337.事なかれ主義者の夜は長い
高評価&いいね&ブクマ登録ありがとうございます。
「シズト様。こちらの手紙には魔法などの仕掛けはありませんでした」
食後のお饅頭をのんびりと食べている時に、ジュリウスが差し出してきたのはカガワの国の王様……国主からの手紙だ。
残っていたお饅頭を一気に食べて、おしぼりで手を綺麗にしてから手紙を受け取る。
封筒には達筆な文字で『世界樹の使徒様へ』と縦書きで書かれていて、裏返すと『香川真琴』と書かれていた。
「へー、カガワマコト、ってこういう風に書くんだ。漢字的に女性なのかな?」
…………あれ、漢字? 日本語で書かれてる?
表をもう一度見ると、日本語で『世界樹の使徒様へ』と書かれていた。
この世界の字は神様たちのおかげで問題なく読める事はできていたけど、日本語のように見えているわけじゃなかったから、漢字もひらがなも久しぶりだ。
「やはりシズト様はお読みになる事ができるのですね」
「まあ、僕がいた世界の字だからね」
開けられていた封筒の中から便箋を取り出す。
それを一通り黙って読む。
「……うん、面倒臭そう」
「何と書かれていたのですか?」
「都市国家トネリコに行くから会って話がしたいって。非公式でも構わないって書かれてるけど……」
ぶっちゃけこれ以上王様の知り合いを作りたくないっす。
そんな気持ちを察したのか、僕が手紙を読み終わるまで静かに座っていたレヴィさんが話に入ってきた。
「お断りするのですわ?」
「んー……断りたいけど、流石に王様だしなぁ。波風立てたくはない……」
断って逆恨みされるのは嫌だ。
会って話がしたいのも、祖先の故郷が今はどうなっているのか知りたいからってだけらしいし、そのくらいならいいかな、なんて気持ちも湧いて来る。
ただ、王様と会うと気疲れするし……手紙の方がしっかり考えて書く事ができるからそっちがいいけど、直接会って話がしたいって事だし……。
「んー……断りたい……けど、………とりあえず会うかぁ。場所や時間、条件はある程度こちらが決めていいらしいから、レヴィさん同席してくれる?」
「任せるのですわ! シズトと面会する前に話を聞いてもいいのですわ!」
「向こうの狙いが他にないか探る事は大事ですからね」
レヴィさんの後ろで控えていたメイドのセシリアが何度も頷いている。
きっとレヴィさんに作業着じゃなくてドレスを着せる事ができるから賛成しているのだろう。
レヴィさんは同席してもらうとして、他に誰か同席してもらった方が良いかな。
護衛は必要だよな、とラオさんたちを見たけど、首を横に振られた。
「護衛だったらアタシらよりジュリウスでいいだろ。後は近衛兵でも連れてけばいいんじゃねぇか?」
「そうねー。シズトくんの事をもっともーっと知るチャンスだけど、残念ながら先約があるから……同席したレヴィちゃんやセシリアちゃんに後で教えてもらうわ」
「記録頑張ります」
ルウさんはとても残念そうだけど、町の子たちのダンジョン探索に万が一が起きないように頑張って欲しい。
「私も行く」
「そうですわね。ドーラには私の専属護衛としてついてきてほしいですわ」
「ん」
「とりあえず、レヴィさんとセシリアさんの同席と、護衛が数人いる事を条件に会ってもいい、って返事を書けばいい感じ?」
「そうですわね。日付は向こうの移動時間も考慮していくつか候補日を出しておくのですわ。返事は日本語で書くのですわ?」
「んー、どっちでもいいんじゃない?」
日本語で書いた意図は少しでも僕が興味を持つように、って事だろうし。
何度読み返しても変な所は見当たらない。縦読みも斜め読みもできないしひらがなもしくは漢字だけ読んでも他に意図はなさそうだ。
レヴィさんはしばらく腕を組んで考えている様子だ。
胸が強調されるのでちょっと目のやり場に困る。
「では、書いて欲しい内容は私が考えておくのですわ。返事は明日、シズトが日本語で書いて欲しいのですわー」
「別に口頭で言ってくれれば今日書くけど?」
「シズトはこの後お風呂に入ってラオと一緒に過ごすのですわ。手紙を書いている暇なんてないと思うのですわ」
「別にアタシは気にしねぇけど?」
「夜の時間は出来るだけ平等にするのですわ! と、いう事でこのお話はおしまいなのですわ。早くお風呂に入る準備をしてくるのですわ!」
「あ、はい」
レヴィさんに急かされて食堂を後にした。
準備と言っても特にする事はない。アイテムバッグさえあれば着替えはそこから取り出せるからだ。そのアイテムバッグもモニカがすでに置いているだろうから、手ぶらで脱衣所へと向かった。
ラオさんは共用のではなく、ラオさん用のアイテムバッグを取りに戻ったけど、脱衣所にはすぐにやってきた。
ラオさんと一緒のお風呂は平和だ。
サウナを作ってからは僕の体をさっさと洗うとサウナと水風呂を交互に入っている。
僕も途中から参戦するけど、そこまで何度も入るのは無理だ。
先に上がって甚兵衛を着て、マッサージチェアに座りのんびりしているとラオさんが戻ってきた。
ラオさんが着替えている間は目を瞑ってのんびり過ごした。
「待たせたな」
「別にもっとゆっくりでもいいよ」
心の準備ができるから。
なんて言葉は心の内にしまってラオさんを見ると、バスローブを着ていた。
買ってきた浴衣はお気に召さなかったのかもしれない。
「ほら、さっさと部屋に戻るぞ」
「はい」
知ってる。無駄な抵抗をしたところで担がれて運ばれるだけだ。
それくらいなら大人しくついて行こう。
ゆっくりと歩くラオさんの後ろをついて歩いていると、ラオさんが歩く速度を落として肩を並べた。
「……気乗りしねぇなら寝るか?」
「いや! 気乗りしないとかそういうのじゃないから!」
「そうか。じゃあいいけどよ。今日はいろいろやるつもりだし、嫌だったら言えよ」
「…………お手柔らかにお願いしますぅ」
夜は今日もとても長そうだ。
……そのうち本当に枯れるんじゃないかなぁ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
気付いたら500話超えてました。
更新頑張ります。




