332.事なかれ主義者は心配性
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うどんを食べ終わった後、僕は再びクーを背負って街を歩いていた。
お食事処でうどん屋さんが多いのは、この国の名前が『カガワ』だからだろうか。それとも、うどん屋さんが多いから『カガワ』という名前になったのだろうか。
どうでもいい事を考えながら歩いていると、街の人々の服装である事に気付いた。
街で店を開いている人たちの殆どは和服姿だったが、通行人たちは和服を着ていない者たちが多かった。
冒険者とかは革鎧だったり、体をすっぽりと覆うローブを着ていたりしている。
彼らと同じように、僕たちも和服は着ていない。普段着ていない服を着て動くのは大変そうだったから。
それに、世界樹の番人に変装するために揃いの衣装を着るなら和服じゃない方が違和感がなかった。
ジュリウスのように剣を身に着けてはいないけど、身の丈ほどある木の杖を持っている。
ドライアドたちが拾ってきた世界樹の大きな枝を少しだけ加工してそれっぽい形にしたその杖は、既に【付与】で魔道具化してある。
魔力を流せばヒーリングバリアという魔法を使う事ができるようになっていた。物理攻撃も魔法も通さない結界を張り、その中にいる者の傷を癒す魔法らしい。
まだノエルに見せてないけど、帰ったらねだられるんだろうなぁ。
杖を突きながらジュリウスの後を追って歩いていると、目的地が見えてきた。
大きくて真っ赤な鳥居が目印のそこは、この国で信仰されている剣の神様の教会……っていうか神社だった。
流石にクーを背負って境内を歩くのはどうなんだろう、と思ったので彼女を背中から下ろす。
それから三人でぺこりと一礼をしてから鳥居をくぐる。
クーが小さな手の平で僕の手を握ってきたので握り返すと、彼女は僕を見上げてニィッと嬉しそうに微笑んだ。
神様が祀られている所まで続いているのであろう参道の両脇には玉砂利が敷かれていて、所々に狛犬のような物が配置されていた。
犬じゃなくて狐だったので珍しいなぁ、なんて事を考えながら歩いていると、手水舎が見えてきた。
ジュリウスは提示されていた手順を見ながらやっていたけど、僕は知っていたので柄杓をそのまま持って……ジュリウスと一緒に手順が書かれた看板を見る。
きっと世界樹の番人の下っ端だったら手順なんて知らないだろう。今、僕は世界樹の番人の一人なので、ジュリウスと一緒に看板を見ながらやる事にした。
細長いタイプの竜の像の口から出る水が貯められた場所から柄杓で水を掬い、左手、右手の順番に手を清める。
それから口の中に水を含んですすぎ、ペッと吐いてから両手で柄杓を握り、持ち手部分を清め、元の場所に戻して軽く一礼をした。
近くで僕たちの様子を見ていた巫女装束の黒髪の女性が何も言わずにニコニコしているので問題なかったんだろう。
また、僕の様子を観察しながら真似していたクーもぺこりと一礼して何事もなく終える事ができた。
クーはすぐに僕の手を握ってくる。
「それでは、参りましょう。離れずについて来てください」
ジュリウスが再び先導するので、その後をクーと一緒について行く。
木造建築の社務所のような場所が見えてきた。
その建物から出てくる巫女装束の女性は全員黒い髪に黒い瞳だった。
お守りを売っている場所で座っている女性も男性も全員日本人のような容姿だった。
「彼らは国が管理している勇者の血を引く者たちですね。加護を持たない者たちが殆どですが、中には加護を持っている方もいます。ただ、この教会の加護であるとは限りませんが……」
珍し気に見ている僕に気付いたジュリウスがそっと呟くように教えてくれた。
教会は国が管理していて、日本人の特徴を少しでも持つ者がいたら囲い込み、加護がなければ教会で働かせているんだとか。
少しでも日本人の特徴を持っている者がいたら、『神隠し』にあう、と言われているが実際は国が囲い込むために人攫いのような事をしているんだとか。
他の国でも大なり小なり囲い込みはあるらしいけど、ニホン連合は過激だと言われるのは国主導だからだろうか。
また、日本人が先祖にいなくても加護を持っている者にはハニートラップ等ありとあらゆる方法で国に縛り付けようとしてくるらしい。
だから日本人っぽい容姿の者や、加護を持っている者で力のない者は極力ニホン連合には近づかない。
ただ、国に縛り付けられるけど生活は保障されるから食い詰めた者や楽な生活を送りたい者はわざとここに来る者もいるらしいけど……。
ここで働いている人たちは納得して働いているのかなぁ、なんてちょっと心配しながら歩いていると、大きくて立派な建物についた。
建物の前には賽銭箱が置かれている。
お賽銭を入れて、お祈りを済ませてすぐに退散しよう。
来た道を戻り、境内から出てほっと一息ついていると、クーが背中によじ登ってきた。
「それでは、すべきことを終えたので戻りましょう」
「分かりました。クー様、紐を結ぶのでじっとしていてください」
「はーい」
大人しく背中にしがみ付いているクーをおんぶ紐で固定すると、ジュリウスを先導にまた歩く。
クーたちが泊まっている旅館は、この街の中で一番高い高級旅館だったけど、クーは旅館の建物に入る事はなく、泊まっている馬車で寝泊まりしているそうだ。
本人曰く「落ち着くから」らしい。
馬車の中は彼女の私室のような感じになってきているし、彼女がそれでいいならまあいいか、と旅館には入らずに馬車が停められている場所に向かう。
真っ白な馬車の周囲には僕と同じような格好をした世界樹の番人が警備をしていた。
彼らは交代で旅館に泊まっているそうだ。
僕はクーのお気に入りのエルフ、という設定なので、クーと一緒に馬車に乗り込む。
馬車の中はクーが空間魔法をかけたのかちょっと広くなっていた。
色々私物が置かれ始めているけど、転移陣がクーのベッドの下にあるのは変わらない。
ベッドをどかしてクーと一緒にファマリーの根元へと転移すると、しばらくしてからジュリウスも転移してきた。
「お疲れさまでした、シズト様」
「ジュリウスもお疲れ。クーはこの後どうする? 屋敷に泊まってく?」
「あーしは馬車に戻ろうかなぁ。なんかあったら困るでしょー?」
「何事もないのが一番だけどね。あんまり一人で散歩しちゃだめだよ? 流石にドラゴニアとガレオールがバックにいる僕たちに手を出す人はいないだろう、ってみんな思ってるけど、そういう油断が命取りなんだから」
「お兄ちゃんは心配性だなぁ。あーしはいつでもどこでも転移できるからだいじょーぶだってー」
「万が一魔法が使えない状況になったら大変でしょ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。それじゃーそろそろ向こうに帰るね!」
そういうとクーは止める間もなく転移陣で帰って行った。
本当に大丈夫かなぁ。
……なんかフラグが立ったような気がする。
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