315.事なかれ主義者はリアクションを考えた
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朝、目が覚めると眠気をすごく感じる。シャキッとした目覚めではない事に違和感を覚えつつ、久しぶりの感覚に微睡んでいると、もぞもぞと近くで何かが動く気配を感じた。
目を開けると赤い髪の毛がまず見えた。それから、赤い瞳と目が合う。赤い瞳の女性の目が細められ、口元も綻ぶ。
「おはよ、シズトくん。誕生日おめでとう。今日はお寝坊さんなのね」
「……安眠カバー、返してくれなかったからっすね」
「チュー以上の事をしてくれれば返したのになぁ」
「僕からできる事はそれが限界っす……」
「もう結婚したのに?」
「寝る前までは昨日というカウントですのでぇ」
「じゃあ寝て起きた今は夫婦って事かしら? 朝からしちゃう?」
「遠慮させていただきますぅ」
ゴロゴロと掛布団を巻き込んで転がってルウさんから距離を取る。
掛布団の下から現れたルウさんは魅惑的なランジェリー姿だった。スケスケのその服は胸の部分がとても開いていて目の毒だ。
いや、わかるよ? そういう事を今まで待って貰ってたから結婚しましょうって言ったらそうなるって事は分かってたよ。
ただ誕生日を迎えた後に、と思っていたから心の準備ができていなかったというか……緊張しすぎたからか分からないけど、たたなかったというか……。
いや、たっていたら手を出したかと問われればなかなか難しい質問で、いろいろ他の人の事とか諸々考えると……僕からできるのはやっぱりキスが限界だわ。
結婚の申し込みの際にラオさんから順番が大事と言われたけど、こういう事もやっぱりレヴィさんからするべきなのだろうか……分からん。
分からないけど、これ以上ゴロゴロしていても仕方がないので、ルウさんには出て行ってもらった。
さっさと着替えて部屋から出ると、モニカが待っていた。その後ろには別館で寝泊まりしているエルフのジュリーンと、ダーリアが控えている。ジュリーンは背筋を伸ばして綺麗な姿勢で立っていたが、ダーリアは欠伸をしてしっかり立っていない。とても眠たそうだ。
「おはようございます、シズト様。お誕生日おめでとうございます。昨夜はお楽しみでしたね」
「キスしただけですけど!?」
「そうなんですね。では……お布団の洗濯は不要ですね」
モニカが後ろに控えていた二人に目配せをすると、ジュリーンはダーリアを引っ張って他の人の部屋に入って行った。
……つまり夜の運動会をしたらもれなく、異性の使用人に掃除をされる、と。
「魔道具作るか」
「……なんとなく思考の流れは想像できますが、彼女たちの仕事をこれ以上取り上げないでいただけると幸いです。ただでさえ仕事がなくて自分の畑を弄っている事の方が多いんですから」
「他の事に関しては別にいいけど、こればかりはちょっと……」
結局、モニカはそれ以上何も言わなかった。
とりあえず洗濯機を作るか。……いや、浄化の魔法を何かしらに付与すればそれで済む話か?
敷布団とか部屋にあるすべての物に直接付与しちゃえばいいけど、何かしら洗うための魔道具にした方が汎用性は高いだろうし、世界樹の世話をした後に作るか。
とりあえず、食事でもしよう。
そう思って食堂に向かった。
食堂はいつもと違ってほとんど人がいない。
ラオさんもルウさんもレヴィさんもドーラさんも誰一人残っていない。
給仕をするために、エルフのジューンさんだけが部屋に残っていた。
彼女は僕の婚約者の一人で、都市国家ユグドラシルの代表代理と都市国家トネリコの代表代理を兼務している。それに加えてエミリーの手伝いを時々しているというのだから頭が下がる思いだ。
エルフらしからぬ体型をしている彼女は、来た当初は猫背でいる事が多かったが、今では背筋を伸ばして過ごしているから大きな二つの膨らみがよく分かる。腰はキュッと引き締まっていて、お尻周りがまた膨らんでいるからタイトな服を着ると体のラインに目が奪われてしまう。
今日は特にエルフの国に行く予定はないみたいで、ダボッとした服を着ているからあんまり気にならないんだけどね。
「お誕生日おめでとーございますぅ。朝ご飯はぁ、いつもの時間に起きる様子がありませんでしたからぁ、いつもと同じですぅ。ごめんなさぁい」
「全然いいよ。僕が寝坊したのが悪いし。……いや、もとはといえばルウさんが悪いんだけど、まあいいか。みんなはどこに行ったの?」
「ちょっと話し合いたい事があるらしくてぇ、談話室にいますぅ。シズトちゃんも行きますかぁ?」
「特に呼ばれてないし、行かなくてもいい感じかな?」
「どちらでも問題ないと思いますぅ」
「じゃあファマリーのお世話をしようかな。そのあと作りたいものがあるから呼ばれない限りはノエルの部屋にお邪魔しようかなぁ」
「ノエルちゃんもぉ、今談話室にいますぅ」
「ノエルも? ……あー、僕の誕生日を祝う準備とかそんな感じ?」
「……それもあると思いますぅ」
「他に何かあるの?」
「ありませんよぉ?」
「変な間みたいなのがあった気がするけど」
「私の話し方がぁ、こんな感じだからぁ、そう感じたんじゃないですかぁ?」
そうかな。……そうかも?
まあ考えても仕方ないからいいや。大事な話だったら後から言ってもらえるだろうし。
ジューンさんは僕の食事が終わったら片づけをして、談話室に集まっている皆の所に合流するらしい。
誕生日を祝ってくれるのは嬉しいけど、ほどほどにしておいて欲しいなぁ。
そんな事を思いながら、のんびりとご飯を食べた。
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