355.事なかれ主義者は急いで食べた
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ガレオールにドライアドが現われ、仲裁をした二日後の朝。
朝食を食べているとジュリウスから大国ヤマトからの使者がトネリコに到着したと報告を受けた。
ドレス姿のレヴィさんが意外そうに呟く。
「思った以上に早かったですわね」
「どうやら最低限の護衛だけを引き連れてトネリコまで急いでやってきたようです」
「はー……流石、高ランク冒険者だねぇ」
先日、ダンジョン探索から帰ってきたラオさんとルウさんにSランク冒険者についてちょっと話を聞いたけど、生半可な強さでなれるものではないと言われた。
歴代のSランク冒険者の殆どが加護を持ち、その加護を十全に扱ってやっと至れる境地なんだとか。
たった一人でもSランクの魔物とも退治できるぐらいの力量を持つそうだし、ぶっちゃけ強引にこられたら抵抗できないだろう。
「昨日話した通り、アタシらはこっちで待機でよかったよな」
「そうだね」
「……やっぱり、お姉ちゃんだけでも一緒に行った方が良いと思うの! 速さだけなら自信があるし、万が一の事があっても身代わりになれるはずだわ!」
「身代わりはやめて欲しいから連れて行けないなぁ」
ラオさんはそれほどだけど、ルウさんは僕を守るためだったら平気で命を捨てそうで怖い。
以前、「命を救ってもらったから、当然の事よ?」なんて言ってたけど、冗談だと思いたい。
「でも、丁度良かったのですわ。今、ドレスですし、会談する準備は整っているのですわ」
「それは身内に会うためのドレスです。お召し替えをして頂く事になります」
「めんどいのですわ~」
そうなのかな。着るの簡単なんじゃ? なんて思うのはワンピースのようなデザインだからだろうか。
今日は元々、ドラゴニア王国の王城に顔を出して、国王様たちの手が空いていたら子どもたちの住環境について相談しようと思っていたのだ。
だが、それも残念ながらまた今度になりそうだけど。
「大丈夫なのですわ。この町がモデルケースになってるから、言わずとも貧民対策として『あぱーと』? をどんどん増産しているのですわ」
加護無しの指輪を既に外して首飾りにしているレヴィさんが僕の心を読んで安心させるように言ってくれた。
どうやら、ファマリーにやってくる人たちは世界樹の素材や魔道具を求めるだけでなく、街の様子などを見て取り入れる事ができそうな事は取り入れようとしているらしい。
電車や浮遊台車を真似る事は出来ないが、建物は真似る事ができそうだと早速ドランやドラゴニア王都では建築が始まっているんだとか。
ファマリーの子たちは全員奴隷だから言う事聞いて大人しく使っているけど、浮浪児たちを集めても上手くいかないかもしれない、という話もあったが「その時はその時だ」とリヴァイさんたちは言い切った。
アパート建設に対して、良い点はあっても悪い点がないからか、やってダメならまた次考えればいい、と考えているようだ。
その行動力、見習わないと、と思いつつ食事を進めていると窓の外に花がひょこっと現れた。
しばらく口の中をもぐもぐと動かしながらそちらを見ていると、ニュッとドライアドが背伸びをして中の様子を見てきたけど、きちんと収穫物を食べている事に満足したのか頷くとどこかに行ってしまった。
その一部始終を一緒に見ていたラオさんが、思い出した様子で口を開いた。
「……そういえば、ガレオールのドライアド密入国に関してはどうなったんだ? 昨日は出かけてた間の事をサクッと聞いたけど、そこら辺の詳しい話はしてなかったよな?」
「え? あー……世界樹のお世話は今は無理って言ったら、とりあえず精霊の道の向こう側に帰って行ったよ。残ったのは数名だけど、彼女たちはランチェッタ様に提案されて実験農場の畑のお手伝いをしているらしい」
「よっぽどの事がなければ豊作になりそうですわね」
「だね。ただ、指示をしっかり出さないと大変な事になるから気を抜けないみたいだよ。古株の子がいれば、ある程度の統制が取れるんだろうけど……まだ元気にならないみたい」
安全地帯を探す必要はあったが、あまり人間に見られないようにするため、夜に街中を歩き回って迷ってしまい消耗してしまったらしい。
植物と精霊の間の存在みたいな事を以前聞いた事があるから、その子に【生育】を使えば回復するのではないか、とも思ったけど試すのはやめといた。
弱っている子に実験して逆に悪化したら大変だし、ちょっとの間休んでいればすぐに元気になるとの事だったので大人しく待とう。
……ドライアドたちの感覚で『ちょっと』や『すぐ』ってどのくらいか不安はあるけど。
「ごちそうさまでしたっす~」
話に興味がなさそうだったノエルは食事を終えて食堂から出て行った。
昨日、住環境整える方法は何かないかといろいろと魔道具を試作したので、早くノルマを終わらせて試作品を調べるつもりなのだろう。緑色の目が爛々と輝いているように見えた。
「あんまり待たせるわけにも行かないし、さっさと食べるか」
「シズトが会う前にジューンと私がヤマトの使者に会うのですわ!」
「ついでに誓文も交わしてもらおうかなぁ、と思いますぅ」
「誓文に関しては既にトネリコの番人たちの監視のもと書いてもらいましたので問題ありません」
「そうなのですわ? でも、とりあえず真意を探るためにも先に会って話をしておくのですわー」
レヴィさんは何か裏がないか念のため確認をするようだ。
ジューンさんは僕の代理人という立場なのでそこに同席するらしい。
ランチェッタ様から使者の事を聞いていたのでちょっと不安だけれど、レヴィさんは一度言い出したらなかなか曲げないから好きにしてもらう事にした。
ただ、その前に渡しておきたいものがある。
「それじゃあ、使者の相手はお願いね。……ただ、食後、渡したい物があるから待っててもらっていいかな?」
「いいですわ~」
「分かりましたぁ」
「他の皆にも渡したい物があるから、待っててね」
「何かしら~。お姉ちゃん、楽しみ!」
「土産物とかじゃねぇか? まあ、今日は特に予定がねぇから別にいいけどよ」
「私たちも残った方が良いのかしら、ご主人様」
「そうだね、残っておいてもらえると嬉しいかな」
ホムラとユキはお店の開店時間もあるし、さっさと物を渡さないと!
エミリーが一生懸命作ってくれたのに申し訳ないけど、ご飯をゆっくり味わう事はしないで、せっせと口の中に詰め込んだ。
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