幕間の物語164.国主は話をしたかった
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ニホン連合は過去の勇者たちが興した国々の総称である。
勇者たちが存命の頃は、手を取り合い助け合ってそれぞれの国を運営していたのだが、それが今も続いているとは言えない状況だった。
信仰している神が同じ国同士の結びつきは強いが、異なる神を信仰している国とは仲が悪い事が多かった。
俗に『神隠し』と呼ばれる人攫いも古くから問題視されていて、自国の民には極力他国へは行かないように御触れを出している国もある。
シズトたちが現在訪れているカガワという国は都市国家トネリコと隣接しているニホン連合の国の一つだ。
海洋国家ガレオールや、都市国家トネリコへと向かうのであれば、このカガワという国か、トクシマ、エヒメ、コウチのいずれかの国を通る必要がある。多くの商人が行き交うため、商業が比較的盛んな国のうちの一つだった。
また、カガワの北には魔の森が広がっている事もあり、冒険者たちも多い。
国の兵士たちも魔の森で度々演習を行っている事から屈強な者が多かった。
特に魔の森の周辺の防衛を任されている北域将軍タダシ・カミタカの実力は突出しており、国主にも匹敵すると言われていた。
剣の神から加護を授かり、片手剣と盾を用いた戦い方は堅実の一言に尽きるのだが、他の将軍たちとの模擬戦では負けた事は一度もない。
将軍の中で最高齢の彼は未だに現役で、昨夜あった他国からの襲撃事件も即座に鎮圧していた。
タダシ・カミタカはカガワの首都サヌキにある城の一室で、昨夜の出来事を報告していた。
綺麗な姿勢で座ってその話を聞いているのは、カガワの国の主である香川真琴だ。
親子ほど歳が離れた若き青年は、タダシの話を一通り聞き終えると、ため息をついた。
「お主らを護衛に着けておいて正解だったな。下手に兵士を数人つけても、こちらにも被害が出てしまっていただろう」
「そうですね。流石に他国の主力部隊をこちらに差し向ける事はありませんでしたが、それ相応の実力者は派遣してきているようです。厄介なのは複数の国が襲撃に参加している事ですね。頭数が多いだけでなく、様々な加護を使ってきました」
「すぐに殲滅したお前が言っても厄介さは感じられんなぁ」
「そこはまあ、慣れです」
歳を経るごとに強くなり続けているタダシと後で模擬戦でもするか、と考えながら真琴は報告書に目を向けた。
襲撃してきた者の総数は四十人と、想定よりも少なかった。
カガワの四大将軍の実力は他国の者たちも十分知っているはずだ。
「少数で仕掛けてきたのは本気で事を起こす気がなかった、と捉えてよいのか?」
「難しい所ですね。こちらの油断を誘ってからカガワの領土のどこかで本命の襲撃があるかもしれません。ただ、昨夜と同じレベルの者たちを毎日送り続ける事ができるほど人員に余裕があるとは思えないですし……成功すれば儲けもの、程度にしか考えてないのかもしれません」
「目的は他にある、と?」
「おそらくそうでしょう。カガワで問題をわざと起こしてガレオールやドラゴニアと共闘し、我らを攻めようとしているのかと存じます」
「……どこも考える事は同じか」
都市国家ユグドラシルの紋章が付いた馬車が襲われればエルフの国ユグドラシルやトネリコだけではなく、後ろ盾となっているガレオールやドラゴニアが黙っていないだろう。
真琴はドラゴニアは遥か北の国だから問題はないと考えていたが、ガレオールから経済制裁される可能性は十分あった。
また、国境が隣接している都市国家トネリコからエルフたちが報復をしてくる可能性もある。
カガワの国として、ユグドラシルの馬車には何事もなく通過してほしかった。
「……護衛のエルフだけではなく、馬車の中にいた少女に気付かれたのは痛いな。世界樹の使徒に親しい者なのだろう?」
「そうですね。ただ、その少女は今日もエルフを連れて暢気に観光をしているようです。今日は新たにメイドを加えて、暢気に食べ歩きをしているとの事でした。その事を踏まえて考えると、世界樹の使徒様には報告がされていないのではないでしょうか」
「被害がなかったからと言ってその様な事があり得るか?」
「彼らの主であるシズトという少年はニホン連合を訪れるつもりはないのかもしれません。もしくは、訪れるつもりはあるが周りの者たちから止められているか……」
「………『神隠し』にあったら一大事だからな。ガレオールで営んでいる魔道具店とやらをこの国でも開いてほしかったが……」
「諦めた方がよろしいかと」
「だな。直接会って、ご先祖様の世界が今はどうなっているのかいろいろと聞きたかったのだが……それも諦めるしかない、か。……ご先祖様は、今後来るであろう同郷の者たちのために国を興したはずだったのに……どうしてこうなってしまったのだろうな」
若き王の呟きに、タダシは答える事はなかった。
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