349.事なかれ主義者はつい目で追ってしまう
いいね&ブクマ登録ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
日常生活であったら便利そうな魔道具を試作している間に時間は過ぎて、いつの間にかお昼の時間になっていた。
それを報せに来たのは狐人族のエミリーだ。
ノックをせずに扉を開けた彼女は、扉が開いた音に気付いて振り返った僕と目が合うとぺこりと頭を下げた。
「シズト様、そろそろお食事のお時間ですが、こちらでお食べになられますか?」
「んー……食堂で食べる人っている?」
「レヴィア様とドーラ様、セシリア様は農作業の合間に外でお食事されるそうです。ラオ様とルウ様はまだ帰ってきていないですし、ジューン様はトネリコで食事をしてくるとの事でした。ホムラ様とユキ様は夕方頃にお戻りになられると思いますので、シズト様だけになるかと」
「エミリーたちは?」
元奴隷ではないレヴィさんたちがいると食卓に着こうとしないけど、今日であれば一緒に食事をしてくれるかもしれない。
そう思って尋ねると、エミリーの尻尾がパタパタと揺れ動き始めた。
「シズト様がお望みであればご一緒させて頂こうかと思います」
「それじゃ、一緒に食べようか」
「かしこまりました。それでは、ノエルたちの食事の用意がありますので少々お待ちください」
エミリーは一度部屋から出ると、ワゴンを押して中に入ってきた。
ワゴンの上には片手で食べられるサンドウィッチが載せられていた。
「食事の時間だなっ。エイロン、飯にするぞっ」
「もうそんな時間か。お、今日も愛しのゴフッ!」
何か言おうとしたエイロンの腹部にエルヴィスが思いっきり肘打ちをしていた。
不思議に思ってその様子を見ていると、蹲っているエイロンを追撃しながら「なんでもないぞっ」と笑うエルヴィス。ちょっと怖い。
エミリーを見ると、二人のやり取りを気にした様子もなく、置物と化していたアダマンタイト製のちゃぶ台の上に食事を並べた後、ノエルの作業机の脇の方にも置いていた。
「それではシズト様、参りましょうか」
「し、シズト様いらっしゃったんだな……」
「馬鹿な事を言う前にまず周り確認しろよなっ」
蹲ってうめいているエイロンを見下ろしながらエルヴィスがため息をついている。
エミリーの後に続いて部屋を出る前に振り返って、もう一度ノエルの様子を見ると、丁度机の脇に置かれたサンドウィッチに手を伸ばすところだった。
作業をしながらだったけど、ちゃんと食事をとっているならまあいいか。
エミリーの後をついて歩いていると、エミリーの方から話しかけてきた。
「シズト様は、本日どのような魔道具をお作りになられたのですか?」
「既存の物だったら『埃吸い吸い箱』かな。改良して小さな家でも置けるように小さくしたんだけど、その分埃をため込んでおける容量が少なくなっちゃったんだよね。あとは、置くだけで室内の消臭をしてくれる物とか、アイロンもどきとか……」
エミリーの元気に動く白い尻尾を目で追いながら試作した物を列挙していくけど……そのほとんどが魔法陣を模倣できるか難しい所だ。
出来れば廉価版でもいいからノエルたちが量産できる生活が楽になったり豊かになったりする魔道具を作りたい。
魔動洗濯機やクリーンルームは真似する事が出来ないと言われたので、押し当てたらその部分だけ綺麗にする魔道具を作ろうと思ってアイロンもどきを作ってみたけど……あれも模倣は難しいかもしれない。
クリーンルームや魔動洗濯機と違って綺麗にするだけの効果のはずだから、もしかしたら廉価版を作成できるかもしれないけど……ノルマ達成後のノエルに聞いてみよう。
「私たちの仕事がさらに減ってしまいそうですね」
「その分余暇時間が増えるから好きな事ができるよ?」
「そうですか。でも好きな事と言われても特に趣味はないですし……シズト様がお相手してくださるなら退屈しないで済みそうですけど?」
「遊びの話だよね?」
「ええ、遊びの話ですよ」
「そうだよね。なんか獲物を見るような目で下半身を見たような気がしたからちょっと誤解する所だったよ」
「シズト様がお望みであればお昼でもお相手致しますが?」
「そういう話は日が暮れてからでお願いしまーす」
窓の外からちっちゃい子が見ていたらどうするんすか。たまにドライアドたちが覗いているんですよ。
階段を下り切って食堂に向かうと、既に狼人族のシンシーラが席に着いて待っていた。
ちゃっかり僕がいつも座る席のすぐ近くを陣取っている。いつもホムラがいる席だ。
「モニカはドランで来客対応で忙しそうだったじゃん。パメラにも声をかけたけど、別館で既に食事をしてしまったそうじゃん」
「そうですか。では、私たち三人だけですね」
「そういう事になるじゃん」
エミリーは一度食堂から出て行くと、しばらくしてからワゴンを押して戻ってきた。
ワゴンの上にはおいしそうな食事が並んでいる。
今日はミノタウロスのお肉を使ったビーフ(?)シチューとパン、それから褐色肌のドライアドたちにお裾分けされた採れたての野菜サラダだった。
一度戻ったのは温め直す必要があったかららしい。
「……保温機能が付いた何かを作るのもありかな」
そんな事を考えながら、エミリーとシンシーラの二人と他愛もない話をしながらお昼ご飯をのんびりと食べた。二人とも上機嫌なようで、尻尾はゆらゆらと動いていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。




