354.事なかれ主義者は見てみたいだけ
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夕食後はいつも通りお世話係の人と入浴タイムだ。
本日のお世話係はレヴィさんとセシリアさんの二人。
今日も布面積の少ない過激な水着を着ているけど、極力見ないようにしていると乗り越えられる。
「今更な気がするんですけど……水着いります?」
「いるよ! 着てくれないなら絶対一緒に入らないからね!」
「むしろ水着を見たいからそう言っているのでは?」
「そういう訳ではないみたいですわ」
「人の心を読んで代弁しないでもらえますかね!?」
レヴィさんは最近お風呂に入る時は『加護無しの指輪』という魔道具を外している。外している間は常時加護が発動してしまうようで、今も心を読まれた。
外して良いよと言ったのは僕だけど、代弁してくれとは言ってない!
レヴィさんには伝わっているはずだけど、返答はなかった。
「水着の事より、最近の事を聞きたいのですわ~」
「最近って言っても、知っての通り世界樹育てながら魔道具を作ってるだけだよ? まあ、今日はちょっとガレオールに行ったけど、さっき話したし」
「魔道具作りは順調なのですわ?」
「んー……エミリーやエルヴィスたちにも話を聞いてるんだけど、なかなかいい感じのはできてないかなぁ。自重はしてるつもりなんだけど、どうしてもいくつかの魔法が付与された魔法陣が描かれちゃうみたいで、読み取れない事も多いんだよね。『ポケットクリーナー』は廉価版を作る事も出来たから、子どもたちのために衣食住の『衣』には多少良い影響を与える事はできそうだけど……」
「服自体に汚れが落ちる魔法を付与するのもありですが、汎用性が高いのはそちらでしょうね」
「そうなんだよね。服だったら一着ずつ全部に魔法陣を描かなきゃいけなかったから現実的ではなかったし、破れたり体が大きくなって使えなくなったりするからねぇ」
一家に一つポケットクリーナーがあればそれだけで洗濯は楽になるんじゃないだろうか。
……においが消えるかは試してないからわかんないし、気を付けないとしわくちゃの服を着る事になるけど。
うーん、と考え込んでいると両手を洗い終えたセシリアさんの手がスッと足に向かった。
「セシリアさん、足はダメだよ」
「……そうでしたね」
「セシリアは忘れやすいですわねぇ~」
「レヴィさん、お腹も駄目だよ」
「……そうだったのですわ? ちょっと忘れてたのですわ~」
レヴィさんをジト目で見ている間に、セシリアさんが両腕や背中に着いた泡をシャワーで洗い流していく。
気を抜くとどんどん洗ってもらう場所が増えてしまうので、体を洗ってもらう間は油断できない。
「後は自分でやるから二人は離れてて」
「分かったのですわ~。暇だから泡で遊んでいるのですわ」
「お供します」
二人が泡風呂の方へと行った事を確認してから、洗われていない箇所を洗っていく。タオルの下はチラッと二人の様子を見てからササッと洗った。
一通り洗い終えたところで立ち上がると、レヴィさんとセシリアさんはすぐに気づいた。
「今日はどのお風呂に入るのですわ?」
「そうだねぇ……。レヴィさんたちは入りたいお風呂は特にないの?」
「特に希望はないのですわ~」
「だいたい入りましたからね」
「そっかー。じゃあ、今日は普通のお風呂でいいかな」
いつも世話係の人に合わせて色々なお風呂に入ってるし、たまには普通でもいいでしょ。
湯船に浸かると、その両隣にレヴィさんとセシリアさんがやってきて挟まれた。
肩と肩が触れ合う距離に座られると狭いんですけど……。
レヴィさんをチラッと見るけどそっぽを向かれてしまった。どうやら都合の悪い心の声は聞こえない設定のようだ。
「お触り禁止でーす」
「近いですし、たまたま触れてしまっただけですよ」
「じゃあ触れないくらい離れてしまえばよろしいのでは?」
「ちょっと何言っているのか分かりませんね」
セシリアさんの右手が僕の太ももに触れている。
触れているって言うか、普通に揉まれてるんですけど?
セシリアさんをジトッと見ると、薄い青色の目が僕を見返してきた。
じっと見つめ合ったけど、根負けしたのは僕の方でした。
スッと顔を逸らしてレヴィさんの方を見る。
レヴィさんも、人の太ももの上に手のひらを載せてきていた。
そっぽを向いたまま何も言ってこない。
二人の手を無理矢理どける事もできるけど、少し前にそれをしたら触れたい二人と触れさせたくない僕の攻防が始まり、わざとではないけど二人の体に触れてしまったので大人しくしておく。
心を無にすればだいたい何とかなる……たぶん。
三人で仲良くお風呂に入った後は長い長い夜が待っていた。
単純に相手をするのが二人だから二倍だし、最近「いろいろ試すのですわ!」とあれやこれやと試されているのも時間がかかる理由だろう。
でも、翌朝はぱっちりと目が覚めて毎日気持ちのいい朝を迎える事ができる。それもこれも魔道具のおかげだろう。
「おはようございます、シズト様」
「おはよう、セシリアさん。いつも早起きだね」
セシリアさんは既にベッドの中にはおらず、ベッドの近くに立って僕とレヴィさんが起きるのを待っていたようだ。
メイド服に着替え済みの彼女は身だしなみが既に整えられていた。
短く切り揃えられた薄い青色の髪には寝癖一つついていない。
よくよく考えたらセシリアさんの寝顔を見た事がないような……。
…………セシリアさんはちょっと働きすぎな気がするし、今度レヴィさんに協力してもらおうかな。
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