使って一気に収穫したりして時間を潰すのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。




