幕間の物語172.若き女王はまじまじと見た
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海洋国家ガレオールを治める女王ランチェッタ・ディ・ガレオールの目の前に、植木鉢が並べられていた。
それは、先日やってきたヤマトからの商船にいつの間にか紛れ込んでいたとの事だったが、クレストラ大陸ではごくありふれた多肉植物だったため、害はないと船室に放置されていたはずだったが、いつの間にかガレオールの実験農場に紛れ込んでいたらしい。
誰が何の目的で運び込んだのかは謎だったが、厳重な検査の後に何も問題はないという事で、ひとまず実験農場に置いて様子を見る事となった。
ガレオールの実験農場の周囲には、潮風から植物を守るために防風林があった。
だが、それも万全ではないという事で、異世界転移者であるシズトが作った『防風結界』と呼ばれる魔道具が周りを囲っている。
農場のあちらこちらに『除塩杭』と呼ばれる魔道具が埋め込まれていて、農場で働く者が時折集まった塩を回収していた。
畑の土には、魔道具によって作られたたい肥が混ぜられたところと、何も混ぜられていない所があり、立て看板で区別できるようにされている。
すくすくと作物が育っている畑の様子を見て、ランチェッタは近くに控えていたこの実験農場の管理者である褐色肌の男に話しかけた。
「作物の様子はどうかしら?」
「今のところ順調です。たい肥を混ぜた物の方が成長は良いですね」
「成長促進の効果もあるのかしら? 材料は土と草だけなのよね?」
「そのようですね。魔道具に掛けられた何かしらの魔法が何かしらの影響を与えているんだと思うのですが……」
「どのような魔法か分かれば一番いいけど、別に分からなくてもいいわ。また何か変化があったら教えて頂戴」
「かしこまりました」
想い人であるシズトが作った魔道具の効果は自分の目で確かめたい、と実験農場まで足を運んだランチェッタだが、もう見るべきものは見終わったようだ。
他にも仕事が山のようにあるため、側付きの侍女であるディアーヌを連れてその場から去っていた。
その様子を防風林に潜んで見ている者がいたのだが、誰も気づく事はなかった。
実験農場の視察を終えた翌日。
ランチェッタは朝早くから仕事に励んでいたのだが、緊急の報せが届いたため慌てて実験農場まで出向いた。
今日は昨日と異なり、急遽農場に出向く事となったためドレス姿だった。汚れないように気を付けつつ農場まで急ぐランチェッタの周囲を護衛と侍女がついて行く。
実験農場につくと、そこには植えた記録のない植物が大量に生えていて、色とりどりの花が咲いていた。
その様子を困惑した様子で見ていた責任者がランチェッタに気付き、彼女の前で跪く。
「どういう状況なの?」
「ハッ。昨夜までは特に異変はありませんでした。ですが、先程私が来た時には既にこのありさまで……。芋しか植えていなかったはずなのですが、それ以外の植物が季節を無視して生えております。実ができている植物もありますし、ここら辺では生えていない珍しい植物もあるため一先ず放置しておりますが……魔道具の暴走でしょうか?」
「……それはないでしょうね。除塩杭もたい肥もそういう機能はないとシズト殿が言っていたわ」
「ご本人様が知らない魔法がかけられているとかは……?」
「ないとは思うけれど……後で手紙を書いておくわ。それよりも、畑で育てていた作物が無事か確認しに行きましょう」
「かしこまりました」
ランチェッタを護衛していた周囲の近衛兵たちが隊列を組みなおす。
その間にランチェッタは実験農場だった場所を改めて見た。
ガレオール周辺ではあまり見かけない植物が所狭しと生えていて、足の踏み場もない。
花や実をつけている植物もあるようだが、大部分は草しかない。
だが、その草も薬の素材として使われている薬草に似ていた。
ランチェッタはいろいろな品物を自分の目で見ていたため知っていたのだが、先頭を行こうとしている近衛兵は知らないようだった。
「止まりなさい!」
「踏んじゃ駄目!」
ランチェッタは鬱蒼と生えている植物を踏み固めて道を作ろうとしていた近衛兵たちに慌てて命じたのだが、彼女と同じタイミングでどこからか声が聞こえてきた。
その声はランチェッタ以外にも聞こえてきたようで、近衛兵はすぐさまランチェッタの周囲を固めていた。
だがそんな人間たちの様子など気にした様子もなく、草と草の間にあった細い通り道を通って姿を現した小柄な者たちが彼女たちに向かって忠告する。
「踏んじゃ駄目だよ、人間さん」
「畑荒らし? 畑荒らし??」
「ちゃんと道があるでしょ!」
「人間さんには狭いかな? でも草は踏んじゃ駄目! 私たちが育ててるの!」
いきなり現れた小柄な者たちが言いたい放題言っているが、人間側にも色々言い分はあった。
だが、ランチェッタが何も言わず、何事か考えている様だったため誰も反論しなかった。
小柄な者たちがどんどん草むらの奥から出てきて増えていく間も、ランチェッタは何も言わない。彼女はただ、現れた小柄な人族の子どものような見た目の幼女たちの頭の上に咲いている物に釘付けとなっていた。
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