328.事なかれ主義者は段々慣れてきた
いいねありがとうございます。
ファマ様の教会の前に止まっていた白色の馬車に乗り込むと、馬車はまた町の中を走りだした。
普段は町の子たちが元気よく駆け回っているのに、今日は人通りがまばらだ。歩いているのは武装した自警団と、ドラン公爵から借りている駐屯兵くらいだ。
迷惑かけて申し訳ないけど、今日一日だけの事だから許してほしい。
……一日で全員分の結婚式をするって聞いた時には本当に終わるのか疑問だったけど、あんな感じで誓いの言葉とキスを交わすだけで終わりなのであれば普通に終わりそうだ。
馬車に揺られながら窓の外をぼんやりと眺めていると、だんだんと大きな建物が減っていき、個人が住んでいる建物が増えてきた。
鍛冶屋や木材を加工する工房がたくさん並んでいる中を馬車が進んでいる。
今向かっているのは加工の神プロス様の教会だ。
世界樹を中心に反時計回りに馬車が進み、だんだんとその教会が見えてくる。
金色に輝いているので遠くからでもよく分かる。
馬車に揺られながらしばらく過ごしていると、馬車が停まった。どうやら目的地に着いたようだ。
外から扉が開かれて馬車から降りる。
万が一のために服は魔道具化してるけど、汚したり破ったりしない方が良いに決まってるから足元に気を付けながらゆっくりと下りた。
眼前に建っているプロス様の教会は本当によく目立つ。
アダマンタイトでメッキ加工したこの教会を一目見にやってくる旅の者もいるくらいだそうだ。
教会まで続く道の端には、ドワーフたちが作ったのであろう工芸品が並べられていた。
雨風に晒される場所に置かれているけど、大丈夫かな? ……魔法で何とでもなるから気にしないのかもしれない。
いつも出迎えてくれるお喋りな女ドワーフたちはおらず、教会の扉の前で二人のドワーフの男性が待っていた。
彼らは無言で金色に輝く扉を開く。
中はアダマンタイトでメッキ加工していなかったからキラキラ輝いてはいなかったけど、ドワーフたちの技術を駆使して作られた細かな装飾がされた柱や壁、天井は見事な物だった。
今回の参列者は一人だけだった。
ドーラさんの親族という事で、ラグナさんが席に座っている。金色の髪を短く刈り上げた彼は、軍服姿だった。たくさんの飾りをつけたその姿を見ると、武功をたくさん挙げて来たすごい人なんだなと改めて思った。
そのラグナさんと視線が合うと、いつも通りの笑顔を向けられた。
笑顔を返したところで、ファマ様の教会に入る時にも流れたBGMが流れ始める。結婚式に参加した事はないけど、CMとかで聞いた事があるメロディーだった。
本日二回目という事で、先程よりも緊張が薄れているような気がする。
前を向いて教会に一歩足を踏み入れた。
こちらを見て待っているのはラグナさんたちだけではない。
司式者を任されたドフリックさんは、普段とは考えられないくらい真面目な顔をして僕を真っすぐに見ている。お酒を一滴も飲んでいないのか、赤ら顔じゃなった。
普段の様子を見ているとアレだけど、ドラゴニア内では有名なドワーフだから司式者になったんだとか。
シンプルな祭服を着た彼の近くには、五人の女性が並んで待っていた。
ホムラはいつも通り無表情だ。黒い髪は後ろで一つに結われている。ドレスの襟で首が覆われ、袖も長く、露出がほとんどない。スカートに膨らみはなく、ストンとしたデザインのドレスで、比較的細身の彼女の体のラインがよく分かる。
その隣にいたユキはホムラとは反対に露出が多い。Vネックのドレスで袖もなく、彼女の褐色の肌が白いウエディングドレスによってより強調されているように見える。
ドーラさんは上の方が細めで、腰辺りから裾にかけて少し広がっているドレスを着ていた。ウエディングドレスと聞いて思い浮かべる服だったけど、Aラインというタイプのものらしい。
ラオさんとルウさんはそれぞれ片方の肩だけにストラップがあるドレスを着ていた。ワンショルダーというらしい。ラオさんは右に肩紐があり、ルウさんは左にあった。体のラインが強調されるマーメイドラインを着ているせいで胸やお尻に視線が行きそうになるのをグッと堪える。
僕が彼女たちの隣まで歩いたところでBGMが止まった。
ドフリックさんが真剣な顔つきで神様に祈りを捧げた後、教会の中に響き渡る声量で問いかけを始めた。
「汝シズトは、ドーラ、ラオ、ルウ、ホムラ、ユキを妻とし、良き時も悪しき時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が分かつまで愛を誓い、妻たちを平等に愛する事を神聖なる婚姻の契約のもとに、誓うか?」
「誓います」
ファマ様の教会で言った誓いの言葉よりはっきりと言えた気がする。
まだちょっと汗が滲んでくるけど、二回目という事もありちょっと慣れたかもしれない。
ドフリックさんが一つ頷いて、今度はラオさんたちを見た。
「汝らドーラ、ラオ、ルウ、ホムラ、ユキは、シズトを夫とし、良き時も悪しき時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が分かつまで愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓うか?」
「「「「「誓います」」」」」
誓いの言葉が終われば、皆が見ている前で順番にキスをしていく。
ホムラとドーラさんはキスしても表情は無だった。いや、ドーラさんはほんのちょっと口角が上がった気がする。
ユキはいつも通りニコニコしていた。ホムラとユキはいつも通りで緊張とは無縁のようだ。
屈んでキスをしたラオさんはちょっと頬が赤くなっていたけど、何でもないような顔をしていた。この前初めてラオさんとした時も、次の日の朝はこんな感じの顔をしていた気がする。じっと見ていたら睨まれたので次に行く。
ルウさんはキスした後、思いっきり照れていたけど嬉しそうだった。夜は照れた様子もなくめちゃくちゃキスしてきたのに……まあ、状況が違うからそういうものか。
僕は……もう段々慣れてきている気がして、この世界の常識に染まってきたのかなぁ、なんて思いながら皆に見送られて教会を後にした。
最後までお読みいただきありがとうございます。
シズト視点のドレスの描写がちょっと難しかったので、余裕がある時に適宜修正すると思います。
ご承知おきください。




