345.事なかれ主義者は遊びを見守った
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手漕ぎの小さな舟に乗ってのんびりと神社……じゃなかった教会に向かった。
人工的に作られた小さな島に、光の神様の教会があった。見た目は神社だけど、教会って名乗ってるから教会なんだと思う。
賽銭箱にお金を入れてお祈りを済ませたらとっとと街へ戻る。
小さな島には教会関係の建物しかないし、長居してトラブルに巻き込まれたくない。
船着き場に着くと、背負っていたクーが話しかけてきた。
「次は何するの、おにーさん」
「土産でも買うじゃん?」
「そうですね。広島って言ったらもみじ饅頭のイメージだけど、ありますかね?」
周囲を警戒していたジュリウスに尋ねると、彼は懐から取り出した数枚の紙をパラパラと見てから頷いた。
「もみじ饅頭と呼ばれている菓子はあるらしい」
「それじゃあそこに行きましょう。アイテムバッグがあるから、手荷物にもならないですし」
そのアイテムバッグを持っているのは使用人としてついて来ているシンシーラだ。
メイド服に似合うバッグのデザインにしてもらった方が良いかなぁ。
「入らないほどの大きさの物があれば、最後に買って帰るじゃん」
「別にあーしがいるから大きさなんて気にしなくていいよ、おにーさん」
自分を忘れるな、とクーが僕の首に回した手をキュッと締めてくる。
ホムンクルスのクーは、転移魔法について考えながら作っていたのが原因なのか、転移魔法を自在に扱える。
確かに彼女がいるならアイテムバッグも要らなかったかもしれない。
……クーは僕以外のために移動系の魔法を使ってくれないから、やっぱりいるかな? 全部僕の物って言えばやってくれるかな……?
もみじ饅頭などのお土産を買い求めたり、食事をしたりした後は街を散策した。
所々ある公園のような広場には滑り台やブランコがあるが、誰も遊んでいない。
小高い丘の上にある大きなお城の近くには遠くからでも分かる長い滑り台が見えるけど、使っている人は全くいなかった。
「遊具があるのに遊ばないなんて……飽きてるんですかね?」
「知らなーい」
「単純に余裕がないだけじゃん」
「ファマリアが特殊なだけで、他の街や村では小さな者ですら生きるために働いている。遊んでいる暇なんてないのだろうな」
「冒険者登録は一定の年齢になってからだけど、町の手伝いくらいはギルド側も認めているじゃん。ドランやその周辺では魔道具のおかげでたくさん貯金をする事ができるくらい稼いでいる子どももいるらしいけど、魔道具も何もなければ日銭を稼ぐくらいしかできないのが普通じゃん」
「親がいない子たちは分かりますけど、親がいる子たちも遊ぶ暇がないんですか?」
「遊んでいたら殻潰しっていって追い出されるじゃん」
「だいたい家業の手伝いをする事が多いらしい。長男以外は独立するためにも冒険者ギルドで町の依頼をこなしたり、大商人の所で働いたりだな」
そういうものなのか。
滑り台とか諸々作ったのはおそらく過去の勇者たちなんだろう。
どの遊具も丁寧に管理されているのかピカピカだ。
それがなんだかとてももったいない気がして、遊具を見かける度に少しだけ遊んだ。
お城の近くのローラー滑り台は、他の滑り台と違ってとても長く、スピードが出過ぎてちょっと怖かった。
日が暮れる前にファマリーの根元に戻ってきた。
ドライアドたちにじろじろと見られたけど、変装用の魔道具を止めたら纏わりつかれた。
「人気者じゃん」
「シンシーラ、笑ってないで下ろすの手伝ってよ」
「しょうがないじゃん」
尻尾を振りながら手早くドライアドたちを下ろしていくシンシーラと、それに対抗するように後から後から登ろうとするドライアドたち。
……遊び道具があればこんな事にはならないのでは?
そう思って屋敷と畑の間に、滑り台やらブランコ、雲梯、ジャングルジムを作ってみた。
先程まで遊んでいたから見た眼だけはしっかり真似る事ができた。
ドライアドたちは僕に纏わりついたまま興味深そうに見ていたけど、何をするものか分からないのか見ているだけだ。
目論見が外れたなぁ、と思いながらせっせと肩の上に登ろうとしてくるドライアドを下ろしていると、黒い翼をはばたかせて飛んできたパメラがジャングルジムのてっぺんにとまった。
「なんか変なものがあるデース!」
「シズトさま、これなーに?」
「これも魔道具かしら?」
パメラの後を追ってきたアンジェラと、リーヴィアが不思議そうに遊具を見ている。
「あれは魔道具じゃなくてただの遊具だよ。……でも、魔道具にしてもいいかも……?」
魔道具にするのならどんなのが良いんだろう?
んー、と首を傾げていると、いつの間にかドライアドたちが周りからいなくなっていて、ジャングルジムのてっぺんにいたパメラを目指していた。
最後まで頭にしがみ付いていたレモンちゃんを下ろしてホッと一息ついていると、シンシーラがにやにやしている。
どうしたの? と尋ねようとする前に、シンシーラは後ろに回って背中に飛びついてきた。
ドライアドたちよりもはるかに大きく重たいけど、なんとか踏みとどまれた。
背中に当たる大きな膨らみを意識から逸らして後ろを振り返ると、すぐそこにシンシーラの顔があった。
「いきなり何? 危ないじゃん!」
「ドライアドたちやクー様がご執心の背中がどんな感じか知りたくなっただけじゃん」
「せめて飛びつく前に声かけて欲しいんだけど」
「声かけたら断るじゃん?」
……まあ、そうっすね。
今もシンシーラは彼女自身の力だけで背中にくっついている。
「でもほら、私がくっついているからドライアドたちはシズト様に纏わりついて来ないじゃん?」
「……ほんとだね」
空気を読んでいるのか分からないけど、後からやってきたドライアドたちは僕をジッと見るだけで登ろうとして来ない。
ドライアドたちの習性はよく分からんなぁ、なんて思いながら、シンシーラに言われて仕方なく彼女の柔らかい太腿を両手で支えた。
その後は、アンジェラたちの遊びを見守りつつ遊び方を教えているといつの間にか夕暮れ時になっていた。
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