幕間の物語155.猫耳少女は膨れっ面
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ドラゴニア王国の最南端の町ファマリアでは、つい先日、料理大会が行われた。
一般の部と、奴隷の部に分けられたその大会の優勝賞品を目的に、腕に覚えのある多くの料理人がファマリアに集まってきた。中には国を越えてやってきた者もいたという。
一般の部は売上金額、提供した品数、審査員による採点で上位入賞者を決めるものだった。
赤字覚悟でサクラを雇った商人もいたらしいが、残念ながら入賞する事はなかったようだ。大会のルールに記載されていなかったため店名を公表するなどの罰則はなかったが、審査員はサクラを雇った店を把握していた。
多かれ少なかれサクラを雇っている者がいた事に、審査員たちは驚いている様子だったが、十位以内に入賞した場合は新規出店できる事がそれだけ魅力的だったのだろう。
「いやー、びっくりだよねー。十位以内に入るなんてできないって思ってたけど、キースのおかげで入れたよー。ありがとー」
「………」
猫耳少女のランと彼女の事が好きな人族の少年キースは、上位入賞者のために用意された宿の一室で過ごしていた。
好意を寄せている相手に抱き着かれたというのに、キースは難しい顔で床を睨むように見ていた。
「どうしたの、キース? お腹痛いの?」
「別に痛くない! そんな事より、ランは疑問に思わなかったの? シズトとかいう人が来てから一気にお客さんがやってきたし、その翌日以降も休憩する暇なかったし」
「えー、お母さんたちが頑張って知名度を上げてくれていたおかげじゃないかなぁ」
「いや、それもあるけどさ……シズトとかいう人の差し金でしょ。ランにこの町で商売をさせようとして、奴隷たちに毎日食べるようにお金を握らせたに違いないよ!」
「えー、そんな事しないと思うけどなぁ」
「いーや、するね。そういう顔してた。絶対弱みを握って、あんな事やこんな事をランにさせるつもりなんだ!」
紫色の髪をガシガシとかいて、「対策を練らないと!」と腰かけていたベッドから立ち上がって近くを行ったり来たりし始めたキース。
ランは上を向いて少しの間考え――。
「それはないなー」
「どうしてそう言い切れるのさ!」
「お兄ちゃんに限って、それはないよー。たくさんの女の人が周りにいたけど、まったく手を出さなかったしー」
ランはシズトが自分に酷い事をしている所を想像しようとしてみたが、どれだけ考えても脳内に思い描く事は出来なかった。
心配性だなぁ、なんて暢気にしていたランだったが、部屋に向かってくる足音に反応して耳がピクピクッと動く。
ランの視線の動きに気づいたキースも、ボサボサになった髪の毛をすぐに整えて、部屋の入口の方を見ると、扉がノックされた。
「どうぞー」
「失礼するのですわ」
侍女に扉を開けられ、中に入ってきたのはドラゴニア王国の第一王女であるレヴィア・フォン・ドラゴニアだった。
シンプルなデザインの青いドレスを着たレヴィアを見て、ランはジーッとある一部分を見ていた。だが、レヴィアは慣れている様子で気にした様子もない。
指輪に紐を通して首からぶら下げていたレヴィアは、室内をぐるりと見渡した後、二人に視線を戻して口を開いた。
「お待たせして申し訳ないのですわ。『猫の目の宿』のランさんとキースさんで間違いないのですわ?」
「………」
「おい、ラン。返事」
「え?」
「はぁ……はい、僕たちが『猫の目の宿』のランとキースです。王女殿下直々にこのような場所まで足を運んでいただき光栄の極みです」
「別に気にしなくていいのですわ。王女と言っても公務はほとんどした事がない名ばかりの王女ですもの。直接会って話した方が都合がよかったから私自ら今後に関して説明しに来たのですわ」
首飾りにしている指輪を手で弄りながらそう言ったレヴィアは、そのまま室内に置かれていた椅子に腰かけた。
その対面に座るように促されて、キースがソファーに腰かける。ランはキースに引っ張られて隣に座らされていた。
「まずは意思確認をさせてもらうのですけれど……この町ファマリアに新規出店する意思はあるのですわ?」
「そうですね。いくつか質問してもよろしいでしょうか」
「別にいいのですわ」
「……出店する店は飲食に関する物でしょうか?」
「そうですわね。料理さえ提供してもらえるなら宿をやろうが何をしようが好きにすればいいのですわ」
「なるほど。……僕たち二人で店を出さなくちゃいけないんでしょうか? ランはドランにある宿の一人娘なので……」
「キース?」
ボーッとしていたランだったが、キースの発言に思う所があったのか、口を挟もうとした。だが、キースがランの手の上に手を重ねて止める。
「一人でも店を回せるなら問題ないのですわ。もし必要であれば、町の奴隷を貸し出しという形で派遣もするのですわ。ただ、その場合は奴隷の扱いなどに関して別途契約をしてもらう必要があるのですわ。あと、接客や調理などを任せるのならそこら辺の教育もしてもらう必要があるのですわ」
「……店に関してはある程度希望を聞いてもらってから建てていただけるんでしょうか?」
「告知していた通り、建物は希望する物を建てるのですわ。それに、他の商人たちから貰っている土地の貸出料も不要ですわ。ただ、お金がかからないだけで、借地である事を忘れないで欲しいのですわ。何か問題を起こしたり、飲食を提供しないなど契約に反する事をしたりしたらいつでも取り上げるのですわ。努々忘れないようにしておいて欲しいのですわ。あとは、この町はまだ未完成の町ですわ。開発計画によっては移転をお願いする可能性もある事も覚えておいて欲しいのですわー」
「分かりました」
レヴィアの近くに控えていた侍女が数枚の誓文書と呼ばれる紙を置いた。
それに一通りを目通したキースは、問題がない事を確認するとサインし、血判を押す。
「数日後に必要事項を記入した書類を持参して迎賓館に来てほしいのですわ」
「わかりました」
部屋から出て行くレヴィアたちをキースが見送り、扉が閉められたところでそれまで大人しくしていたランが膨れっ面になった。
「どうしてランを仲間外れにしようとするのー!」
「いや、普通にランは親御さんの許可必要でしょ。僕は別にそこら辺は問題ないのが分かってるけどさ、ランは一人娘でしょ」
「む~~~~~」
「そんな顔してもダメ。一度ドランに帰って話をしてくる事! もしダメって言われて僕一人になっても多分大丈夫だから気にしないで。その場合は店の名前も変えなきゃいけないけど、問題ないみたいだし」
「キースはランがいると邪魔なのー?」
「じゃ、邪魔な訳ないでしょ! ただ、大事な事だから家族としっかり話した方が良いってだけ!」
「キースだって家族に話してないじゃん!」
「僕は来る前に万が一があるかもしれないからって話してあるから大丈夫なの! それに独立するって言えば文句言うような親じゃないし。兄はなんか言ってくるだろうけど、ほっとけばいい。とにかく! ランは親御さんと仲が良いんだからしっかり話し合ってきて!」
キースの様子を見て、ランはこれ以上何かを言う事は諦めた。華奢で女の子みたいな見た目の頼りない感じがするキースだが、一度決めるとなかなか意見を変えない頑固な一面がある事を長い付き合いで知っているからだ。
両親の事も好きだった彼女は、言われた通り一度ドランに帰って、報告をする事にしたのだった。
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