320.事なかれ主義者はサクッと直して回った
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世界樹トネリコのお世話をした後、僕はある人に会うために都市国家トネリコの中でも有名な旅館にやってきた。
ただ、旅館には入らず、馬車が停められている場所へ向かう。
僕の前を歩いていたジュリウスが振り返って、ある場所を指した。そちらに視線を向けると、真っ白な馬車が停まっていた。
「あちらにクー様はいらっしゃいます」
「旅館に泊まればいいのに……」
「寝泊まりをするのは馬車と決めているようで、他の者たちが説得を試みても悉く無視されているようです」
真っ白な馬車に向かって歩いていると、馬車の扉が内側から開いて、空のように青い髪の女の子がひょこっと姿を現した。彼女の橙色の目が僕を捉えると、にや~っと顔に笑みが浮かんだ。
「お兄ちゃんがわざわざここに来るって、あーしに何か用でもあるのかな~?」
「うん、ちょっと行きたいところがあって連れてって欲しい」
「いいよいいよ~、お兄ちゃんと一緒だったらどこへだって行っちゃうよー」
しばらく会っていなかったからか分からないけど、とても嬉しそうにクーがニコニコしている。
僕に背負ってもらおうと後ろに回り込んできたので、しゃがむとすぐに背中に体を預けてきた。
ジュリウスがアイテムバッグから出してくれた長い布をおんぶ紐代わりにして、ギュッと結ぶ。
「それで~? お兄ちゃんは、あーしにどこに連れてって欲しいわけ?」
「それ言ったらすぐにでも飛んでいきそうだから先に聞くけど、ジュリウスも一緒に連れてってくれない?」
「やだ」
即答でした。
「でも護衛が必要でしょ?」
「あーしがいるから問題ないに決まってるでしょ。あんた、文句あんの?」
「いえ、何もございません。シズト様の事、お願いいたします」
「あんたなんかに言われるまでもないし!」
「ジュリウス、本当にいいの?」
「はい。シズト様を安全な場所に移動させる点だけで考えると、私以上の実力者ですから」
なるほど。まあ、クーには転移魔法があるもんね。
ジュリウスは旅館に宿泊している世界樹の番人たちの様子を見てから屋敷に戻るとの事だったので、クーに行き先を告げて向かう事にした。
「それで? あーしはどこに連れてけばいいの?」
「獣人の国、アクスファースの首都スプリングフィルドまでお願い」
「はいはーい」
「……めちゃくちゃ遠いけど、だいじょ……うぶ、でしたね。ちょっと今度から転移する時は言って欲しいな」
お願いしている途中で景色が切り替わったかと思うと、見覚えのない場所にいた。
首都のどこかの路地裏に転移したようで、大通りでは獣人たちが闊歩している。
目を付けられる前にさっさと退散してしまおう。
僕に注意されて、ぶつぶつ文句を言っているクーにお願いし、もう一度転移してもらった。
転移先では、すでに僕を出迎える準備ができていたようだ。
何もない店内の真ん中に、逞しい体つきの大男が立って待っていた。僕たちがいきなり現れたというのに、動じた様子がない。
縦にも横にも大きい彼の名はライデン。
相撲について考えていたらそのイメージが定着してしまったのか、黒い髪は力士のように髷を結っている。着物を着たらそれっぽいだろうし、廻しを身に着けたらそれはもうどこから見てもお相撲さんだろう。
「シズト様、わざわざよく来たなぁ」
「ちょっと魔力に余裕ができたから、神様の像を作り直そうと思って」
アクスファースに設置していったエント様たちの像は、いまだに子どもの姿のままだ。
それに関して何か言ってくる事は今の所ないけど、本来の姿と違う姿が信じられてしまうと良くないらしい。
「なるほどなぁ。じゃあ、とりあえず教会に行くか?」
「そうだね」
ライデンの後について店から出る。
辺鄙な所にあると聞いていたけど、店の周りには真新しい建物がたくさんあった。
「ここって、都市の外縁部、だよね?」
「そうだなぁ。めちゃくちゃ端っこだぞ。近くには畑がいっぱいあるし」
「それにしては新しい建物がいっぱいあるね」
「何か知らんが増えたなぁ」
教会の影響か、それとも魔道具店の影響か……分からないけど、遠くの方で建設途中の建物もいくつもあった。
ただ、人影は全く見えない。
畑が近いって言ってたし、農作業をしに行ってるのかな。
誰もいない通りを横切って、店の真正面にあった教会へ向かう。
仲良く並んで建てられた三つの建物は、どれも似たような見た目だった。
ライデンが毎日掃除をしているのか、建物には汚れ一つなく、敷地内はしっかりと手入れされていて綺麗な花が咲いていた。
「全部管理するの大変じゃない?」
「別に大変ではないなぁ」
「そう? 転移陣の設置の許可がないから、ファマリアから人員の派遣はできないけど、お金使って人を雇ってもいいからね」
「今の所必要ねぇけど、人手が足りんくなったらそうする」
教会の中も塵一つ落ちてない。
まあ、これは埃吸い吸い箱のおかげだろう。
窓も像もピカピカなのは、ライデンがこまめに掃除をしてくれているからだろうけど。
三軒の教会にそれぞれ祀られていた神様の像を作り直して、ちょっと成長した姿にしておく。
それから念のためお祈りをしてみたが、神様たちから何か言われる事はなかったので、問題ないようだ。
「それじゃ、他の町に設置した像も修正したら帰るね。また何か困った事があったら教えてね」
「特にそういうのはないだろうけどなぁ」
ぼりぼりと頭を掻いているライデンに見送られ、僕はその場を後にした。
その後は、クーに協力してもらって、ユグドラシルの馬車が通った事がある村に転移し、像の微修正をし続けた。
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