幕間の物語159.ちびっこ神様ズは式を見ていた
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シズトたちに加護を与えた神々が住まう世界の片隅に、生育の神ファマと加工の神プロス、付与の神エントたちの領域があった。
以前まではこっそり使っていた場所だったが、下界で信仰が広まりつつあり、力を付けた彼らのために創造神から彼らの領域として与えられた。
彼らの領域には、三柱が住むには十分の大きさの真新しい建物が建っていた。
ファマの力で木材とする予定の木を育て、伐採されたそれらをプロスの力で加工し、それっぽい見た目になったその建物で三柱は仲良く生活していた。
そんな彼らだったが、今はそれぞれの部屋ではなく、リビングに集まってジッと水晶を覗き込んでいる。
リビングは彼らだけでは広すぎるのだが、ちょくちょくやってくる下界を覗く力もないほど力の弱い下級神たちが入っても狭くないように広めに設計されていた。
三柱の視線の先にある水晶には、シズトが映っていた。
真っ白な服を着せられた彼と一緒に並んでいる三人の女性は、それぞれデザインが異なる真っ白なドレスを着ている。過去の勇者たちが広めたウエディングドレスというものだった。
彼らの前では真っ白な布地に金色の刺繍がされている服を着たエルフの男性が何やら話をしているようだった。力を極力温存したい三柱は、音を拾わないようにしているようだ。
シズトたちはファマリアという町に建てられた教会で、どうやら結婚式を挙げているらしい。
司式者からの祈りを通して何が行われているのか事前に知っていたファマたちは、ジッと水晶を覗き込んでいた。
「まずはファマくんの所からみたいだね……?」
「いーなー。真ん中にいるのが王女様なんでしょ?」
「そ、そうみたいなんだな。い、いつも欠かさずお祈りしてくれる人なんだな」
「い~~な~~。プロスも熱心にお祈りしてくれる人欲しいなぁ~」
「シズトくんとあの人の間に子どもが生まれたら、加護をあげるの……?」
「そ、そのつもりなんだなぁ」
「無事に子どもが生まれるといいね……?」
「だいじょーぶだよ。人族はすぐ子どもが生まれるもん」
「なかにはなかなか出来ない人もいるんだよ……?」
「そ、そうなんだな!? ちゃ、ちゃんとできるといいんだな!」
神様たちが話している間にも式は進み、誓いの言葉とキスを交わすと、シズトは教会から出て行った。
三人の女性と別れたシズトは白色の馬車に乗り込んで街を移動している。
「次はプロスの番!」
「つ、机を揺らさないでほしいんだな」
机に手をつきながらその場でぴょんぴょんと跳ねるプロスが言った通り、水晶に映ったシズトは馬車を降りると金色に輝く教会に入って行く。
教会では既に大小さまざまな五人の女性が待っていた。彼女たちも先程の女性たちと同様、ウエディングドレスを着ている。
シズトがその女性たちの隣に立ったところで、水晶を操っていたファマが女性たちを水晶に映す。
「プ、プロスの方が多いんだな」
「誰かは子ども産みそう!」
「よかったね……?」
「ずるいんだなぁ」
「ファマには王女様がいるでしょ! プロスにはそういう人いないんだからちょっとくらい多くてもいいじゃん!」
「喧嘩はダメだよ……?」
いじけた様子のファマに対して頬を膨らませて抗議するプロスを、エントが宥めてなんとかその場は収まった。
気を取り直してプロスはジッと水晶に映る女性たちを見始めた。
それをしばらくじっと見守っていたエントだったが、誓いのキスを彼らがしたところでプロスに話しかけた。
「どの人の子どもに加護をあげるの……?」
「んー……どうしようかなぁ……。プロスも信仰が広まってるけど、ファマほどじゃないから慎重に選ばないと……」
「しっかり加護を使って、広めてくれる人だといいね……?」
二人がそんな事を話しているのを意図的に無視したファマが「シズトが移動するからおしまいなんだな」と言って、水晶に女性たちではなくシズトを写す。彼はまた馬車に乗り込んで移動するようだ。
馬車に乗せられた彼が移動した先は、二柱の教会と比べると外見は普通のどこにでもある教会だった。
シズトは馬車から降りて教会の扉の前に立つと、扉が誰も触れていないのに勝手に開く。
教会の中では先程と同じように、五人の女性がシズトを待っていた。今度の女性たちは種族がばらばらで、ウエディングドレスもそれぞれの身体的特徴にあった特注品だ。
先程までごく少数いた参列者も、教会の中にはいなかった。窓の外から覗いている子どもたちくらいだ。
「ま、またたくさんいるんだな! ず、ずるいんだなぁ!」
「もう! 王女様がいるからいいじゃん!」
「………」
口論をしている二人の仲裁をする事無く、エントはジーッと水晶を覗き込む。
ハーフエルフの少女は魔道具作りをしているが、お祈りはそれほど熱心ではない事を彼女は知っていた。
翼人の少女はそもそも祈らない。むしろエントたちのために供えられた物を横取りする不敬者だ。
狼人族の少女はお祈りはしてくれるが、一日おきだ。狐人族の少女は毎日やってくれるからこの子にするべきか……と考えたところで最後の一人、黒髪の人族の少女がエントの目に映った。
この中のだれよりも信仰心があつい少女だったが、エントだけではなく他の二柱に対しても祈っていた事を知っている。
「……難しいね……?」
「も~~~! ファマの馬鹿~~~」
「い、痛いんだなぁ。ぼ、暴力は良くないんだなぁ! エ、エント! た、助けて欲しいんだなぁ」
「エントも手伝って! ファマを懲らしめるんだから!」
「………」
切れたプロスがポカポカとファマを叩いているのに気づいた様子もなく、首を傾げてエントは考えた。
仲良しのファマがエルフだけに加護を与えたらどうなったか知っていた彼女は、結局式が終わるまで決める事ができなかった。
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