幕間の物語170.若き女王はしつこく言い寄られた
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シズトたちが転移した世界には五つの大陸がある。
大陸の往来をするためには、大小さまざまな魔物たちがひしめく大海原を行く必要があるのだが、魚人族や神の加護の力によって大陸間の交易は行われていた。
シズトたちが暮らしているシグニール大陸では、海洋国家ガレオールやドラゴニア王国が他の大陸との玄関口となっていた。
特に海洋国家ガレオールは海沿いにある国で、尚且つ近海に魚人族たちの国があったため大陸間の交易も盛んだった。
毎月、他の大陸からやってきた大きな船がガレオールの首都ルズウィックに停泊する。
船が付いたらまず最初に女王と対談する事が決められていた。
今日もまた、ガレオールの女王であるランチェッタ・ディ・ガレオールは玉座に座り、他の大陸からやってきた訪問者を出迎えていた。
暑がりの彼女だが、最近は露出がほとんどないドレスを好んで着ていた。シズトによって魔道具化されたドレスのおかげで汗をかく事なく過ごす事ができている。
だが、露出は少ないとはいえ規格外の大きさの胸部は隠せていない。
彼女の前に跪いているのは黒髪の少年だった。
その見た目でシズトの事を思い出し、つい頬が緩んでしまいそうになったが、首を軽く振って、気を取り直した。
「面を上げよ」
彼女に言われて顔をあげたのは、まだどこか幼さが残る顔立ちの男だった。
勇者の血が色濃く出ると幼く見える事を思い出し、見た目で判断しないようにしよう、とランチェッタは心の中で呟く。
「クレストラ大陸の『ヤマト』という国から参りました、大和修一です。麗しき女王陛下にお会いできて光栄の極みでございます」
「……ヤマト?」
「お察しの通り、王族です。ただ、婿養子みたいなものですけどね。僕の出身地はヤマトじゃなくて、異世界の日本なので」
「……そう」
「驚かれないんですね? だいたい勇者の子孫って思われるんですけど……ガレオールの女王ともなるとこの程度じゃ驚いてくれないか。いやー、それにしてもこれだけ美しい女王様がいらっしゃるのなら結婚する前にお会いしたかったです」
修一と名乗った男は、口元は笑みを浮かべていたが黒い目はランチェッタの体を舐めるように見ていた。
ランチェッタにとってはいつもの事だったので表情一つ動かす事なく、発言を聞き流した。
「前置きは良いわ。次がつっかえているから用件だけさっさと言いなさい」
「用件、ですか。特にないですね。そういう決まりとの事だったのでこちらに参ったので。ああ、でもランチェッタ女王陛下のような美しい御方に会えただけでも収穫はありましたね」
「私は全くないわ。今回渡航してきた理由を聞いてもいいかしら?」
「別に隠すような事でもないですよ。ただの商売と、人探しです」
「人探し?」
「ええ。なんでも、世界樹を育てる事ができる加護を持った同郷の者がこの大陸にいるそうじゃないですか。今は一度枯れてしまった世界樹を守り育んでいるそうですし、ちょっと僕たちの大陸の世界樹も助けてもらおうかな、と思いまして」
ランチェッタは表情を変える事もなく「そう」とだけ相槌を打った。
表情に出さないようにしつつ、ランチェッタは考える。
目の前の人物を、シズトに紹介するべきかどうか。
紹介しなくても、いずれ会う事になるだろう。シズトが拠点としているのはドラゴニアだという事を多くの者が知っていたから。
だからと言って安易に紹介しない方が良い、とランチェッタの勘が告げている。
「都市国家トネリコと隣接していますし、もしかして僕の同郷の者と面識ありますか? あれば紹介状でも一筆認めていただけると助かるんですけど」
「面識があったとして、こちらにどのようなメリットがあるのかしら?」
「そうですね。私との結婚とかどうですか? クレストラ大陸の中でも有数の大国ヤマトとのつながりを強化する絶好の機会だと思いますよ」
「話にならないわね。あなたの国内での立ち位置次第ではデメリットにもなり得るわ」
「交易船の代表者を任せられるくらいには重宝されていると思うんですけど?」
「加護を見込まれて、という可能性もあるわ」
「その加護を取り入れるチャンスでもあるじゃないですか」
「他国ならばその考え方もあるでしょうけど、少なくともガレオールには十分すぎるほど神々との縁があるから交渉材料にはならないわね」
ランチェッタはシュウイチが提示してくる条件を断りしつつ、シズトの事を考えていた。
(勇者がシズト殿に会いに来ている、という話を手紙に書くくらいはした方が良いわよね。面倒事になるかもしれないし)
そんな事を考えている間も、シュウイチは引き下がろうとしない。
「私、実はクレストラ大陸ではS級冒険者なんですよ。武力も財力も名声もガレオールのためになるのでは?」
「こっちの大陸にまで名声は届いていないし、S級冒険者だとしても財力はたかが知れているわ。安全かつ安定的に大金を稼ぐ力があるのであればまた話は別でしょうけど。なにより、武力というけれどヤマトもそれを見込んで王族と貴方の結婚をさせたんじゃないかしら。ガレオールとヤマトを同時に守るのは不可能でしょう?」
一個人の財力であればシズトには及ばないだろう、とかシズトの転移陣があれば両方守る事が可能だろう、とか話す度にシズトの影がちらつくのを表に出さないようにしつつ、ランチェッタはシュウイチの申し出を断った。
「これ以上話をしても平行線ね。時間も迫ってきているからここまでにしましょう。……ただ、このまま何も収穫なく帰ったら面目が立たないでしょうから、あなたが探している人物がどこにいるかは教えてあげるわ。基本的には北の大国ドラゴニア王国にいるけれど、三日に一回くらい都市国家トネリコに現れるわ。まずはトネリコに行って、世界樹の使徒の代行者に話をしてみるといいと思うわ」
「その方への紹介状とかは――」
「書かないわ。今までの私とのやり取りを振り返ってみなさい。書いてもらえると思うのかしら? 次から女性と話をする時は、せめてあからさまな視線を向けないように努力する事ね」
ランチェッタが合図をすると、壁際に控えていた衛兵たちがシュウイチを囲んで外へと連れて行った。
扉が閉まると、ランチェッタは深いため息を吐く。
そんな彼女に話しかけるのは、今までじっとしていた彼女の側付きメイドのディアーヌだ。
「お疲れさまでした」
「本当に疲れたわ」
「シズト様の事をお話になってしまってもよろしかったのでしょうか? あのまま帰してしまっても良かったのでは?」
「そうね。伝えるかは悩んだけれど、妥協点としてはそこしかないと思ったのよ。ただ、調べたらすぐに分かるとはいえ勝手にシズト殿の事を伝えた事はシズト殿に謝罪をしなきゃね。あと、彼についての情報も共有したいわ。手紙を書くから、次の者は待たせておいて」
「かしこまりました」
ディアーヌが出て行くのを見送り、ランチェッタは独り言ちる。
「クレストラ大陸にあるヤマトやエルフの国についても情報を集めさせた方が良いわね。いつかエルフが来るとは思っていたけど、まさか他国の者が来るとは思ってもいなかったわ」
だが、まずはシュウイチの事を伝えようと考えたランチェッタは、ありのままの印象を書くべきか、客観的な事だけに留めるべきか悩むのだった。
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